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短めの髪。
すこし切れ長の目。
かがんで顔を覗き込まれた瞬間、頭の上から爪の先まで、ビリビリッと電気が走り抜けて―――。
(#$%&@¥###$%$!?)
なになになにっ!?
よくわからないけど、ドカーンと私の頭の中は大爆発。
え?
えっ??
ぱくぱくと口を動かすのに言葉の出ない私を見て、黒いスーツの人は焦った声を出す。
「ちょ、どっか悪いところ打った? ほんま大丈夫……」
「だっ、だだだ、大丈夫ですっ!!」
脳もビリビリにやられてぼうっとしちゃっているけど、これ以上顔を近づけられたら心臓爆発して死んじゃう……!!
反射的に差し出された手をおずおずと取った瞬間、また体にビリビリッとなにかが走って力が抜けた。
(#$%&@¥###$%$!?)
だ、だめっ、息ができない……!
力が入らずぺたんと地面に座り込んだ私を見て、その人はぎょっとしてさらに近づく。
「ちょ、マジで大丈夫か?」
「だ、だ、大丈夫ですっ」
男の人の手に触れたことなんてなかったけど、それを除いたってこのクラクラする感覚……。
クラクラもドキドキもしちゃうよ、どうしよう……!!
引っ張り上げられなんとか立ち上がると、彼はすまなさそうに眉を下げた。
「ほんまごめんなぁ。前見てなかってん」
「い、いえ……」
この人のまわりに、幻のキラキラが見える……。
ついでにドラマ『恋白』のテーマソングも脳内再生スタート。
手を取り合う私たちは、さながらお姫さまと王子さま。
このシチュエーションは、マンガやドラマで100回は見た、王道中の王道だよね??
(こ、このビリビリする感覚、どんな男の人に会った時よりすごいもん! 感電して死んじゃいそう―――)
私見つめる瞳は億千万。
流れた電流はきっと100万ボルトはあるはず……!
「痛いとこはないか?」
「えっ、あっ、は、はい! 大丈夫ですっ」
「そっか、ならよかったわ……。じゃあ、気ぃつけて帰ってな」
その人はほっとしたように笑い、軽く手をあげると、この先にあるネオン街へと去っていった。
ぼうっとした頭で、私は遠ざかる彼の背中を見つめる。
(はわゎわわ……)
なんだろう。
夜中なのに世界が明るく見えるし、街中がキラキラ夢の世界みたい。
……あぁ、恋の神様。
ついさっきまで私が思ってたこと、撤回させてください。
私は間違っていました。
私が今ここにいるのは、合コンのためじゃなくて、あの人に巡り合うためだったんです。
今まで何度も素敵だって思う人はいたけど、今みたいに電流を感じたのは初めてでした。
あれが“運命の人”だって、今もまだビリビリするハートが物語ってる……。
じわじわと体が火照る中、大声で叫びたい衝動にかられちゃうけど、はっとした。
―――って! 待って!
夢の世界を彷徨っていたら、気付いたら運命の人の姿がもう見えなくなってる!
(し、しまったーっ!)
まだ次の約束もしてないのに!
このままお別れはダメ!
(って、あれ?)
私が尻もちついていた場所に、なにかが落ちている。
これは……電子タバコ?
さっきはなかったし、ぶつかった時に、あの人が落としたのかも……。
(えっ、これは)
まさかのコレ、逆シンデレラ的なパーターン!?
これを落として、王子様がお姫様に追ってきてもらおう的な??
(きっとそうだ! 急がなきゃ!!)
こんな素敵なシチュエーション、さすが王子様! なんて粋なの!
まさにドラマチック!
慌ててあの人が消えた方向、ネオン街の路地へと駆け出した。
しかし普段ダッシュするのはマンガの発売日くらいだから、息切れがひどくてしんどすぎる……!
(神様ぁ、これも試練ですかー!)
必死で走るうち、このあたり一番の歓楽街にいると気づいた。
いわゆる『夜の街』で、キャバクラや男性向けのサービスをするお店がある地域。
ちなみに、私は24年生きていて一度も足を踏み入れたことがない場所だけど、なんだかここ……ちょっと楽しそう!
