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『狼遊戯邸の後継者を決めるため。そして公平性を示すために、古くからの友人である…つまりは神崎の子である君に審判を頼みたい』
ある日、探偵として働いていたソウシロウはそんな手紙を受け取った。
そして、自分一人では力不足かもしれない、と考えたソウシロウは、度々事件に巻き込まれるも、何やかんやで解決する探偵助手のユキナリに同行させる。
そうして、深い、深い森の奥にそびえ立つ黒い館で……———————事件が発生してまう。
果たして、ソウシロウとユキナリは無事に事件を解決し、生きて帰ることができるのだろうか?
・狼遊戯邸当主
館の主人。しかし、何者かによって無残な状態にされて殺されてしまっていた。
使用人たちには慕われている反面、息子たち四兄弟には嫌われていたり、苦手に思われたり、憎まれている。
『何人もの女性を魅了した好色家』、『手段を選ばない冷酷な資産家』、『多くの人々を救ってきた聡明な慈善家』、…と、まるで多重人格者。
・狼遊戯邸四兄弟
当主と四人の愛妾からそれぞれ生まれた、血が半分つながった兄弟らしい。全員とてつもなく当主が嫌いか苦手か、憎んでいる。
それぞれに秀でていて、大きな欠落を抱えている今回の容疑者。
・悪魔
当主が契約していたとされる悪魔。
意識や記憶を操ることができる魔法を主に使う。その魔法を使い、屋敷から抜け出そうとした使用人を発狂死させたり、屋敷に住む人間たちの記憶をぼかしたりした。
ユキナリ
神崎探偵事務所で働いている探偵助手。
ソウシロウの元に培ってきたスキルを使用し、サポートをする。
四人兄弟に何故か懐かれている?
ソウシロウ
神崎探偵事務所の探偵。
元警察官で未だに衰えないスキルを使用し、事件解決を目指す。
ユキナリを子供扱いすることが多いが、彼は童顔である。しかし年上である。
ショウマ
女好きで軽薄そうな長男。四人の中で世渡り上手で一番愛想が良い。
当主に対しては、無関心を装っているように見えて、ずっと母と自分の存在を認めなかったことに関して嫌悪を向けている。
上流階級に近い一般階級出身。弟たちと比較しても、自分は恵まれているということを客観的に理解している様子。
コウ
金のためならば手段を選ばない冷酷な次男。四人の中で一番頭が良い。
当主に対しては、母を苦しめ続け死なせたこと、さらに祖母を間接的に死なせた原因として、憎悪を向けている。
元々は貧民街出身で、周囲から迫害されていた。一応兄であるショウマを内心見下している反面、トモヤを気にかけていたり、リンタロウと仲が悪かったりする。
トモヤ
自己否定を繰り返し、自傷しがちな三男。四人の中で一番優しい。
当主に対しては、生まれてからずっと『いないもの』として扱われてきた結果から、苦手意識を持っている。
トラウマなので、当主のことは禁句。うっかり告げたら自傷行為をし始める。部屋から出ない、というか出られない。
貧民街に近い一般階級出身。昔は暴力を振るわれることが多かったので、屋敷に来た当初は怪我でボロボロだった。他兄弟たちと関われない。
リンタロウ
何を考えているかよく分からない末っ子。四人の中で一番力が強い。
当主に対しては、『ホンっトーに最低だよね♪ 僕、だーいきらぁい♪』と笑顔で告げてくる。
時には意味深な発言をすることもあるが、基本的には戯けている。
出身地は不明。本人も気がついたらここにいて、前にいた場所はよく覚えていないらしい。兄たちにはフレンドリーに接しているらしい。
ミサキのことを姉のように慕っているが、姉弟ではないと言う場合と、大切な姉さんと言う場合がある。
狼遊戯邸に到着したソウシロウとユキナリであったが、四兄弟たち及び使用人たちが集まったのにも関わらず、肝心と当主がいつまで経っても現れない。
とある使用人がマスターキーを使って、当主の部屋を開けると…
首を切り落とされた当主の遺体が発見されたのだった。
ユキナリたちは当主の遺体を発見した後、見てしまった一人の使用人が叫び、屋敷の外に飛び出してしまう。
その瞬間、発狂死してしまい、その様子に茫然としていると、張り紙が室内に突然現れる。
『黒山羊が殺された。
羊の皮を被った狼は四匹の中にいる。
二人の狩人は狼を暴き、処刑すべし。
羊を殺せば夜は続き、やがて狼が残れば狩人が死ぬ。
狼を殺せば、羊たちに安息の黎明が訪れるであろう』…と。
・狼遊戯邸
広く立派な屋敷。所々に狼と羊の像や絵が飾られている。なお、『何か』によって屋敷から出られなくされている。
朝は来ないが時計の針は動いている。
ユキナリたちは屋敷を探索し、犯人を見つけ出さなくてはならない。
・使用人たち
双子のメイドのリツとイトカと執事のノリスケとノリト、同じく執事とメイドを担う兄妹のチグサとチエ。メイド長のミサキ。警備のレイトとラキナとユウト。
教師だった執事長のオサム。舞台俳優を目指している料理長のタクヤと料理人のユミカ。いろいろあって、警察官を首になり、彷徨っていた警備のタケオ…など。
全員身寄りがないところを当主に拾われ、衣食住を提供される代わりに働いているらしい。
なお、全員に完璧なアリバイがある。
・探偵と助手、そして事件
