テラーノベル
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今、何が起きてるんだろう。
「そろそろどうにかしなきゃ」って気持ちだけで、ここに来たはずだったんだけどな。
「舘さん、考えてみてもらえたら嬉しい」
「ゆっくりでええから。ずっと待ってる」
何がどうしてこうなったんだっけ。
確か、一時間くらい前にここに来て、それから──。
今日は朝から胸騒ぎがしていた。
その嫌な予感はしっかりと当たっていて、白とオレンジのツナギに一つずつぴったりと“くっ付いた”モノから、ずっと目が離せなかった。
ラウールの周りを漂うように宙を舞い、小さく先が尖った羽を瞬かせる黒い妖精。
康二の背中に隠れるように、前脚をその肩に掛けてぶら下がっている焦茶の犬。
──この子達は、いい子?悪い子?
諦め悪くいつまでもじっと“彼ら”を見つめていると、不意に「なぁに見てんの〜?」とのんびりした問いかけが耳を撫でた。
楽屋に入った瞬間から、気配は感じていた。
言葉を交わすときもあれば、何も話さない日もある。どうやら今日は前者だったようだ。
その方に顔を向けても誰もいないことは、しっかりと分かっている。
最近仲良くなった、新しい友達である。
まぁ、それぞれの“分身”と解釈するなら、「新し」くはないのかもしれないが。
「あの子たちのこと」と声だけで返事をすると、「んー?ぁー、はいはい。変なのくっ付いてるね。でもなんで?」と半分だけ納得したような返答があった。
「気になるんだよね」
「ダテさん、気になるってもしかして、二人のこと好きなの?」
「レン、なんでそうなるの。ミヤダテさんは二人に憑いているものが悪さしないかって心配してるんでしょう?すみません、失礼なことばかり」
「ふはっ、んははっ、いいのに。そういう話、嫌いじゃないよ」
「まじ!?俺さ、舘さんとずっと恋バナしたかったんだよね!確か今付き合ってる人いなかったよね?恋人作ろうよ!」
「僕も同感です。僕らがそうしていただいたように、ミヤダテさんにも幸せになって欲しいです。何かできることはないかってずっと考えていました。お好きな方もいらっしゃらないんですか?」
「そういうのは視えないのかもね」
「ダテさんなら運命の人とか視えそうじゃない?」
「ふふ、そうならいいね。でも、まずはあの子達のことどうにかしないと」
「んー…康二の方は大丈夫そうに見えるし、ラウの方もあれガキだろ?大事にはならないんじゃない?」
「いえ、そう判断するにはまだ早いように思います。白い彼の方に憑いたモノがどう動くか…」
「俺もリョウヘイと同じ意見。あいつ、キレたらヤバそう。ダテさんあれさ、二人ともまだ気付いてないの?」
「そうみたい。だから、見定めたくて」
薄青い半透明な姿を浮かび上がらせる三つの存在と話し込みながら、ラウールと康二の背中をしつこいくらいに見つめ続ける。
──放っときすぎたかな。
──いつの間にあんなに深くまで…。
一つはその体の奥にまで届きそうなくらいに。
一つは誰にも見つからないようにひっそりと隠れて。
「根っこが生えてる…それと…かくれんぼが得意みたいだね」
先程まで色めいた声を弾ませていた「新しい友達」たちは、いつの間にか背後の方で、何やら内緒話に夢中になっていた。
特になんのトラブルもなく収録は終わったが、気付いた時にはラウールも康二も、もう既に帰ってしまっていた。
珍しいこともあるものだと、少し驚いた。
挨拶もなしに急いで解散してしまうような子達ではないからだ。
こんなことなら収録が始まる前に何か声を掛けておくんだったと今更ながらに後悔して、これからのことをいくつか考えた。
このあとはいくつか仕事が入っていて、しばらく体を空けられない。
しかし、この胸に漂う靄は全く晴れていないどころか、なんなら一分でも早く二人の問題を解決した方がいい気さえしている。
「早くて23時だな」
「それまで保ってくれるといいんだけど…」と覚束なく願いながら、ツナギのファスナーを下ろした。
最後の仕事を終えるとすぐにタクシーを捕まえて、康二の家近くのコンビニまで向かった。
