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「この意気地無しが」「見損ないました」
追いついてきた銀時に、新八と神楽は容赦なく吐き捨てた。
「え、なんで怒られたの俺」
ぽかんとしたまま立ち尽くす。
「だって銀さん、土方さんの事好きなんでしょ!」
「別にあいつの事なんか微塵も興味ねーし!!」
「逃げたアル!逃げた!」
「逃げてねぇよ!!」
言い返した頃には、二人はもうさっさと先へ行っていた。
ぽつんと残される銀時。
「……なんなんだあいつら」
胸の奥がざらつく。
自分でも分かっている。 逃げたのは事実だ。
土方の顔をまともに見られなかった。 声を聞くだけで、落ち着かなくなる自分が嫌だった。
「くそ……」
気分が悪い。
どうしようもなく胸糞が悪くなって、銀時は久しぶりにあの居酒屋の暖簾をくぐった。
「お、旦那。最近見なかったね」
「ちょっとな」
それ以上は言わない。
酒を頼む。
久しぶりの熱燗は、思ったよりも強く喉を焼いた。
一杯。 二杯。 三杯。
今日は隣に黒い羽織はいない。 マヨネーズ臭い副長もいない。
静かなはずなのに、落ち着かない。
(来ねぇのかよ。まあまだ昼だから当たり前なんだけど)
そんなことを考えた自分に腹が立つ。
「……関係ねぇだろあいつの事なんか」
誰に言うでもなく呟き、さらに酒を流し込む。
久しぶりだからか、酔いが回るのは早かった。
視界が揺れる。
頭が重い。
「旦那、大丈夫かい」
「だいじょーぶだっつの……」
そのまま、カウンターに突っ伏した。
目が覚めたのは夜だった。
静まり返った空気。
知らない天井。
(……は?)
体を起こすと、畳の感触。
見覚えのある障子。
壁に掛けられた隊服。
「……なんで」
ぼんやりと周囲を見回す。
ここは居酒屋じゃない。
「……屯所?」
頭がまだ重い。
どうしてここにいるのか、記憶が曖昧だ。
その時。
「おい」
低い声。
反射的に振り向く。
そこに立っていたのは、土方だった。
腕を組み、呆れたような目でこちらを見ている。
「…チッ…やっと起きやがった」
煙草の先が、赤く光る。
銀時は瞬きを繰り返す。
「……俺、なんでここに」
「居酒屋で潰れてた」
簡潔な答え。
「店主が困ってたからな。放っとけなかった」
淡々とした口調。
けれど、その視線はどこか硬い。
銀時は頭を押さえる。
(運んだのかよ……)
「別に、頼んでねぇんだけど」
「知ってる」
短い返事。
沈黙が落ちる。
外から聞こえる夜の虫の声。
酔いはほとんど抜けているのに、胸の奥のざわつきは消えない。
土方は一歩近づく。
「最近、変だぞお前」
どくん、と心臓が鳴る。
「……は?」
「居酒屋も来ねぇし、今日も妙に避けやがるし」
視線が真正面からぶつかる。
逃げ場がない。
「なんかあんのか」
その問いは、いつもの棘が少しだけ薄い。
銀時は言葉を探す。
喉が乾く。
(言うな。絶対言うな)
口を開けば、あの“変なこと”が零れそうで。
「……別に」
かろうじてそれだけ絞り出す。
土方の目が、わずかに細くなる。
「そうかよ」
それ以上は踏み込まない。
ただ、煙草の煙が二人の間に漂う。
近い。
距離が、近すぎる。
心臓の音がうるさい。
気づかれるんじゃないかと、馬鹿みたいに焦る。
夜の屯所。
向かい合う二人。
逃げたはずなのに。
結局また、目の前にいる。