当主を見るも無残に殺され、それを見て動揺した使用人の1人が警察を呼ぼうとしたのか、逃げ出そうとしたのか屋敷の外へと飛び出して、発狂死した。
とにかく、ソウシロウとユキナリは周囲をまず落ち着かせてから、現在判明している事実を共有することにした。
「…よし、みんな少しは落ち着いてくれたね」
落ち着いた、というよりは無理にでも冷静にならなければならないという強迫観念からだとユキナリも分かっていた。…自分もそうだからである。
「た、探偵さん…一体…この屋敷で何が起こっとるんですか…?」
「な、何でこんなことになっちゃってんだよ…! 何で当主様が、ワタシたちがこんな目に遭わなきゃならないんだよ…!」
「お姉ちゃん…! 気持ちは分かるけど…」
ミサキが他の不安そうな表情を浮かべているメイドたちを気にかけながら、ソウシロウに問う。
「そうだね、まずは今の段階で分かっていることを共有しようと思う。話の途中で疑問に思っても、話が終わるまでは口にしないでほしいな」
ソウシロウは始めに彼らにそう告げてから、当主の部屋という現場を一通り捜査して分かったことと、発狂死してしまった使用人。そして、この屋敷で何が起ころうとしているのかについて、話すことにした。
***
「…話を最後まで聞いてたけど、ごめんなさい。り、理解が追いつきません…」
「わ、私も…」
恐怖と混乱で、うまく事実を処理できなかった者が何名か現れた。
「…俺たちに分かっておくべきことは、大きく分けて全部で三つだということだ」
それを見かねたのか、コウが呆れたような顔をしながら口を開いた。
「はあ…良いか? まず、この屋敷からは謎の力が働いて出られない」
使用人が発狂死したのは、その謎の力が原因とされる。なお、探偵であるソウシロウ、そしてその助手のユキナリが出ようとした場合は、夥しい荊棘の壁が現れたことによって、少なくとも人間業ではないことが判明した。
「じゃ、じゃあ、あの人が殺されちゃったのは…」
「見せしめ代わりだろうな」
「うぅ…そんな…」
「泣かないで、チエ。確かに悲しいことだけど、みんなを同じ目に遭わせないためにも、ちゃんと話を聞こうね」
チエが泣いているのを見かねたチグサがよしよしと慰め、話を続けるようにコウにアイコンタクトをした。
「…次に、当主は何者かによって殺害され、俺たち四人兄弟の中に犯人がいると考えられる」
「…あー、だよなぁ。アリバイ無いのは俺たちだけだし、動機があるのも俺たちだけだから…まあ、出来るかどうかはともかく、そうなるよなぁ」
「そ、そんな…!」
「ふうん…?♪ なるほどね?♪」
突然現れた張り紙はともかく、現状でアリバイがない自分たちが容疑者として当てはまるのだろうと、理解しているようだった。四人は、それぞれ異なった表情を浮かべている。
「た、確かにそういうことになっちゃいますけど…頭ごなしにそういう風に接するつもりはありませんから…!」
「フン…どうだか」
冷たくコウにそう言われて、ユキナリは内心少し傷ついた。それを察知したのか否か、よしよしとソウシロウに励まされるように頭を撫でられて、『また子供扱いしてる…』と不満と照れがユキナリの中で勝った。
「そして、犯人が処刑されるまで俺たちは出られないし、朝も来ないということだろう」
ある意味、ここが重要とも言える。使用人たちは犯人を見つけるために協力し、他兄弟たちも互いを疑い合い、探偵たちは細心の注意を払って、容疑者である四兄弟と接しなければならない…。
不和を産む原因となった『犯人』。そして、その犯人を見つけ出し…ーーー『処刑』する。
これで、今まで通りとはいかないのである。
「…とにかく、今日はみんな休もうぜ? 朝は来ねえからあれだけど…一応電気は点くし、備蓄もあるし…とりあえず明日また考えようぜ?」
ショウマが沈んだ顔の面々を見て、そう言った。
「探偵さんたちも、来たばっかでこんなこと巻き込ませちゃってごめんな?」
「い、いえ…きっと誰にも、分からなかったでしょうから」
ユキナリがショウマにそう言って、事件現場の見張り役やら、部屋に鍵をかけることを約束してから、明日また捜査や探索を行うことになった。
***
部屋に戻り、しっかりと鍵を閉めた。
「はあああぁぁぁ…」
もう息が詰まって、詰まって仕方がなかった。あの緊張感と種類は違えど四兄弟の圧力はとてつもないものだった。
「あはは…ユキナリくん、ヘトヘトだねえ」
「ソウシロウさんがあんな状況でもしっかりしてるから、俺もって頑張りましたけど…あー、怖かった…」
特にコウにジロリと睨まれたり、ショウマにボディタッチされたり、トモヤにずーつと物陰から見つめられたり、リンタロウに背後から驚かされた後さらに抱きつかれたり…。
「懐かれてるねー♪」
「どこがですか!? あれは目の敵か、おもちゃ扱いですよ!」
そうソウシロウに言って、これが『犯人を処刑するまで続くこと』を改めて思い出して、ユキナリは不安からか無意識に枕をギュッと抱きしめた。
「…大丈夫、大丈夫だよ」
それを見たソウシロウが、上着をハンガーにかけてから、あやすようにユキナリを抱きしめた。
「君は、僕の助手なんだから。犯人が見つかっても…君にそんなことは絶対させないからね」
優しく優しくユキナリの胡桃色の髪を撫でて、子守唄のような声でそう囁いて、ユキナリを安心させる。
「…ずるいなぁ」