車を降りた後も「間に合え、間に合え」と何度も心の中で唱えながら走り、マンションのエントランスを目指した。
息を整えながらその建物の外観を見上げると、やはりその一角にだけ黒くどんよりとした二つのオーラが見える。
「ラウもいるみたいだ、よかった」
二人とも揃っているのは幸運だった。
どちらも平等に大切な存在なのだ。
一人しか助けられなかった、なんて悲しい結末になることはなさそうで、短く切れる呼吸に安堵のため息を混ぜて大きく吐き出した。
二人の顔をやっと確認できた瞬間、「あぁ、よかった」とまず第一に心からそう思った。
その気持ちが、俺を「ふふっ」と小さく笑わせた。
リビングに入るとその中は予想通りにひどく荒れていたが、「もしかしたら…」と頭の片隅で恐れていたようなことは何も無かった。
そこでは、二つの小さなモノがパニックに陥ったように暴れていた。
一方は、辺りを駆けずり回っては時折戸棚に体をぶつけていて、その度に置物がゴトッと下に落ちていく。
一方は、辿々しい言葉で「イやダ!離レ”、タくなイ”!」と喚きながら食器棚に重ねられている平皿を一枚ずつあちこちに放り投げていく。
──可愛い、子供みたい。すっかり懐かれちゃってたのか。
朝から様子を伺っていたモノの正体を知った途端、微笑ましさでいっぱいになった。
ある種の愛おしさのようなものを抱きながら、大きく慌てる二つに向かって声を掛けた。
「ふふっ、そんなに慌てないで。お別れさせに来たわけじゃないから」
結果として二人に憑いたモノを宥めることは出来たが、安心したのも束の間、今度は今すぐには解決できそうにない問題に頭を悩ませることになった。
項垂れている彼らに厳重注意をして、キリの良いところで帰ろうとしていた時のことだった。
突然二人ともが立ち上がって、ゆっくりとこちらに近付いてきたのだ。
何か怒らせるようなことを言ってしまっただろうかと、それに加えて、この一連の状況と俺自身とに、やはり気持ち悪さを感じているだろうかと怖くなったが、直後その心配は全てどこかへ吹き飛ばされた。
「舘さん、僕、ずっと舘さんが好きだったの」
「俺もや。初めて助けてもらった時から、舘が好きやった」
「「だから、特別にして?」」
そう言って、二人が俺の両頬に口付けたからだ。
──・・・ん?
──え?まって?どうしてそうなる?
:
:
:
そして今に至る。
今日一日の出来事を丁寧に振り返ってみたが、やはり、こんな結末を迎える脈絡はどこにも転がっていなかった。
口数が少ない方であるとは自覚しているが、こんなに気まずくて痛い沈黙は初めてだ。
すぐに反応してあげられなかった後ろめたさがそう思わせるのかもしれない。
とはいえ、戸惑わない方がおかしいだろう。
怖い目に遭わないかと心配していた二人をなんとか助け出せたと安心できた次の瞬間、いきなり告白されたのだから。
──何がどうしてこうなったの、ほんとに。
二人がそんな風に思っていてくれていたなんて、知らなかった。
なんなら気付いてすらいなかった。
自分のセンサーは、不思議なものが視える方に全て振り切ってしまっているのかもしれない。
この手のことにかなり疎いことは、自分が一番よく知っている。
これはすぐに答えを出すべきなのか?と考えているうちに、「ゆっくり考えてみてほしい」なんて先に言われてしまっては、いよいよこの口は絞り出す言葉さえ見つからなくなってしまった。
「と、とりあえずありがとう。じゃ、じゃあまた、明日…ね…」
なんとかそれだけ伝えて康二の家を後にした。
アプリでタクシーを呼び、五分後に来てくれた車に急いで乗り込み、逃げるように自宅へ籠った。
湯船に浸かってじっくり考えてみても、首まですっぽり布団を被って何度もゴロゴロと寝返りを打って頭をフル回転させてみても、何も分からなかった。
どうして二人が告白してくれたのかも。
自分自身がどうしたいのかも。
何もかも。
バクバクと主張する心臓が痛くて、その動きに釣られてか、体はずっと震えていた。
怖い。
今俺の中にある言葉は、気持ちは、ただそれだけだった。
一夜明け、重く腫れぼったい瞼を無理やり開いて家を出た。
昨日はあまり眠れなかった。
