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「だって楽しみだったんだもん!」
ハルが笑顔でそう言うものだから、思わず目を伏せた。
「…行くぞ」
俺は、ハルの手を握って、歩き出した。
水族館は、たくさんの人で賑わっていた。
俺たちは、人混みをかき分けるようにして、中に入っていく。
「うわー!すごいよあっちゃん!」
ハルは、大きな水槽の前で、目を輝かせている。
色とりどりの魚たちが、優雅に泳いでいる。
俺は、ハルの横顔を見つめる。
ハルの瞳に、魚たちが映っている。
俺は、ハルが、こんなにも楽しそうにしているのを見て、胸が熱くなった。
この笑顔を独り占めしたい。
「あっちゃん!見て見て!あの魚、めっちゃ可愛い!」
ハルは、俺の手を引いて、別の水槽に駆け寄る。
ハルは、まるで、子供に戻ったかのように、水族館の中を巡った。
イルカショーを見たり、ペンギンに餌をあげたり。
水族館を出た後、俺たちは、近くのカフェに入った。
俺はコーヒーを、ハルはフルーツジュースを頼む。
「ねえ、あっちゃん。今日、楽しかった?」
ハルは、俺にそう尋ねる。
「…ああ。お前の馬鹿面も見れたしな」
俺は、正直に答えた。
「もう、一言余計なんだよ!…ふふっ」
「でも僕はあっちゃんと居れて、楽しかったよ」
ハルは、満面の笑みでそう言った。
その笑顔を見る度に胸が苦しくなる。
俺のことを特別みたいな言い方も嫌になる
期待するだろ、無駄な期待を。
◆◇◆◇
帰り道
「ねえ、あっちゃん。ちょっと真剣な話があるんだけど…」
ハルは、急に真面目な顔になって、そう言った。
「なんだよ、改まって」
俺は、身構える。
「あのね……僕、やっぱり、もう一度、恋愛してみたいんだ」
ハルの言葉に、俺は、息を呑んだ。
「……新しい彼氏作るってか?」
「うん……でもね、今回の人は、絶対に遊びじゃなくて、本気の人を探したいんだ」
ハルの言葉に、俺は、胸が締め付けられた。
ハルは、新しい恋を見つけようとしている。
「…ふーん、じゃあ合コンにでも行けばいんじゃね?マチアプよりはいいだろ」
俺は、それ以上何も言えなかった。
「う、うん!でも、その…まだ元カレから連絡来てて…ブロックしたら一昨日ぐらいに家凸られて…」
「は?大丈夫だったのかよ」
「だ、大丈夫、押し倒されたけどもう好きじゃないしヤらないって言って断ったし…しつこかったからとりあえずは接近禁止命令出したけど、正直まだ怖くて…」
「とりあえずってことは、また来る可能性があるって事だろ」
「まぁ、うん……だから、引越し先早く探さないとって思ってて…」
「……なら、次の引越し先見つかるまで俺んち住むか?」
「え?!でも……迷惑じゃないかな」
「迷惑じゃねえよ。また襲われそうになるより断然いいだろ」
俺の言葉に、ハルは、驚いたように目を見開いた。
「……うん、本当にありがとう。あっちゃん」
ハルは、俺の両手をぎゅっと掴んで微笑んだ。
思わず目を逸らすがハルの手の温もりに、胸が熱くなるばかりだった。
◆◇◆◇
その夜
俺とハルは、スーパーで食材を買い込み、俺の部屋で夕飯を作ることにした。
ハルは、慣れた手つきで野菜を切っていく。
「なあ、ハル」
「なに?」
「…別に急いで探さなくていいからな」
「え?」
「お前の新しい家のことだよ」
俺の言葉に、ハルは、一瞬、動きを止めた。
「えっでもそれはさすがにあっちゃんに迷惑だし…!」
「家主の俺が良いって言ってんだからいいんだよ」
ハルは、しばらく黙っていたけれど、やがて小さく頷いた。
「……じゃあ、お言葉に甘えてもう少しだけお世話になるね、引き続き物件はちゃんと探すけど…!」
ハルは俺のベッドで、俺はその横に布団を敷いて寝起きする。
朝は一緒にご飯を食べ、大学に行く。
帰ってきたら一緒にご飯を作って食べる。
風呂に入り寝る。
そんな生活が始まった。
毎日が充実していて、俺としてはハルと過ごせる日常に浮かれまくっていた。
しかし、元カレの件があってからというもの、ハルは不安そうな表情を見せることが多くなった。
俺は、ハルを安心させようと、できる限り傍にいてやろうと思った。
そんなある日の夜、ハルが突然切り出した。
「……あっちゃん。今日、一緒に寝てもいい?」
「は……?」
「やっぱりダメ、かな?」
俺は戸惑った。確かに一緒に暮らしているとはいえハルは俺の好きな男だ。
そんなやつが隣にいたら……なんて思いを振り払い
「お前な……いい歳して1人で寝れねえのかよ」
「だ、だって……あっちゃんの隣にいたら安心するから…つい」
「…っ、安心ってな…」
「その、寝相悪くはないと思うから…!それでも…どうしても、だめ…?」
潤んだ瞳で見上げてくるハル。
こいつは本当にずるい。
そんな目で見られたら断れるわけないのに。
「……仕方ねえな、今日だけだぞ」
「……!ありがとうあっちゃん!!」
嬉しそうに笑うハルに、俺はため息をつく。
「ほら、入るぞ」
「うんっ!」
ハルが寝ているベッド、もとい俺のベッドに潜り込むと
ハルは俺と向かい合うような寝相で、すぐにすやすやと寝息を立て始めた。