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夏。冷房を付けていても全然暑い朝、全身鏡の前で1周くるりと回る。
改めて。中学の夏服……セーラー服の可愛さにうっとりとして、もう1周目に入ろうとした時。下の階から「夏海ー?時間大丈夫なのー?」と心配する母の声が聞こえた瞬間。血の気が引くような嫌な気がしつつもゆっくりと時計を確認すると、時刻はとっくに8時を回っていて、学校を出なければ行けない現実にぐったりとした。
「行ってきま〜す!!」
朝ご飯はとっくに食べていたから、食パンを加えながら登校…なんて事にはならず。自転車30分程の道のりを、立ち漕ぎで通り過ぎる。普段は45分位には家をでて、ゆっくりと学校へ向かうのだけれど。あまりにも遅すぎた。
(ええと、30分には朝礼が始まるから…)
みーんみんみん……
煩い蝉の鳴き声のせいか、暑さのせいなのか。思考が途切れ途切れになり、段々とどうでも良くなる。
(とにかく走って、走りまくって…)
遅刻した時は、その時。
素直に謝ることにしよう、と小さな決意をして、漕ぐペースは上げながらも辺りを見渡した。
疲れるぐらい暑いし、しんどい季節だけれど。こうやって辺りを見渡せば、綺麗なものがたくさん見つけられる。
例えば、山と山との間に見える太陽とか、光に照らされて葉の間から光が漏れ出てる元の影。
電柱に止まっている鴉や雀
青い空にもくもくと綺麗な白い雲が映えて、すっごく綺麗。
(ぁ…夏って感じ。)
夏特有の季節を、感覚を。
いつまでも、覚えていたいから。
こんな感覚を覚えたのは、何時だったか。
そんな結論も出ない疑問が頭に浮かびつつも、夏の風に身を任せる。
「人ってね
凄く綺麗なのよ。 」
ーそう、声がした。
頭の古く片隅に残された記憶のようで、いくら掻き出そうとしてもこれ以上思い出せない。
それに、昔の記憶だとて…こんなセリフどこで聞くのかも分からない。
(気の所為か。)
きっとそう。
よくある現象じゃないだろうか。
漫画でみたセリフとか、ドラマで聞いたセリフが刷り込まれて
まるで自分が経験したかのような感覚に陥る
あの現象。
「…はぁ〜…あつ。」
日射が照らし、暑さが増してきたので少し立ち漕ぎで学校への道のりを踏む
ー。
「ナツったら、また遅刻なんね?」
「今月で何回目だっけ」
「まだ1回!確かに先月は3回ぐらい遅刻したけど…。。」
友人の、真奈と美羽。私が着いたのは1時間目の途中で、2人は授業が終わるや否や席へと尋ねてくる。
海藤 真奈、原 美羽…そして私、二乃 七海。
私達は仲良し3人組で、幼なじみ。と言っても、こんな田舎なら皆幼馴染なのだが。
ー東京、とはいえ田舎の方。
東京都心辺りまでは電車を乗り継いでも2、3本ぐらいで…近くには登山客の方々が訪れる観光名所も多々ある。
だから割と、そんなに寂しすぎる訳では無いのだけれど。やっぱり、高齢化は進んでいるようで
小さい頃は人が沢山居た気もする隣町は、更に隣の町と合併されたようだし。
私達がよく行ってたイオンモールも、最近は少しガラガラだ。
人が少なくなっていく、という現実はまだあまり実感は湧かないけれど
公民でもやったし、やっぱりもう身近なんだろう。
「ナツ…ナツ!聞いとる?」
「ぁ、ごめん」
「もう、ナツったらマイペースなんだから」
「真奈がしっかりし過ぎなだけやし。。。
ね、美羽」
「まぁ…五分五分かね笑」
「えー……」
「それで、何だったっけ?ごめん」
「野村くんとこのおばさんから聞いたんだけどさ、”九宮神社”、移転しはるみたいよ」
「移転!?」
「そう、なんか、連年の大雨とか災害がさ、今までより酷いけん。土砂崩れ警戒地域に指定されたんだってよ」
「へぇ…それはまた…。」
「あ、そうそう。それでうちも引っ越さないと」
「え、美羽ん家も!?」
「そう、ギリギリ引っかかてね〜」
「あー、近いもんね…」
九宮神社(くみやじんじゃ)は、美羽の家の近くの山…美羽の家の裏手の山にあり、少し登ったところにある。一体何年前に造られた神社なのかは分からないが。
夏になるとそこに屋台が開かれたり。
普段は下の方に空き地と急な坂が広がっており…みんなでダンボールを持ってきて滑り降りるのが、 ここら辺の当時の小学生はみな通る道。
かくいう私も、近い(とはいえ都市部からみた近所に比べればだいぶ距離はあるものの)ため、よくここで滑っていたり、お祭りを楽しんでいた。
一体どこに移転するのかは分からないけれど、思い出の場所が無くなるのは少し寂しい。
最後にお祭りへ行ったのはまぁ昨年で__。
その移転とやらはお祭りより前なのかな。
後だとしても、開催しないかもだけれど…。