普段は子どもっぽいのに、こう言った時にいつも隠している大人の魅力を出してくるものだから。
「大人はずるいんだよ〜♪」
どうやらお互いにいつもの調子に戻ったようだ。ソウシロウはパッとユキナリを離して、そう言った。
「……」
そして、突然口を閉じて、こちらをじっと考えているように見つめてくるものだから、ユキナリはたじろいだ。
「そ、ソウシロウさん…?」
どうしたんですか、と続く言葉は遮られた。
「ユキナリくん…僕、黙ってたんだけどね」
真剣な表情と声が向けられる。
「…———あそこの家の兄弟は、四人兄弟じゃないんだ」
続いて出てきた言葉は、信じられなかったものだ。
「え…えぇ!? いや、それはおかしいですよ!」
使用人たちは全員『四人兄弟』を当主の子供として認識していたし、あの兄弟も互いを血が半分繋がった存在として認識していたはずだ。
「僕は、当主に会ったことがあるんだ」
「そうだったんですか!?」
「うん。まあ、記憶がぼかされているせいで、どんな顔だったか思い出せないけどね…」
「そ、それって…!?」
事件現場である当主の部屋を探索した際に見つけた、パスワード付きの手記が思い出される。
中に書いてあったのは、『人の意識を、記憶を操る悪魔との契約』。
それは、つまり。
「あの中に…兄弟に化けた悪魔がいるってことだね」
十二日間屋敷を探索し、証拠を集め、十三日目に犯人である狼を探す。
ちなみにソウシロウサイドとユキナリサイドで、発見できるものや気付けるもの、聞き取り調査によって収集できる情報が違う。
狼を処刑できれば、屋敷から脱出できるが羊を殺せば無駄死にとなってしまい、またもう一週間追加される。
なお、悪魔を処刑してしまった場合は…。
・部屋について
一階にエントランス、食堂、台所、倉庫、食糧庫、電力室、浴室。二階は全て使用人室(全部で12部屋ある)。三階は全て客間(10部屋ある)。四階に当主の部屋、書斎、武器庫、空き部屋。
・螺旋階段
西と東にある螺旋階段。一階から四階まで各階に移動できる。西にだけ天井に鐘がついている。
チュートリアルで得られる証拠や情報のまとめ。
・使われていない井戸
中庭には井戸があるらしいが、とうの昔に枯れているため使用人たちは使ったことが無い。
・鐘
西の螺旋階段から見上げることができる、朝を告げる巨大な鐘。屋敷が変なことになっても、きちんと鳴るようになっている。
・証拠
・当主の遺体
首から上を刃物のようなもので切断されている。しかし、他に外傷は無い。争った形跡も無し。
・事件現場
まるで撒き散らしたような血痕や、斬撃痕などで荒らされている。
・武器庫
武器庫は常に鍵がかかっている状態。武器庫の鍵は無くされたままで、執事長またはメイド長が持つマスターキーが無ければ入ることができない。
『四人の中に犯人がいる上に、悪魔が潜んでいる』。
そのソウシロウの言葉を裏付ける証拠……つまり、『後継者候補が屋敷に来てから取られた写真』を、ユキナリは探索中に発見した。
その写真は、使用人たちははっきりと写っていたが、当主も後継者たちは塗りつぶされてしまっていた。
しかしなこれで、『狼遊戯邸の兄弟は三兄弟であり、一人は悪魔が化けた偽者である』ということが確定した。
「ソウシロウさんに伝えなきゃ…!」
何気なく呟いたその言葉と共に、心臓を揺らすような鐘の音が鳴り響き、『キャアアアァァァ!!!』と、女性の悲鳴が聞こえた。
嫌な予感がして、ユキナリがその悲鳴がした方へと走ると…
「う、そ…」
カラン…カラン…
と、今もなお響き渡る鐘の音と共に、吊り下げられたピクリとも動かないソウシロウが、ゆらゆらと揺れていた。
それを、茫然と見上げるしかない、ユキナリには、彼がどんな表情を浮かべているかなんて、分からなかった。
探偵であるソウシロウが吊るされた状態で発見されるも、高さ故に下ろすことができないことが判明した。
話し合いの結果、西螺旋階段はなるべく足を踏み入れないことにする、ということになった。
ショックで塞ぎ込んでいたユキナリだったが、現場に残されていたソウシロウの手帳を読み、真相を暴くことを決意したのだった。
…そして、そんなユキナリを嘲笑うかのように、妙な気配が常にまとわりつくようになる。
・銃痕
当主の部屋を改めて探索すると、黒山羊の絵画を退かすと発見できる。
・布の切れ端
暖炉で発見したもの布の切れ端。
使用人に聞けば、クッションの生地であることが判明する。
・屋敷の時計
朝が来なくても正常に時を刻んでいる…かと思いきや、ソウシロウが持っていた電波時計より三十分早いことが判明した。
・井戸から香る血の臭い
ソウシロウの手帳に書かれていた。
もしかしたら頭部はそこに遺棄された可能性がある。
・ソウシロウの手帳(NEW!)
ソウシロウがまとめておいた、彼なりの推察と発見した証拠が残された手帳。
最後に書かれた言葉は、『僕は悪魔に殺される。どうしても避けられない。だけど、君なら真実を見つけられるって、信じてるから』。
鉛筆でその文の下を薄く塗ってみると、『悪魔の狙いはユキナリくんだ。どうか気をつけて』という言葉が浮かび上がる。
・どこかの鍵
地下室で発見した鍵。光の角度によっては、虹色に見える。
見ているだけで不安になってくる。
どこの鍵なのかは使用人に聞いてもわからないが…?