やっと寝られたと思えばすぐに目覚めてしまうし、すぐに二人の顔がオレンジ色の灯りの中にぽわっと柔らかく浮かんでくるしで、「どうしよう。どうしたらいい?どうしたい?」と何回目かも分からなくなってしまった自問自答のループにハマるばかりだった。
寝不足はなるべく避けたい。
全ての感覚が鈍って、ついついボーッとしてしまう。
いつも普通に感じ取れている人の気配も、ヒト以外のそれも間近に迫らないと感知できなくなってしまう。
「…舘さん…? どうしたの?」
突然の呼びかけにハッとして、少し体が跳ねる。
こんな具合に、誰かがそばに近寄って声を掛けてくれるまで気付けないのだ。
恐る恐るという風に肩を叩いてくれたその方を振り返り、当たり障りなく微笑んでみせた。
「ううん、なんにもないよ」
「…そう? 何かあったら言ってね?」
その僅かな間の中には多少の疑りがあったのだろう。それでも深くは踏み込まずにいてくれる優しさが、今は有り難かった。
彼の半歩後ろでは、その恋人が心配そうに眉を寄せてこちらをじっと見つめているが、さらにその背後では、快活そうにニィーと笑いながら手を振ってくれている半透明の“分身”が浮かんでいた。
「ありがとう照。“ふっか”も、気にかけてくれてありがとう」
こんな時、どんな風に人を頼ればいいんだろう。
誰にでも簡単にできるはずのことが、俺には全部難しく思えた。
「ねぇ舘さん、今日さ、もしよかったら…」
「メシ食い行かん…?」
「……」
これまで何のアクションも無かったというのに、告白してきた翌日からまるで吹っ切れたかのように、正面切って堂々としたアプローチを受けては、どう反応すべきか分からず口篭った。
このあとは特に仕事も予定も無くて、おまけに角が立たないような断り方も思い浮かばなくて、「どうしよう、どうしよう」と心中慌ただしく、空想で作った広場の中をちゃかちゃかと駆け回る。
──できることなら断りたい…。
──でも、でも…、無理かもしれない…。
期待に目を輝かせているのは、ラウールと康二だけではなかったのだ。
「みやダて、あそボ」
「わふっ!ぁぅっ!」
彼らの後ろにしっかりと棲み憑いている子達も、キラキラとした表情をこちらに向けていた。
懐いてもらえたのだろうか。
それとも、自分たちの宿主が喜びそうな方面へ事を運ばせたくて、俺を引っ張り出そうとしているのか。
主人のポジティブな感情は、“彼ら”にとっても良いエネルギーになるのだ。
全員の視線が眩しくて、どこかに隠れたくなる。
しかし、どこにも逃げ場はない。
今日が「その日」じゃなかったことだけは、ラッキーだった。
「ふぅ…、わかった。行こうか」
諦めたように深く頷くと、みんなの顔は更に明るくなった。
「ミやだテ、ゴ飯、ウマい?」
「うん、美味しいよ」
「わんっ!きゅぅ!」
「ふふっ、みんながいないところでなら出てきてくれるんだね。おいで、よしよし」
康二が急いで予約してくれた個室の鍋料理屋さんに来たはいいものの、正直、どうしたものだろうかと、全く落ち着かない。
可愛い子達がいてくれているので、なんとか間が保っているようなものだった。
「二人とも、ちゃんと食べてる?」
「ぁ…ぅん…、美味しいよ…」
「ぉ、ぉん…ぅまいで…」
「……そう」
「「「……」」」
──・・・いや、誘ったんだったらなんか喋れよ。
先程から何を話しかけても上の空な返答が返ってくるだけで、二人とも手渡した呑水に盛られた鍋を食べ続けてばかりだった。
「いッぱイ食べて。みやダテ、食べてるとキ、かわイい」
「ん”ぶッ!?…そ、そう…?ありがとう…」
「きゃん!くぅぅん…?」
「大丈夫だよ、ちょっとびっくりしただけだから」
「ふすっ!」
──どうしろって言うんだよ…。
俺の秘密を知っている人しかいないのでありのままに振る舞うことにしたが、肝心の本人たちではなく、何故妖精と犬とばかり話すことになってしまっているのか。
また新しく友達になれた子達が話しかけてきてくれるのは嬉しいし、これはこれで楽しいが、何とも歯痒い。
もう一度二人の様子をチラッと伺ってみると、彼らは未だに俯いたまま白菜をちびちびと齧っていた。
──お前ら…帰るまでこの調子か?
