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愛しているの答えに愛しているとリディアは返してくれた。その瞬間、ディオンはそれはもうこの上ない程に歓喜した。だが直ぐに冷静になった。リディアの事だ、きっと家族愛と言う意味だろうと。
彼女から愛して貰えるなら、兄に対する愛でも構わない……。だが欲を言えば男として愛して貰いたい。ついこの前までは兄としてでも側にいられたらなどと考えていたが、いざ愛してるなどと言われたら更に欲が出た。我ながら浅ましいと思う。
「ねぇ、ディオン。妹ちゃん元気~?」
鍛錬の休憩のひと時。
ディオンが汗を拭っているとレフがまた下らない事を言い出した。
「……レフには関係ないよ」
冷たく遇らうとレフは愉しそうに笑った。
「僕さ、実は妹ちゃんに結婚申し込もうかなって思ってるんだよね~」
最近は大人しくしていたかと思ったら懲りない奴だ。どこまで本気なのか冗談なのは分からない。ただ魂胆は分かっている。レフはディオンの反応を見て愉しんでいるのだが、そんな事はどうでもいい。レフからの嫌がらせなど慣れている。普段なら適当に受け流す。
ただリディアに結婚を申し込むなどと言われれば、はらわたが煮え繰り返りそうになる。黙ってなどいられる訳がない。
ディオンはレフを睨み付けた。
「そんなの、俺が認めるわけないだろう」
「何でディオンの許可が必要なわけ? 妹ちゃんの幸せを邪魔するの?」
「何が幸せだよ。お前と結婚する事が一番の不幸だ」
「えー、その言い方は酷いよ! 訂正して」
「俺は事実しか言ってないよ。兎に角、グリエット家の家長は俺なんだ。あれの身の振りは俺が決める。部外者は口を出すな」
◆◆◆
険悪な空気が流れている。
ルベルトは、二人の少し離れた背後でため息を吐く。レフを見ていて、本当に懲り無い奴だと思う。だが毎回、ディオンに冷たく遇らわれてはめげない所は称賛に値する。少し前には、遂には髪まで切り落とされたと言うのに……。
ルベルトには到底真似は出来ない。いや、したくはないが。だが何故、あんなにレフはディオンに突っかかるのかが分からない。
ルベルトより歳下の二人。三人の中で最年少のレフはまだまだ子供の様に感じる。そのレフより一歳歳上のディオンは逆に昔から随分と大人びていた。対照的な二人だ。馬が合わないのは理解できる。それでも何故か、レフは昔からディオンの後ろをついて回る。ディオンはディオンで、煙たがりながらも側にいる事を赦している。あの二人とは付き合いは長いが、未だに二人の関係性が理解出来ないでいる。
(……もしかして、実は仲が良いのか)
喧嘩する程仲が良いとも言う。ルベルトはディオンとレフが微笑み合いながら仲良く手を取る様子を思い浮かべた。
「……」
瞬間背筋にぞわぞわと悪寒が走る。
変な想像をしてしまった……気色が悪い。ついでに胃も痛い気がする。
「二人共、それくらいにしておけ」
何時迄も傍観している訳もいかず、ルベルトは巻き込まれる覚悟で間に割って入る。
「ルベルトには、関係ないんだから黙っててよ」
「ルベルト、お前は黙ってろ」
案の定、二人はルベルトを一喝してくる。
どうしてこういう時だけ息がぴったりなんだと、げんなりする。
これでも二人より七歳程歳上なのに……扱いが酷過ぎる。歳上を少しは敬う気持ちはないのだろうかと思うが……十中八九この二人には無理だろうと思い直す。
ルベルトはやはり胃が痛いと感じた。残念ながら気の所為ではなかった。
(後で医務室で、胃に効く薬でも処方して貰うか……)
そう思い深いため息を吐くのだった。