チュートリアル終了後、メインキャラ(容疑者)の親密度を上げられるようになる。
基本的には会話。正しい選択肢を選んでいけば上がっていき、間違えれば下がる。乙女ゲーと一緒。
親密度は、低・中・高・?の全四つ。攻略の難度は、コウ>リンタロウ>ショウマ>トモヤ。
さらに親密度が高になると、一緒に探索及び推理してくれるようになる。…もちろん、犯人か悪魔の親密度を上げていなければの話だが。
ソウシロウを失ったユキナリは、少しずつ精神をすり減らしながらも、探索と推理、そして情報収集を続けた。
使用人たちは少しずつ不安を隠せないようだったが、それでもユキナリを邪険に扱うようなことはしなかった。
容疑者である四人兄弟に対して、警戒する者や怖がる者もいるが、その辺りは上手くバランスを取れているらしい。
ユキナリも以前よりも積極的に関わるようにし、一緒に探索したり、推理することも増えていった。
…しかし。
「あの中に悪魔と犯人がいるんだよね…」
悪魔と犯人が同じなのか。それとも別なのかによって、大きく変わってくる。どうにか判別する方法が見つかれば良いのだが…。
「でも、もしも見つからなかったら…」
そんな、不安に押しつぶされそうになる。
「…大丈夫、大丈夫。俺はまだやれる…」
お守り代わりに肌身離さず持っているソウシロウの手帳を、胸ポケットの上から触れて、目を閉じてゆっくりと息を吸って吐いた。
「…よし」
部屋の鍵をしっかりと閉めて、ユキナリが向かったのは…使われていない中庭の井戸だ。
ヒュオオオ、とまるで大きな口を開けているような暗闇から、生暖かい風吹いていた。
「…やっぱり」
ソウシロウの手帳に書かれていた通り…血の臭いが微かに香る。当主の首はこの下に落とされた可能性がある。
「怖い、けど」
自分の目で確かめにいかなければならない。
そう考えたユキナリは、縄梯子をかけて、ランタンを点けてゆっくり、ゆっくりと慎重に降りていった。
ギシ、ギシ、ギシ…。
縄梯子が軋む。井戸の中は外よりもさらに暗い。不安と恐怖を煽られるが、ユキナリは足も止めずに、しっかりと縄梯子を掴んで、着実に降りて行こうとした。
…シャキン、と誰かに縄梯子を切られるまでは。
「嘘っ…!?」
井戸の底へと落ちていくユキナリを見下ろしている者が、何者なのかは分からなかった。
***
「困ってるみたいだね?」
「…なるほど。大切なものをなくしちゃったんだ」
「よぉし、じゃあ僕が見つけてあげよう♪」
「ふふっ…♪ 僕は探偵だからね。探し物は得意なんだ」
「え? お礼? 別に良いのに、僕がそうしたかったからそうしただけだし…」
「そこまで言うなら…じゃあ、約束してくれるかな?」
「今度は君が僕を見つけてね」
***
井戸の底へと激突する前に『何か』によって、ユキナリは受け止められた。
「———————」
『何か』、否、黒い巨大な手を人間の手に戻らせて、気を失ったままのユキナリを、…『それ』はお気に入りの人形のように抱えて、地下室へと進んでいった。
そして、ユキナリをそこへ寝かせると、最後に頬を撫でてから、出て行った。
「あと少し」
そう、呟いて。
***
地下室で目を覚まし、はじめは混乱したものの、もっと驚くようなことがユキナリの視界に入ってきた。
その部屋は『悪魔を殺す方法』が記された本や、悪魔の弱点とされる聖銀などで作られた武器やらが詰め込まれていたのだ。
「ど、どういうことなんだ…?」
当主は悪魔と契約していた。だからこそ、自分たちが閉じ込められたのだから。
「でも、誰かが…悪魔を憎んでいたってこと?」
仮にそうなのだとしたら、この部屋は悪魔を倒すために有用な部屋であると考えられる。…もちろん、ここにあるもの全てが悪魔の嘘でなければの話だが。
「とにかく…当主が契約した悪魔について書かれた本とかあったりしないかな」
そうして、一通り探索して、ユキナリは見つけた。
当主が契約したとされる悪魔…三面鏡の悪魔について記載された本と、聖銀のナイフを。
・聖銀のナイフ(NEW!)
鏡の悪魔を殺せるナイフ。
しかし、人間に化けている悪魔を刺すのではなく、本体である鏡に投げつけて使用する。
ちなみにこれを持っていると、悪魔は近寄らなくなる。
・情報(NEW!)
・三面鏡の悪魔について
狼遊戯邸当主が契約していたとされる悪魔。本体は三面鏡であるとされるが…?
主に、意識や記憶を操る魔法を使い、ユキナリたちを閉じ込め、狼遊戯邸四兄弟の中の一人に化けている。
しかし、聖銀のナイフが弱点で人間に化けていても、苦手意識がある模様。
何故かユキナリを狙っているらしい…?