お寿司屋さんがあるっ!
鉄板焼き屋さんも!
どの店も高級そうだし一度行ってみたいなぁ~。
あっ、お花屋さんもあるんだ。
こんな真夜中にあいているお花屋さんって珍しいなぁ。
(って、そんな事を気にしてる場合じゃないんだった!)
まだ運命の人は見つからない。
もう息切れしすぎて限界が近いよ、早く探さなきゃ!
時間は深夜0時半過ぎ。
終電はそろそろだけど、あの人を探すまでは帰れないよぉ。
汗びっしょりになりながら、あたりを行ったり来たりしていると、通りかかったおじさんに声をかけられた。
「おねーちゃん、なにしてるの?」
「えっ」
「汗びっしょりじゃない? お茶でも買ってやろーか? その後ちょっと休憩していくか?」
そう言って近づいてきた酔っ払いおじさんは、奥まった場所にある自販機を指さした。
えっ、なになになに?
そりゃ喉は渇いてますけど、そっちは見たところラブホテル街じゃないですかっ!
「ほら、お茶買ったげるわ。いこーか」
「け、結構ですっ!!」
手を伸ばされ、思わず身を引くと、笑顔だったおじさんの態度は急変。
「チッ、デブのくせに。声かけてもらえるだけありがたいと思えよなぁ」
舌打ちしながら睨まれ、心の中で思いっきりあっかんべーをする。
だ、か、らっ!
私はデブじゃないの、ぽっちゃりなんだからっ!
「デブのくせにお高くとまってんじゃねーよ」
デブデブ連呼され、違う!って叫びかけたけど、こんなところで時間くってる場合じゃない!
反論したいのをこらえてあたりを見渡し、おじさんを無視して別の路地へ走り出す。
なんなの~!
運命の人を見つけられなかったら、おじさんのせいなんだから!!
(えっと、このあたりは)
ビルに入っているお店は、キャバクラとかクラブとかがほとんど。
あぁ~、一体どこだろ。
どこかのお店に入っちゃったのかな。
(別の路地にいるかも)
十字路の向こうを見た時、視線の先のビルから、だれかが降りてくるのが見えた。
(……あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁっっ!!!)
あの黒いスーツ!
あの短めの髪型!
目にした瞬間、また電気みたいなのが体にビビッと走る。
やっぱりそうだ!
この感覚は間違いない、やっぱりあの人が運命の人だからだっ!
ビルの階段の下で動かない様子は、だれかを待っているみたいに見えるけど―――。
(はっ! わ、私待ちですよね!)
そうですよね、だって私の手の中には、彼の落とした電子タバコがあるもん。
これを落として私が追いかけてくるのを待ってるんだから、そりゃ私を待っていますよね!
しかし、いざとなると、近づくのはかなりドキドキする。
ちょっと深呼吸。
息を吸って、吐いて~。
(よしっ、今そっちに行きますから―――)
……って!
自分の状態に気がついて、その場で足が止まる。
そうだった!
私今汗びっしょりだった!
感動のシーンに、お姫様が汗まみれなんて格好つかないよね。
王子様の胸に飛び込むなら、身だしなみを整えてからじゃないと!
目についた電飾看板の裏に隠れると、ハンドタオルでささっと汗をオフ!
……って、ささっとオフしようとしたけど、くぅっ、どんどん出てくる汗が憎い!
(もう! 汗が引かない~~!)
なんとか強引に汗を拭ききると、合コンのために持参したリップクリームを塗り、鏡で確認!
あっ、前髪もちょっとなおしておこう。
……よしっ、今度こそ完璧!
身だしなみOK、いざ王子様のところへっ!
意気揚々と看板の裏から出かけたその時、ビルの階段からまただれかが下りてきた。
そのだれか―――クリーム色のドレスにジャケットを羽織ったお姉さんは、私の王子様の肩にそっと触れる。
「すみません、お待たせしました」
(えっ)
当たり前のように王子様のとなりに並ぶのを見て、私はびっくりしすぎて目玉が転がり落ちるかってくらい目を見開いた。