そんな予想が頭に過ると、無性にイラッとした。
傍に置いてあった爪楊枝のケースから、その中の一本がにゅっと飛び出てきたのを視界の端で、他人事のように眺めていた。
「もうっ!!なんなの!!!」
気持ちのままに剥れた声で二人に突っかかる。
すると、ラウールも康二も即座に背筋をビシィッ!と伸ばした。
「誘ってくれたのは嬉しいよ?でも、何も話してくれないんじゃ一緒にご飯食べてる意味ないでしょ?」
「ご、ごめん…」
「すまん…緊張してもうてて…」
「比べるつもりなんか全然ないけどさ、この子達の方がよっぽど口説き上手だよ?」
「「えっ、、、」」
「何でも良いからさ、なんか話そうよ。寂しい…からさ、ってなに、どうしたの」
自分なりに歩み寄ってみようと言葉をかけたが、特に返答はなかった。
それどころか二人して机に突っ伏してしまっていて、足元からはカタカタ、ダカダカと靴底が小刻みに床に打ち付けられる音がしている。
かと思うとすぐにバッと顔を上げて、こちらをじっと見つめてくる。
──なんなんだ…。忙しいな…。
「話したいこと、僕たち一個しかないの」
「舘が好きって、そんだけしか無いねん。すまん…」
「な…なっ、、」
申し訳なさそうに眉を寄せつつも、その頬たちは照れ臭そうに緩み、柔らかい紅色に染まっていた。
苦しそうで、でも嬉しそうで、自惚れでも何でもなく今彼らがこんな顔をしているのは俺のせいなんだと意識すれば、今度はこちらが黙りこくってしまう番だった。
「なんでそんなに…、なんで俺なの…?」
本当は、聞きたくない。
どんな答えが返ってくるのか分からないから。
自分がどうなってしまうのか分からないから。
でも、何も話さないのは嫌って俺が言ったんだもん。
何か、何でも良いから喋らなきゃ…。
一音一音紡ぐたびに唇が震えた。
ラウールと康二を信頼してないわけじゃない。でも、二人とこんな雰囲気になったことなんて今まで無かったから、恥ずかしくて、怖くて、どうしても視線が下がってしまう。
これ以上は踏み込んでほしくなくて。
その気持ちと同じくらい、俺を見つけてくれた人がいることが嬉しくて泣きそうで。
──あと少し、あと少しでも膨れちゃったら…。
「気付いたら好きだったの。全部可愛くて、全部カッコ良くて、もう舘さんしか見えないの」
──だめ、、っ…。
「舘は俺を助けてくれた。あの日からなんもかんも全部奪われててん。今度は俺が笑わしたい」
──だめッ…!それ以上は言っちゃ…!
「だから、舘さん」
「手ぇ、取ってくれへん…?」
──!? ぁッ、溢れる…っ…!
なんとか止めようとした。
でも、できなかった。
「あんまり酷くならないで」と自分自身に言い聞かせながらテーブルの方へ恐る恐る目をやった瞬間、先程までとろ火だったカセットコンロのガスが、ボウ”ッ!と音を立てて勢いよく鍋底を熱し始めた。
「わっ!康二くん火強めた?」
「いや?なんもいじってへんで?」
「…ごめん…俺のせい…」
「「?」」
二人が不思議そうに首を傾げている間にも、全員分のグラスに半分ほど残っていたビールのかさは増し、みるみるうちに中ジョッキにはシュワシュワと黄金色の液体が元通りに満たされていった。
「へっ!ビール増えてんで!?」
「え!」
「…ごめん…それも俺のせい…」
「「?」」
説明するしか無いかと諦めて、ガスコンロの火を弱めてから姿勢を正した。
「ごめんね。俺、気持ちをブレさせちゃいけないの」
「どゆことや?」
「今みたいに物がひとりでに動いたり、何も無いところから物を出しちゃったり、その時々で色々違うんだけど、感情が大きく動くと、こんな風に変なことが起きちゃうの」
「そうだったんだ」
「ほぇぇ、そうやったんか」
理解してもらえるとは思っていない。
それでも、二人が俺から遠ざかってくれる理由の一つにはなるかもしれないと、包み隠さずありのままの全てを話した。
──あぁ、また拒絶されちゃうかな…。
──メンバーとだけは、気まずくなっちゃうの嫌だなぁ…。
二人から向けてもらった好意を感じられるのも今日までかと、僅か一日だけの短い時間だったがむず痒くも幸せだったなと、そんなことを思いながら力無く微笑んだ。
「ごめんね、怖かったよね。食べ終わったら…」
「帰ろうか」と続けようとした言葉は、ラウールの明るい声によって遮られた。
「やっぱ舘さんすごいね!ね!康二くんっ!」
「……ぇ?」
「ほんまにな!」
「…ちょ、ちょっと待ってよ、おかしいって思わないの…?」
「どうして?すごいって僕思うけどな」
「おかしいこと何もあらへんやろ。そない力持ってんの込みで舘やろ」
「なんで、そんな、っ…なんで普通に受け入れられるの…!?」
──こんなの、こんなのっておかしい。だって、だって…!みんな離れていくんだよ?それが当たり前のはずなのに、なんで!なんで平気な顔してるの?!