あの地下室からは、閉じ込められてしまうなんて事もなく、案外簡単に出ることができた。
「…血の臭いがする」
やはりここは、井戸の底で間違いなかったようだ。辺りはどこか湿っぽく、じっとりとした空気と土の臭いがする。そして、壁には青い炎が灯された蝋燭がユキナリから見て奥へと並んでいて、正直なところ心許ないが静かに道を照らしていた。
「扉が…!」
ふと、振り返ると先ほど自分が出てきたはず扉がただの壁になっていた。躊躇したものの、ぺたぺたと触ってみても苔の生えた煉瓦の壁であることしか分からない。
「行くしか…無いよね…」
気休め程度に手帳に触れて、ユキナリは進むことにした。
…
しばらく歩いて、ユキナリは気がついた。
反対側から何者かがこちらへと、ゆっくりと歩み寄ってきていることに。
「だ、誰かいるの…?」
そう言って、ぞわりと鳥肌が立った。
青い炎に照らされたその姿は、まるで顔がインクか何かで真っ黒に塗りつぶされていた男だった。
思わず後退り、逃げようとして…足がピクリとも動かないことに気がついた。脳がいくら身体に叫び、命令しても言うことを聞かない。自分の目すらも、『それ』がこちらに近づいて来るのを見つめることをやめられなかった。
「(これが…————悪魔…!!)」
人ではないことはもう分かっていた。身体が勝手に震えだし、血の気が引き、鳥肌が立ち続けている。
そんなユキナリから少し離れたところに『それ』は…否、悪魔は立ち止まった。
「あーあー、ユキナリくん…そんな危ねえもんどっかから見つけたんだよ?」
そして、ショウマの声で、聖銀のナイフを持っているユキナリに話しかけてきた。
「…!? しょ、ショウマさん…なんですか!?」
声が、出せた。それとも悪魔が話させているのだろうか。ユキナリには分からない。
「そう思うか? 随分と簡単な頭をしているんだな、探偵助手のくせに」
かと思いきや、コウの声で悪魔は呆れたようにそう言った。
「…」
「そ、そんな顔しないで…別に僕は君に悪いことをしにきたんじゃないんだよ…」
警戒と嫌悪を露わにするユキナリに、トモヤの声で宥めるように悪魔は言った。
「俺を…殺すために縄梯子を切っておいて、そんなことを言うの?」
「えぇ〜…誤解だよ♪ 殺す気は無かったよ?♪ ただちょっと、邪魔が入ってこないように切って置いただけー♪」
だから死ななかったでしょう?…なんて、おちゃらけたようなリンタロウの声で悪魔は、どうにか震えと恐怖を押さえ込もうとしているユキナリに、告げた。
「信用できない…」
「だろうな? 悪魔なんてそういうもんさ」
黒く塗りつぶされ、あの四兄弟の声を真似る悪魔。こちらに誰に化けているのかを悟らせないあたり、しっかりしている。しかし、姿を現したからには理由があるはずだとユキナリは気がついた。
「…このままだと、埒が明かないからな。ヒントをやることにしてやったんだ」
こればかりは、嘘をつくつもりはない。
そう告げてから悪魔は、警戒しつつも耳を傾けるユキナリに語る。一つは、悪魔は四人兄弟の中の一人に化けていること。もう一つは、悪魔と犯人は別人であること。そして、最後に…。
「使用人たちは本当のことを言ってるけど、僕たち兄弟が本当のことを言うとは限らないよ♪」
だからって、話そうとしないのもどうかと思うけど、ね?
犯人…または悪魔と二人きりになることを警戒したユキナリが、容疑者である四兄弟となかなか接触しないことに痺れを切らしたのか…それとも別の意味があるのか。悪魔は確かにそう言った。
「…俺からも三つだけ聞いて良い?」
「本当のことを言うとは限らないけど…良いよ? 何が聞きたいの?」
「一つ目。ソウシロウさんは…お前が、悪魔が殺したの?」
「…違うけど? 表舞台から降りてもらいたかったのは本当だけどな」
少しの沈黙の後、悪魔はそう答えた。
「…二つ目。四人兄弟の中に本当に犯人がいるの?」
「冷静に考えろ。そうでなければゲームにならないだろうが」
ゆらり、と蝋燭に灯された青い炎が揺れた。
「三つ目。これが最後の質問。当主の死因は刃物による出血死じゃないよね?」
「それを聞いちゃうんだね…。うん、そうたよ。首が切り落とされていたのは、本当の死因を隠すため…。そして、周りの血は輸血だと思うな…」
黒く塗りつぶされた顔が、笑っているように見えたのは気のせいだろうかと、ユキナリは冷や汗を拭いて、思うことにした。
「聞きたいことは、三つだけ? 対価をくれるならもっと答えてあげても良いよ♪」
「…遠慮しておくよ。悪魔にのお眼鏡に叶う対価なんて、俺には持ってないし」
対価を払ったからと言って、本当のことを言う保証もない。
「…つれないなぁ、ユキナリくん。その手帳でもくれたらもっと良いこと教えてあげようと思ったのに…」
「…」
あの手帳を指差す悪魔を、ユキナリは手帳を庇いながら睨む。早く自分の前から消えろとでも、言い放つように。
「フン…嫌われたものだな? まあ、構わない。このゲームに勝てば、お前の魂だって、俺の物になるのだから」
そう、最後に吐き捨てて、悪魔はユキナリの前から消えた。
「……っ」
悪魔が完全に自分の前からいなくなってから、ユキナリは膝をついた。泣きたいわけではないのに、涙が勝手に出てきて、止まれってくれなかった。
「ソウシロウさん…!」
『大丈夫、大丈夫だよ』、と。
安心させてくれる声と温度で、自分をいつも奮い立たせてくれた彼がもういないなんて。
そんなことはもう分かり切っているのに、挫けそうになる自分が…ユキナリは嫌だった。
両側の壁の一列に並んだ蝋燭に、灯された青白い炎が、そんなユキナリを静かに照らしていたのは言うまでもない。
井戸からようやく出て来れたユキナリは、使用人たちに保護された。
先ほどの涙で赤くなったユキナリの目には何も言わずに、使用人たちは心配しながらも、不安をどうしても隠せずにユキナリに捜査はどこまで進んだのかを問う。
「皆さんの協力のおかげで屋敷の探索は終えることができました」
だから、ここからは。
容疑者である四兄弟の事情聴取を行う、と。
ユキナリは使用人たちに告げ、それぞれ知っている情報を話してもらうことになったのだった。
タケオ、チグサがショウマ担当。リツ、イトカがコウの担当。ノリスケ、ノリトがトモヤの担当。そして、ミサキとチエがリンタロウの担当だった。誰が誰の担当かどうかは、他の仕事や人間関係も考慮して、順当な話し合いで決まったらしい。
・ショウマに関する証言
女性の使用人は絶対に一度は口説かれる。
当主に対しては無関心を装っているが…?
