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B組の教室は、
朝から少しざわついていた。
理由はひとつ。
転校生が来る、という噂。
「……静かに。じゃあ、入って」
斎藤先生とは違う担任の声で、
教室の扉が開く。
入ってきたのは、
どこか余裕のある表情をした男だった。
「……ニキです」
短く名乗るだけで、
教室の視線を一気に集める。
「事情があって転校してきました。
まぁ……よろしく」
それだけ。
拍子抜けするほど簡潔な自己紹介。
それでも、空気が妙に締まる。
――その時。
「っあー……やっば、間に合わんかった」
ガラッ、と勢いよく扉が開いた。
「またお前か、りぃちょ!」
先生の怒鳴り声。
入ってきたのは、少しだらしない
雰囲気の男。
「すみませーん……電車遅れてて……」
「言い訳はいい!
自己紹介の途中だぞ!」
教室がざわつく。
ニキは一瞬、そちらを見る。
視線が鋭くなる。
(……タイミング悪すぎだろ)
自分の自己紹介を遮られたことに、
内心でははっきりと不快感を覚えていた。
けれど、ニキは何も言わない。
ただ一度だけ小さく舌打ちして、
視線を前に戻した。
「……続けていいですか」
「あ、ああ……すまん」
先生が咳払いをする。
「以上です」
ニキはそれだけ言うと、
軽く会釈して一歩下がった。
「じゃあ、席は――後ろの空いてる
ところだ」
指示された席へ向かい、
ニキは椅子に腰を下ろす。
背もたれに深くもたれ、
腕を組む。
表情は落ち着いている。
けれど、内側では――
(……ほんと、うるさい学校だな)
そう思いながら、
隣の席に座るりぃちょを横目で
一瞬だけ見た。
目が合う。
りぃちょは、
「……あ、どうも」
と、少し気まずそうに笑った。
ニキは何も返さない。
ただ前を向き、静かに座っている。
その存在感だけが、
教室にじわじわと広がっていった。
ホームルームが終わると
一気にニキの所に 集まる。
「ねぇニキくん、
放課後どっか寄らない?」
「連絡先交換しよー」
「……あー、悪い」
ニキは立ち上がる。
特に理由も説明せず、
椅子を引く音だけ残して教室を出た。
(……もういいわ)
視線の先に浮かぶのは、
昨日一緒に帰った男の顔。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
A組。
すちは自分の席で、
みことと並んで話していた。
「でさ、あの問題絶対ひっかけだよな」
「あーわかる…」
他愛のない会話。
すちは少しだけ笑っていた。
その時。
「よ、」
低くて、聞き覚えのある声。
すちが顔を上げると、
教室の入口にニキが立っていた。
「……ニキくん?」
教室の空気が一瞬止まる。
A組の生徒たちの視線が集まる中、
ニキはまったく気にせず歩いてくる。
「ここか。お前のクラス」
「ちょ、なんで来たの」
すちは小声で言うが、
ニキは気にせず、すちの机に肘をついた。
「暇になったから」
「……は?」
みことが二人を見比べて、
少し戸惑いながら口を挟む。
「えっと……知り合い?」
「あー、まぁ」
ニキが答えるより早く、
すちが言った。
「前からの知り合い」
ニキはその言い方が気に入ったのか、
小さく笑う。
「冷たくね?」
「十分でしょ」
ニキはすちだけを見る。
みことの存在を完全に無視して。
みことが気まずそうに咳払いする。
「あ、俺……トイレ行ってくるね」
空気を読んで立ち去るみこと。
その背中を、ニキは一切追わない。
「すちくん…あの子気になってんの?」
「………違うけど」
すちは視線を逸らした。
(……最悪、この人本当にさ)
教室のざわめきの中、
二人の間だけ、妙に静かだった。
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A組の扉の前。
こさめは、ほんの一瞬だけ立ち止まった。
中から聞こえてくる声。
低くて、落ち着いていて――
知らない声。
(……誰)
そっと中を覗いた、その瞬間。
すちの机に、
見知らぬ男が距離近く立っているのが
見えた。
(……なに、あれ)
すちは少し困った顔で、
でも逃げないで話している。
胸の奥が、きゅっと締まる。
理由はわからない。
ただ、嫌だった。
(……行かなきゃ)
こさめは一歩、教室に入る。
「……すっちー」
声が少し震えたけど、
ちゃんと届いた。
すちが振り向く。
「こさめちゃん?」
その瞬間、
ニキの視線がこさめに向いた。
上から下まで、
値踏みするように眺める。
「へぇ……」
ニヤッと、嫌な笑い。
「なに?お前の彼女?」
「違うよ」
即答。
すちの声は、少しだけ強かった。
「友達だから」
ニキは面白そうに眉を上げる。
「ふーん。
声かけるのにそんな勇気いる感じ、
普通じゃなくね?」
こさめの肩がびくっと跳ねる。
「……っ」
「名前は?」
「……雨乃、こさめ」
「へぇ、可愛い名前。
俺ニキ。よろしくな」
一歩、距離を詰められる。
その瞬間。
すちが、前に出た。
「それ以上、近づかずかないの」
「こさめちゃん、 この人、
ちょっと距離感おかしいんから
許してあげて」
こさめは目を見開いた。
(……庇って、くれた)
胸が、どくんと鳴る。
ニキは一瞬きょとんとして、
次の瞬間、楽しそうに笑った。
「あーなるほどな」
すちを見て、
次にこさめを見る。
「……そりゃ、庇うわ」
「ニキくん」
「ん?」
「余計なこと言わないでよ」
すちは低く言った。
ニキは肩をすくめる。
「言わねぇよ。もう察したから」
ニキは、
こさめの方をちらっと見る。
こさめは、
すちを見つめていた。
まっすぐで、
隠しきれない視線。
ニキは小さく笑った。
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