⚠注意⚠
他の実況者出てきます。
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次の日、昼休み。
グラウンドからは金属バットの
音が響いていた。
こさめは、購買で買ったスポーツドリンクを片手に校庭へ向かっていた。
(すっちー、いつも練習がんばってるし……これくらい渡してもいいよね)
胸の奥がどきどきして、
手の中のペットボトルが少し汗ばんで
滑りそうになる。
──だけど。
グラウンドの隅にいたすちの隣には、
見知らぬ女子が立っていた。
小柄で、髪を結んだ可愛らしい子。
しかも、笑いながらすちのユニフォームの
裾をつまんでいる。
「え、…?」
こさめは立ち止まる。
その瞬間、女子がすちの肩に手を置いた。
すちは驚いた顔をしながらも、
軽く笑っていた。
(……なんで、そんな顔、
俺には見せてくれないの)
喉が締め付けられる。
声も出ないまま、
手の中のペットボトルを 見つめた。
(渡せない……)
振り返って歩き出すこさめ。
校舎の陰に入った瞬間、
ポタ、っと雫が落ちた。
雨じゃない。頬を伝う涙。
「…ほんと、俺って馬鹿だな」
教室に戻ったこさめは無理に
明るくしていた。
みことやLANたちが話しかけてくれても、
笑顔の裏でどこか無理をしているのが
わかる。
そんな中、廊下を歩いていたすちが
たまたま耳にした。
「こさめちゃん、最近ずっと元気ないね」
「昨日もグラウンドの方行ってたけど、
すっちーと話した?」
「……いや、見たけど……楽しそうに女の子と話してたから」
すちはそこで立ち止まる。
(女の子……?)
心の奥に、小さな違和感。
その“楽しそう”という言葉が、
胸に刺さる。
すちは意を決して校舎裏に行った。
そこには、ベンチに座ってノートに
何か描いているこさめの姿。
こさめは彼に気づくと、
少しだけ顔を強張らせた。
「……こさめちゃん」
「…あ、すっちー。どうしたの?」
「昨日、グラウンド来てたでしょ。
多分、勘違いしてると思うけど……
あの子、俺の妹なんだ」
「……え?」
「転入の手続きで来てただけ。
変なふうに見えたかもしれないけど、
そういうんじゃないから」
「……妹……」
涙がこぼれそうになるのを
必死でこらえて、 こさめは俯いた。
「ごめん、俺……勝手に、避けてた」
すちはゆっくりと息を吐いた。
それから、
こさめの前に屈んで視線を合わせる。
「俺、誰かにあんなふうに気にかけて
もらったの初めてだったから、
どうしたらいいかわかんなかった。
でも、…ありがとう」
こさめは小さく笑った。
「じゃあ……、また“すっちー”って
呼んでもいい?」
すちは一瞬だけ目を逸らして、
照れたように小さく頷いた。
「……うん。こさめちゃん、好きに呼んで」
その言葉を聞いた瞬間、
こさめの頬にようやく“本物の笑顔”が
戻った。
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帰り道。
すちは空を見上げながら呟く。
(……ほんと、不器用だな俺。
でも、こさめちゃんのこと
――気になるのは、もう認めるしかないか)
すちは駅へ向かう細い道を歩いていた。
(……はぁ。何してんだ、俺)
自分でも理由がわからないまま、
頭の中に浮かぶのはこさめの顔ばかり。
笑った顔も、俯いた横顔も、
全部やけに鮮明で、振り払えない。
その瞬間だった。
ぐいっと、急に肩を組まれる。
「――っ!」
反射的に体が動いた。
肘を引いて、拳を振り上げる。
「ちょ!待てごら」
聞き慣れた声。
寸前で止まった拳の先にいたのは――
「……ニキくん?」
黒い髪、余裕のある笑い方。
変わってない。
「久しぶり」
「……久しぶりって、急すぎでしょ」
すちは肩を外して、一歩距離を取る。
視線を逸らしながら言った。
「……ニキくん、家ここらへん
じゃないでしょ」
「んー、まぁな」
ニキはあっさり笑って、手をポケットに
突っ込む。
「退学なったからさ」
「……は?」
「明日から、お前の通ってる学校行くわ」
一瞬、音が消えた気がした。
「……え?」
すちは目を瞬かせる。
頭が追いつかない。
「ちょ、待って。転校ってそんな
軽く言うもんじゃ――」
「大丈夫大丈夫。話はもうついてるから」
「……いや、そういう問題じゃ……」
ニキはすちの顔をじっと見て、
ふっと口角を上げた。
「相変わらずだな。」
「……」
「学校、楽しい?」
その一言で、
胸の奥を見透かされた気がして、
すちは言葉に詰まった。
「……別に」
ニキはそれを聞いて、
少しだけ目を細める。
「ふーん。じゃあちょうどいいな」
「何が」
「俺、しばらくお前の近くにいることに
なるから」
軽い口調。
なのに、どこか含みのある言い方。
すちは小さく息を吐いた。
「……明日から、面倒なこと増えそ…、」
「はは。それ、俺のセリフでもあるって」
夕暮れの中、
二人の影が並んで伸びていく。
この再会が、
静かだった日常を大きく揺らすことになる
なんて、この時のすちは、
まだちゃんと理解していなかった。
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