後継に興味は無いが、貰えるものは貰っておこうという気持ちでここに来たらしい。
・コウに関する証言
警戒心が強い。使用人であっても、勝手に部屋に入るのは許されない。
当主のことは、とても憎んでいる。
後継者については胡散臭さを感じつつ、当主が蓄えてきた財産には興味があるから参加したらしい。
・トモヤに関する証言
本当に優しいが、精神が不安定。当主のことは禁句。
とても鍛えているのは恐らく自己防衛のためと考えられる。
半ば誘拐される形でここに連れて来られたらしい。
・リンタロウに関する証言
何を考えているのかよく分からない。
ミサキを『姉さん』と呼んだり、『ミサキちゃん』と呼んだりする。
本人は館に来る前のことを何も覚えていないが、当主のことが嫌い。
屋敷の時計が30分早く設定されていた点。容疑者である四兄弟のわざとかと思うほどのアリバイの無さと動機。対して、使用人たちの完璧なアリバイと動機の無さ。
ユキナリは緊張と不安をどうにか抑え込みながら、狼か…悪魔が潜む彼らの部屋へと足を踏み入れたのであった。
ユキナリは探索及び捜査時間の合間に容疑者である四兄弟とコミュニケーションを取ることで、親密度を上げることが出来る。
そして親密度が高くなると、一緒に探索してくれたり、推理してくれるようになる。
悪魔か…犯人でなければ嘘を吐かれることも無いはず。彼らの言葉から目星をつけるのもあり…?
…血のように赤い扉の先。
その長男は、入ってきた探偵に視線を向けて、気前良さそうに微笑んだ。妖しく、琥珀色の瞳を光らせて。
「お、来たか。俺に何か聞きてえことがあるのかなー?」
どこか居心地の悪さを感じながらも、ユキナリはショウマと話すことにした。
腹の底を探る、お茶会の始まりである。
・どうする?
→「当主について何か知っていますか?」
親密度・低
「そうだなぁ…まあ、俺にとってはあんまり良い人じゃなかったなぁ。『女遊びは大概にしろ』とか…お前が言う?みたいな感じでさ?」
親密度・高
「あはは、ユキナリくんは俺のこと、もう分かってるだろ? …大嫌いだよ、ずっと。だから、あんな風に殺されてくれて清々したよ」
→「悪魔について何か知っていますか?」
「え、悪魔…? 急にオカルトだな? どうした? チエちゃん辺りがそう言ったの?」
→「誰が犯人だと思いますか?」
「…俺に聞いちゃう? んー、そうだなぁ、コウくんならもっと上手くやるだろうし、トモヤくんは首切るとかしなさそうだし…リンタロウくんとか? …あー、ダメだ。やっぱ、俺には分かんねぇや」
→「何か話しませんか?」
親密度・低
「おっ、いいね! 殺人事件だとかそういう話より…もっと楽しい話しようか! …ところで、ユキナリくんは童…「失礼しましたー」ちょっ、待ってくれって! 冗談だよ!」
親密度・高
「じゃあ、そうだなぁ…確かソウシロウさんだっけ? その人とはどんな付き合いなのか、おじさん知りたいなー?」
→「俺に何か聞きたいことや、何かお願いしたいことはありませんか?」
親密度・低
「女の子連れてきて欲しいなー…ダメ? そっかー、それは残念」
親密度・中
「何でもいいの? それなら、たまに部屋に遊びにきて欲しいな。いやいや、ユキナリくんと話してると楽しいんだよ」
親密度・高
「じゃあ、俺もついて行って良い? 何となーく、心配なんだよね」
親密度・?
「あー…今はいいや。…ん? いや、ついて行くよ。ユキナリくんに変な奴がくっつけねえようにしねぇと」
…深海のように青い扉の先。
その次男は、入ってきた探偵に視線を向けて、見定めるように細めた。冷たく、浅葱色の瞳を突きつけて。
「…何の用だ」
突き刺すような警戒を感じながらも、ユキナリはコウと話すことにした。
腹の底を探る、お茶会の始まりである。
・どうする?
→「当主について何か知っていますか?」
「当主…? ろくな奴じゃないことは確かだ。まあ、あいつは知識や技量は評価するがそれ以外は底辺と言っていいだろう」
→「悪魔について何か知っていますか?」
「悪魔? お前は何を言ってるんだ…と言いたいところだが、こんな摩訶不思議なことが起きてるんだ。そういうのがいたとしても別に驚きはしないが…俺は何も知らない」
→「誰が犯人だと思いますか?」
「…証拠も情報も、俺たちが怪しいというだけで決定的なものじゃない。少なくとも、現段階で結論は出ないだろう」
→「何か話しませんか?」
親密度・低
「しない」
親密度・中
「しないと言って…はあ、分かった。話してやる。その代わり会話料を払えよ。…冗談だから財布を取り出すな!」
親密度・高
「お前は何でそこまで…いや、良い。おい、そこにいつまで立ってるんだ。さっさと座れ」
→「俺に何か聞きたいことやお願いしたいことはありませんか?」
親密度・低
「無い。強いて言うなら、一刻も早く事態を解決したらどうなんだ」
親密度・中
「…お前の推理と俺の考察をまとめておいた。目を通しておけ」
親密度・高
「俺も連れて行け。…手伝ってやると言ってるんだ。察しろ」
親密度・?
「…今は、信じてやる。ここまで俺を変えさせたんだ。裏切ったのなら…責任は必ず取らせるからな」
…月のように黄色い扉の先。
その三男は、入ってきた探偵に視線を向けて、見惚れるように目を丸くした。キラキラと、空色の瞳を輝かせて。
「あ…ユキナリくん…」
何となく落ち着くような雰囲気を感じながらも、ユキナリはトモヤと話すことにした。
腹の底を探る、お茶会の始まりである。
・どうする?
