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お隣りさん。

60 - 第60話 愛してる子 愛してない子

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2024年08月01日

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紫音は帰ってこなかった。

健彦は日曜日だというのに朝早くから出かけていき、輝馬が起き、凌空が起きた。

いつもより少し遅い朝食を食べ終えたところで、彼は現れた。


「紫音さんと同じ学校の雨宮と申します」

陶器のような白い肌。

サラサラの紫の髪の毛に、モデルのような手足の長さ。


晴子は彼が発した信じられない言葉の数々に唖然とした。

紫音が嫉妬したことにではない。

紫音が彼の大切な陶芸作品を壊したことについてでもない。


あの不細工な紫音に、こんなカッコいい彼氏がいたことを、だ。

あの地味な紫音が、こんなカッコいい彼氏と一夜を共にする間柄だということに、だ。


ーー若さしか取り柄のないくせに。


晴子は手を握りしめた。


◇◇◇◇


帰ってきた紫音は、憔悴しきった顔で晴子の話を聞いていたがやがて、


「ママ、私の話は聞かなくていいの?」

と絞り出すように言った。


「雨宮先輩の話は本当かもしれない。でも、違うかもしれない。それならまず話を聞いてみよう。そうは思わなかったの?」


何を白々しい。

あんな容姿端麗な男が、紫音のような地味女と付き合ってくれてるだけでも奇跡なのに、さらに嫉妬だなんて。

それだけでもかわいくないのに、今度は物を壊すだなんて、言語道断だ。

その上言い訳までするなんて。

本当に顔が醜いと、心まで醜い。


「こんな証拠まで残ってるのにあなたは……!」

晴子は紫音を睨み落とした。


「もしこれが!」

いつもはめったに口ごたえなどしない紫音が掠れた声を張り上げる。

「お兄ちゃんだったら?凌空だったら?それでも今日初めて会った男の言うことを信じて、こんなに頭ごなしに𠮟りつけた!?」

声に泣きべそが混ざる。

涙が武器なんて、美しい女だけの話だ。

ブスは泣いても全然可愛くない。


「話をすり替えるんじゃないの!今はあなたの話をしてるんでしょ!」

こちらも負けじと声を張り上げる。

すると、


「そう!私の話をしてるんだよ!!」

悲鳴のような声がリビングに響き渡る。


「……ねえ、ママ……!」

紫音が涙と鼻水でぐちゃぐちゃの汚い顔で晴子を睨む。


「私のこと……好き?」


◇◇◇◇


紫音は出て行った。

凌空もいそいそと出かけて行った。

ダイニングには、気まずそうな輝馬が一人残った。


晴子は夕飯の牛すじ煮込みカレーの下ごしらえをするため、にんにくを細かく刻んだ。

玉ねぎはとショウガは薄切りに、ゆで卵は半分に切った。

鍋に牛すじ肉、ショウガ、ネギ、酒を入れて、被るくらいの水を入れたところで、


「紫音、帰ってこないね」

輝馬が口を開いた。

「放っておけばいいのよ」

晴子は鍋を火にかけると、お玉で乱暴にかき回した。

「あ、紫音からメールきた。しばらくお友達の家に泊まるから心配しないで、だって」

腹の底からため息が出る。

晴子は煮立った湯面からアクを取り除くと、蓋をして弱火にしてからダイニングに出た。

「家族と彼氏にさんざん迷惑をかけておいて、今度はお友達にも迷惑をかけるなんて!」

テーブルの向かい側に座ると、輝馬は困ったように微笑んだ。

「まあまあ。でもさ、ちゃんと紫音の話も聞いてあげないと、あの雨宮って先輩だけの話を信じるのは、紫音が可哀そうだよ」

紫音をかばおうとする輝馬に、喉元が熱くなる。

「信じるも何も!動画で残ってるんだから事実でしょ!」

「そうだとしてもだよ」

輝馬がいよいようんざりしたように眉を下げる。

「そこはほら、血を分け合った親子なんだから」

「――――」


血を分け合った親子。

一体そんなものに何の価値があるというのだろうか。

愛し愛されるのが親子だとしたら、

紫音と自分は親子ではない。


凌空だってそうだ。

それに、輝馬の背後の扉にいるあの女だってそうだ。


「あの子はわかってたのよ。私の子じゃないって」

晴子は立ち上がると、その滑らかな頬を手で触れた。


そう。

私がこの世で唯一愛しているのは、

輝馬だけ。


晴子は顔に角度を付けると、輝馬の唇を奪った。


反射的に逃げようとした顔を両手で掴み、唇の中に舌を挿入した。


「んんッ……!!」


輝馬が苦しそうな声を出し、肩にしがみついてくる。


(可愛い子……!)


晴子はいよいよ輝馬の頬を強くつかむと、その上顎の嘗め上げた。


ビクビクと輝馬の身体が反応する。


(こんなに感じちゃって……!)


今まで、彼と関係を持った青臭い女たちはこんなことをしてくれなかったのだろうか。



もっと、


もっと、彼に教えてあげたい。


キスの快感を。

セックスの気持ちよさを。


「輝馬あ……!」


たまらなくなって、晴子は喘ぎながら言った。


「愛してる……!」


夢中で唇を貪る。


控えめな舌を吸い取り、痙攣を繰り返す肩に腕を巻き付かせる。



早く、


欲しい。



輝馬の体を隅々まで嘗め上げて、


硬くなったそれを口に含んで、


裏筋を刺激しながら手でしごいて、


それから自分の濡れそぼったそこに、


早く……。


早く……!!



「……気持ち悪いんだよ、クソババア!!」


次の瞬間、すごい勢いで突き飛ばされた。

晴子はバランスを崩し、椅子に手をつきながらもその勢いを殺せぬまま、フローリングに腰を強く打ち付けられた。


「……ッ!!!」


輝馬はソファ脇にあったカバンを持ち上げ、そのまま逃げるように走り去っていった。


「……輝馬……!?」


意味が分からず、ただダイニングテーブルの裏側を見上げながら、晴子は呆然と座り込んだ。


何か書いてある。


晴子はその天板の裏側を見つめた。



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