テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ふふっ…あのね、実はまだ、ちょっと引きずってるんだ」
ハルは、そう言って、ゆっくりと話を始めた。
「彼氏のさ、最後の言葉が、ずっと頭から離れなくて。僕のこと、尻軽だって言われたんだ」
俺の心臓が、ドクンと大きく鳴った。
それは、俺が言ってしまった言葉と同じだった。
「…それ、俺も言ったよな」
俺がそう言うと、ハルは静かに首を横に振った。
「あっちゃんは、僕を心配して言ってくれたんだって、分かってるよ。まぁ、ムカつきはしたけど」
「…でも彼は、僕のためじゃないよ、ただ僕が面倒くさくなったんだと思う。僕、重いし」
ハルの瞳に、涙が浮かんでいる。
だから俺は、ハルの手を握って、言った。
「…悪ぃ、俺も、最低なこと言ったな」
ハルは、俺の手をぎゅっと握り返してくれた。
「へへ、あっちゃんってたまに凄く素直になるよね……でも大丈夫、あっちゃんのお陰で吹っ切れそうだから」
ハルの言葉に、俺は胸が熱くなった。
「って、なんかしみじみしちゃったよね!ゲームの続きやろ!」
「お、おう」
ゲームは、結局、俺が勝った。
3勝2敗。
「うっそ…また負けちゃった!!」
ハルは悔しそうに顔を歪める。
「おら、参ったか」
俺は得意げに笑う。
「つ、次は絶対負けないからね!」
ハルはそう言って、俺を睨んでくるがそれすらも愛おしい。
その顔を見て、俺は、胸が苦しくなる。
こいつを独り占めしたい。
でも、俺には、その資格がない。
俺は、ハルの親友だ。
「親友」
その言葉が、俺の心に重くのしかかるのは今に始まったことじゃないが
ゲームをしたり、映画を見たり、カフェに行ったり。
ただの親友だというのが悔しくて堪らない。
◆◇◆◇
そんなある日
「…なあ、ハル」
「なに?」
「…お前さ、また新しい彼氏とか作んないの?」
俺の言葉に、ハルは、一瞬、固まった。
「…え?どうしてそんなこと聞くの?」
「いや、なんとなく」
「…んー、今はいいかな。なんか、疲れたし」
ハルは、そう言って、俺から視線を逸らした。
俺は、ハルの気持ちが分からなかった。
疲れた、というのは、やはり恋愛に疲れたということだろうか。
◆◇◆◇
その日の夜、俺は富永に電話をかけた。
「もしもし?富永?」
『おう、どうした?こんな時間に』
「いや、ちょっと聞いてほしいことがあってよ」
俺は、富永に、ここ最近の出来事を話した。
富永は、俺の話を黙って聞いてくれて、最後に、深いため息をついた。
『お前さ、まだ告白してないのか?』
「…当たり前だろ」
「はー?何年引きずる気だ?お前片思いしてもう15年なんだろ?」
「…あいつとの関係壊したくねぇんだよ」
『へぇ、でもお前の話聞いてると、ハルはお前のこと好きなんじゃないかと思うけどねぇ』
「…は?そんなわけ、ねえだろ」
俺は、富永の言葉を否定した。
『ワンチャン、お前がハルのこと好きなのハルも気づいてるんじゃないのか?』
「…まさか」
『いや、マジで。お前、アイツに会うときだけ他のやつより顔が緩んでるからな』
富永の言葉に、俺は、顔が熱くなる。
『お前、ハルに告白する気、本当にないのか』
富永の問いに、俺は、何も答えられなかった。
『…まあ、いいや。でもお前、一生このままだと、ハルはまた誰かのとこ行っちゃうぞ?』
富永の言葉は、俺の心に深く突き刺さった。
俺は、ハルを失いたくない。
でも、この気持ちを伝えたら、ハルを失ってしまうかもしれない。
俺は、どうしたらいいんだ。
俺は、ハルとの関係を壊したくない。
でも、このままでは、俺は壊れてしまう。
その日から、俺は、ハルに会うのが怖くなった。
ハルからの連絡にも、返信が遅れてしまうようになった。
ハルは、俺の変化に気づいているだろうか。
そんなある日、ハルから、電話がかかってきた。
「もしもし?」
俺は、緊張しながら電話に出る。
「あっちゃん!なんか、最近、連絡くれないから、心配になっちゃったよ」
ハルの声は、少し寂しそうだった。
俺は、何も言えなかった。
「…ねえ、あっちゃん。僕のこと、嫌いになったとかじゃない、よね?」
ハルの言葉に、俺は、涙が出そうになった。
「…そんなわけ、ねえだろ」
俺は、震える声で答えた。
「…よかったぁ」
ハルは、心底安心したように、そう言った。
「あのさ、あっちゃん。今週末、時間ある?」
「…週末?」
「うん。僕ね、昔から行きたかった水族館があるんだけど、一人じゃちょっと寂しいから、一緒に行ってくれないかな?」
ハルの誘いに、俺は、一瞬、戸惑った。
でも、ハルの寂しそうな声を聞いて、俺は、どうしても断ることができなかった。
「あぁ、いいけど」
「ほんと?!やったぁ!ありがとうあっちゃん!」
ハルの声は、弾んでいた。
ハルの恋人なんて夢のまた夢だろう。
でも、俺はハルと一緒にいたい。
俺は、どうしたらいいんだろう。
◆◇◆◇
週末
待ち合わせ場所の駅の改札で、ハルは、俺を見つけると、満面の笑みで手を振ってくれた。
今日のハルは、白いTシャツに、デニムのショートパンツ。
足元は、スニーカー。
シンプルだけど、ハルらしい、爽やかな格好だった。
俺は、ハルに近づいて、言った。
「…お前早すぎ」