→「当主について何か知っていますか?」
親密度・低〜中
「…とう、しゅ…さ、ま…? …あ、あ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…!!!」
親密度・高
「…ごめん、あの人は僕、あまり分からない…」
→「悪魔について何か知っていますか?」
「悪魔…? 言われたことはあるけど、それがどうかしたの?」
→「誰が犯人だと思いますか?」
「…いない、と思う。みんな、良い人だし…」
→「何か話しませんか?」
親密度・低
「え、えっと…ユキナリくんのことがもっと知りたいな…」
親密度・中
「探偵ってどんなことをするのかな…聞いても良い?」
親密度・高
「ユキナリくん! あのね、前に筋肉がうまくつかないって言ってたでしょ? メニューを作ったから、事件が終わったら一緒にやらない?」
→「俺に何か聞きたいことはありませんか?」
親密度・低
「え、えっと…大丈夫、だよ。頑張ってね、ユキナリくん」
親密度・中
「僕と、友達に…なってくれる…?」
親密度・高
「待って、ユキナリくん! 僕もついて行きたいんだ。…確かに、怖いけど、君を守るためなら僕、いくらでも強くなれるから!」
親密度・?
「君とずっと一緒にいたいなんて…わがままかな?」
…闇のように黒い扉の先。
その末っ子は、入ってきた探偵に視線を向けて、表情を浮かべずにじっと見つめてきた。吸い込まれそうなほど、紫色の瞳を開かせて。
「…こんにちは♪ …あれ? ずっと夜だから…こんばんはになるのかな?♪ 僕に何が聞きたいの?♪」
何となく違和感を持ちながらも、ユキナリはリンタロウと話すことにした。
腹の底を探る、お茶会の始まりである。
・どうする?
→「当主について何か知っていますか?」
親密度・低〜高
「大嫌いだよ!♪」
親密度・?
「本当に馬鹿な人だよ…今更、過ちに気がつくなんて。…何もかも、遅いんだよ」
→「悪魔について何か知っていますか?」
親密度・低〜高
「悪魔か…チエちゃんの儀式は別に関係なさそうだしなぁ…うーん? ごめん、僕、分かんないや♪」
親密度・?
「…本気で言ってる?」
→「誰が犯人だと思いますか?」
「先入観に囚われちゃダメだよ、ユキナリくん。一度、『普通』とか『当たり前』は壊した方がいい。向こうは、こっちをいくらでも欺けるんだから、ね…」
→「何か話しませんか?」
親密度・低
「あはは♪ ユキナリくん、お化けの話する? この屋敷には怪談話があって…」
親密度・中
「姉さん…? な、何のこと? 確かに僕はミサキちゃんと仲良いけど、別に姉弟とかそういうのじゃないよ?」
親密度・高
「姉さんはね、優しくて、可愛くて、料理上手で…本当に大好きで大切な家族なんだ。僕に、残った、唯一の…え? 前と言ってることが違う? あれ? そう、だっけ…?」
親密度・?
「ユキナリくんは可愛いねえ♪ からかってなんかいないよ? ミサキちゃんはあげられないけど、仲良くできそうだなあ…♪」
→「俺に何か聞きたいことや、お願いしたいことはありませんか?」
親密度・低
「んー、特にないかな? …あっ、ミサキちゃんには変なことしたら僕怒るからね♪」
親密度・中
「姉さんに変なことしてないよね? …まあ、してないならいいんだけどさ…」
親密度・高
「僕も行くよ♪ 犯人を探さなくちゃね♪ あと、ユキナリくんは正直弱っちいし…うわあ!? 拗ねないでよ!」
親密度・?
「…どうしたの? 僕の顔に何かついてる? …そんな顔しないでよ、君なら絶対に犯人を見つけられるって♪ 僕もそばにいるしね♪」
親密度・高になった四人の中の誰かに渡せるようになる。ただし、一つだけなので渡す相手は慎重に選ぶ事。
・鍵を渡しますか?
→はい
いいえ
・ショウユキルート
「鍵…? あぁ、なるほど…」
「どこの鍵か分かるんですか?」
「正直賭けだけど…たぶん、合ってると思うぜ」
「えっ、じゃあ、そこを開けに行きます?」
「…いや、やめておいた方がいいな」
「どうしてですか?」
「化け物が出るからさ。少なくとも、ユキナリくんは持ってない方が良いと思うぜ?」
「でも、ショウマさんも危ないんじゃ…」
「君が危ない目に遭うよりはマシだよ」
ショウマに鍵を渡した。
コウユキルート
「…それをどこで手に入れた?」
「えっと…地下室で見つけて…でも、どこの物かはみんな知らないらしくて…」
「お前が持っているべき物じゃない。だから、渡せ」
「ええっ…!?」
コウに鍵を取られてしまった…。
トモユキルート
「あ、それ…」
「トモヤくん、この鍵がどこの鍵なのか知ってるの?」
「うん…でも、ユキナリくんは持っていない方がいいと思うから、僕に渡してくれないかな…?」
「どうしてそう思うの?」
「それは…その鍵を、君がずっと持ってると良くないことになる…そんな夢を見たんだ。…ごめん、僕、何を言ってるんだろう。信じられないよね、こんなこと急に言われても…」
「い、いや! 信じるよ! トモヤくんは俺の友達だし!」
トモヤに鍵を渡した。
リンユキルート
「あ、あそこの部屋の鍵を見つけてくれたの?♪」
「え!? リンタロウはこれがどこの鍵なのか知ってるの?」
「知ってるよ〜♪ …あの人が、悪魔をしまっていた部屋の鍵だからね」
「悪魔をしまっていた…?」
「僕も詳しいことは分からないけど、たぶんそうだろうね♪ …ねえ、ユキナリくん」
「な、何…?」
「その鍵、僕に貸してくれない? たぶん君が持ってると…逆に閉じ込められる可能性があるから」