怖がりな二人のことだ、本当は怯えているのを必死で堪えてるんじゃないかとか、心の底では気持ち悪いって、今すぐ帰りたいって思ってるんじゃないかとか、彼らの言葉に疑心暗鬼になっては、目の前に転がっている反応全てが受け入れられなかった。
しかし、ラウールも康二も、とても優しい目をしていた。
包み込むような温かい眼差しで、俺をじっと見つめてくれていた。
「僕たち、すっごく強くなったんだよ」
「舘とおんなじもの視るためにな」
「うん!だから大抵のことじゃもう驚かないし、他の誰でもない舘さんだもん!怖いーっ!なんて思わないよ」
「どういうこと…?」
「僕たちね、毎月いろんなことにチャレンジしてきたんだ」
「占いしてみたり、心スポ行ってみたり、降霊術やってみたりな」
「まさか、、今までずっと、満月の夜に…」
「舘が教えてくれたんやろ?そういう夜は不思議なことが起きるって。やから、その力借りよ思たんや」
「僕も康二くんからその話聞いて、二人で決めたんだ。満月の夜は“超常現象探求クラブ”を開催しよう!って」
「全部、舘とおんなじ世界に行きたかったからや。何も持ってへんまま舘んとこ行ったって、絶対相手になんかしてもらえへん。ちょっとでも舘が持ってるモン分かりたかってん」
──あぁ、どうしよう。
──昨日からそればっかりだ。この言葉しか浮かべられない。
二人はこんな俺なんかを愛おしそうに見つめて、優しい言葉をかけてくれる。
嬉しいのか、泣きたいのか、怒りたいのか、もう何なのか訳が分からない。
激しく急速に沸き起こっていく内混ぜの感情に釣られるようにして、鍋に半分身を浸したおたまの柄が、グニャッとくの字に曲がり始めていた。
「ミやだテ。ラウーるも、まマも、うソ、ついテない」
「ぁぅ!」
「同ジセカイ、行キタい、行けル?ッて、俺ニ聞いてキた」
「わふ」
「ミライ、ボやぼヤ、あノ時見エナかッた」
──今の君には見えてるのかな?もしそうなら教えてほしい。俺はどんな決断をするの?
「ミえる。デも、教えナイ」
──どうして?
「イミない。みやダてガ、考エなキャ」
──ぁはは…、こんな時だけは意地悪なんだね。
「イじわル?違ウ。ミやダてすキ。モッと、ずット、遊ビたイ。ダかラ、ちャん”ト気付イて」
──うん、わかった。ちゃんと考えてみるね。でも、今日のところは…。
「二人ともお説教追加ッ!!」
大きく息を吸い込み、こちらに微笑みをくれているラウールと康二に向かって声を張り上げる。
長さを失って縁にもたれ掛かれなくなったおたまは、鍋の中でぐにゃんとUの字に折れては底に沈み切った。
そんな未来さえこの子にはもう既に見えていたのか、天井近くからケタケタと笑う小さな悪魔の声が降ってきていた。
コメント
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自分のことに疎すぎる❤️が可愛すぎてもう🤭🤭🤍🧡がんばれー!あともう少しだ!!笑
惹き込まれて一気読みしました。もう三回読みます。いつも素敵なお話を書いてくださりありがとうございます!