その時、ようやく私たちは席についた。
「はぁ……、なんかお腹空いた。沢山たーべよ!」
メニューを捲る私を見て、尊さんはクスクス笑う。
「家でもよく食べる健康優良児でしたか?」
「ちょっと尊さん、そういう言い方……」
「ああ、よく食ってましたね。〝身〟にならないのが不思議なくらい」
「亮平も」
あれ……、なんか結託してる……。
ちょっと前まで一触即発で喧嘩しないかヒヤヒヤしていたのに、なんだこの感じは。
私の隣に座った尊さんは、メニューを見ながら言った。
「亮平さんってあんまり感情の起伏がないですよね。驚いても無反応なタイプでしょう」
尊さんに言われ、亮平は「よく分かりますね」と感心したように頷いている。
「それで〝心の声〟が多いものだから、自分では納得して行動しているんですが、周囲からは『行動が突然』と言われませんか?」
「まさにそれです。……凄いですね、速水さん」
「多分それも、〝いい兄〟でいようとした反動だと思いますよ。今は誰にも遠慮する必要がありませんし、思った事はちゃんと口に出して伝えたほうがいいですよ。そのほうが誤解が少なくなります。付き合っていた方に、悩み事を打ち明けられていましたか? 何も相談されず『自分を見ていない』と思ったから、お相手は離れたのでは……と感じます」
そう言われて、亮平は気まずそうに頷く。
「……確かに心配させたら悪いし、しかも継妹を気にしていると言ったら不快に思われるだろうと思って、彼女には何も伝えませんでした」
沈黙って思っている以上に罪だな……。
「よりを戻したいと思うなら、考えていた事をすべて打ち明けるのをオススメしますよ。その上で改善するから、また付き合ってほしいとお願いするのがいいように思えます」
「……そうします」
しかし尊さんの人を分析する能力、凄いなぁ!
加えて亮平が元サヤに戻るサポートまでするんだから、義弟満足度ナンバーワンだ。
納得した私は頷いてから言う。
「はぁ……、〝亮平仕草〟の正体はそれか……。とりあえず刀削麺とノーマル小龍包」
「流れるようにメニューを決めるな」
尊さんは私に突っ込んで笑ってから、「俺はどうしようかな」と顔を寄せてくる。
今日も彼は当社比百二十パーセント顔がいいし、いい匂いがする。
努めて普通の顔をしていたつもりだけど、ニヤついていたんだろうか。
「……朱里って恋人の前だとそんな顔をするんだな」
亮平に言われ、私はとっさに両手で口元を覆う。
「なっ、……なんだよう……」
恥ずかしさのあまり、私はあまり賢くない返しをしてしまう。
亮平はそんな私を見ていたけれど、クシャッと笑った。
「や、俺じゃそんな顔をさせられないなって思ってたトコ。……いいんじゃないか? 速水さん。朱里が惚れるの分かったわ」
「……あ……、それは……、ありがとう。いつか家族に合わせる時、その調子で応援してほしい」
現金にも亮平の応援を欲しがった私の言葉に、二人はクスクス笑う。
「ありがとうございます、亮平さん。これから宜しくお願いします」
「こちらこそ、速水さん。一人で考え込む癖があるので、良かったらまた今度話を聞いてください」
「勿論です。今日は色々と何ですから、また改めて食事でもしましょうか」
気がつけば私たちは和やかな雰囲気で食べたい物をオーダーし、美味しい中華をたらふく食べ、色んな事を話した。
尊さんは篠宮家の話を今するつもりはないようで、会社の事や私との馴れそめなどを聞かれるままに話していた。
……まぁ、馴れそめって言ってもそのままを話すと問題があるので、普通に「上司と部下として惹かれ合い、何回か食事をし、デートするうちに……」と言っているけれど。
私たちはお店を出たあとに中華街をブラブラし、夕方前に現地解散した。
今日はちょっとタイミングが悪かったので、家族への結婚報告は後日改めてとなった。
「今日は悪かったな」
「んーん、いいよ。……分かり合えるまで長かったけど」
駐車場で私は亮平と別れを告げ、尊さんの車に乗る。
「はぁ……」
助手席に乗って溜め息をつくと、尊さんは「お疲れ」と私の頭を撫でてからエンジンを掛けた。
「あぁー……、一日疲れた。でも尊さんのドライブで帰れるなら最高」
「今度、車でもうちょっと遠い所に泊まりで出かけるか」
「はい!」
提案され、私は満面の笑みで頷く。
コメント
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亮平圧倒されちゃったね。 尊さんのスゴいとこは根は悪くないと瞬時に見極め、撃沈させず良い方向へ導かせる手腕は拍手ものです✨ 本当は…撃沈沈没させたかったに違いない😅
亮平と敵対すること無く、彼の心にも寄り添いながら上手く和解に持って行った尊さん、流石です👏👏👏✨