「な、なるほど…」
リンタロウにどこかの鍵を貸した。
攻略対象の親密度が低い〜高い場合は、
長男『あーあ…よりにもよって俺を選じまうんだな、ユキナリ』と、恨み節を吐かれるパターン
次男『…お前のことなど…信じなければ良かった…』と、静かに罵られるパターン
三男『ねえ、やめて、ユキナリくん…お願い、お願いだから…そんな目で僕を見ないで…!』と、泣かれるパターン
末っ子『…そう。…いや、ありがとう…ユキナリくん。…それから、ごめんね。姉さん…』というようなパターン…など。
このように、各キャラによって変化はあるものの、普通に生き残った面々で脱出できる。
ショウマが処刑された場合、後継はコウ。コウが処刑された場合、後継はショウマ。トモヤが処刑された場合、館そのものが無くなる。リンタロウが処刑された場合、数日後にユキナリが殺されることになるという変化が現れるという、後味の悪いノーマルエンド。
親密度・高の攻略対象に『どこかの鍵』を渡した場合…その鍵を受け取った相手は、三面鏡の悪魔に映されることとなり、悪魔と入れ替わるので、強制的に処刑対象になってしまう(ユキナリが操られるかのように鍵を渡した相手を指名してしまうイメージ)。
窓から差し込む月光に照らされて、ギラリと白銀に光るギロチンの刃。
狩人によって、羊のフリをした狼へと振り下ろされるはずだったそれは、…悪魔を呼び起こす鍵となる。
三面鏡の悪魔は謳う。
『新たな主人の誕生である』、と。
・トモユキ
親密度・狂のトモヤを犯人として処刑するエンド
トモヤを指名し、処刑したその瞬間。月の光が強く降り注いで、ユキナリは目が眩んで意識を失ってしまう。
気がつけば、屋敷は黄色い薔薇が咲いた黒い荊棘に包み込まれていて、ユキナリもまた身動きが取れない状態にされていることに気がつく。
「ひっ…!」
荊棘ではない黒い何かが…まるで触手のようにユキナリを束縛していた。死に物狂いで暴れても取れないそれに、どんどん焦りと恐怖が滲み出てくる。
「どうして」
すると、突然上から声がした。ユキナリがハッと何とか見上げると、先ほど…ギロチンで首を切られたはずのトモヤがこちらを見下ろしていた。
「…どうして? どうして、僕だって分かっちゃったの…? どうして、僕を選んじゃったの…?」
悲しそうに空色の瞳を潤ませながら、ユキナリをトモヤは見下ろしているが、ユキナリからすればもはや友達ではなく…悪魔と契約していた犯人だった。
「どうして、僕をそんな目で見るの?」
目は口ほどに物を言う。怯えや恐怖をユキナリは瞳に語らせてしまったらしい。先ほどの表情と打って変わり、抑揚の無い冷たい声と視線が降ってきた。
「大丈夫だよ。ユキナリくんはびっくりしちゃっただけ。これからは『僕君』とずっと一緒にいられるんだから!」
トモヤの後ろから…彼の少年期の姿をした悪魔がそう言った。
「今まであんなに辛かったんだよ? やっと幸せになる日が来たんだから、もっと喜んでいいと思うなぁ」
天使のような笑顔で悪魔がトモヤにそう告げる。
「…そう、だよね。やっと…」
トモヤの仄暗い空色の瞳が、動けないユキナリの若菜色の瞳に語りかける。
「やっと、僕だけのものができるんだ」
・ショウユキ
親密度・狂のショウマを犯人として処刑するエンド
ショウマを指名し、処刑したその瞬間。赤い霧が吹き出て、血の臭いが濃くなっていくうちに、ユキナリは意識を失ってしまう。
目を覚ますと、赤い薔薇が咲いた黒い荊棘が屋敷を侵食していた。おまけに身動きも取れない…さらに貼り付け状態にユキナリはされていた。
「うわぁ…グロっ…俺の場合こんな感じになるのかよ?」
屋敷の壁も床も家具も…まるで血肉のように赤く、静脈のような模様がついていて、時折蠢いていた。これにはショウマはドン引きした様子で周囲を眺めてから、ユキナリの方へと歩み寄った。
「よっ、ユキナリくん。お疲れ様〜」
まるで部屋に来た時のように、いつもと変わらない様子で話しかけてくる。ユキナリにはそれが尚更怖かった。
「いやあ…よりによって、俺を選んじゃうなんて…おじさん、ショックだったなあ」
あはは、と言ってるがその琥珀色の瞳は一切笑っていなかった。
「あ、ちなみにギロチンで首切られちまった方の俺は悪魔だからな? 俺自身には怪我もしてないよ」
そう言って、ショウマは自分の首元を指差して、ヘラリと口元だけ笑わせた。
「…でもさぁ」
血の臭いが、香る。
「———————ユキナリに殺されて、俺は本当にムカついたんだよなぁ」
ユキナリの目の前に立ち、先ほどまでの笑顔をスッと消し、背筋が凍るような低い声でそう告げた。
「あ、今でもユキナリくんのことは結構気に入ってるからさ! 殺すとか痛い目に遭わせるとかそういうつもりじゃねえから安心してよ」
パッと笑って、先ほどとは違う明るい声でユキナリの服を慣れた手つきではだけさせながら、告げてくる。
「俺、ユキナリくんならイケると思うからさー…優しくして欲しかったら、生意気なことすんなよ?」
・コウユキ
親密度・狂のコウを犯人として処刑するエンド
コウを指名し、処刑したその瞬間。館の窓という窓から大量の水が入ってきて、ユキナリは溺れていき、意識を失ってしまう。
気がつけば、首輪や手枷や足枷をつけられた上に鎖で繋がれて、狭い檻の中に閉じ込められていた。青い薔薇が咲いた黒い荊棘がぐるぐると巻きついていて、何だか見られているようだった。
「やっとお目覚めか? 名探偵」
皮肉を込めながら、コウがそう言った。
「…コウ…さん…!」
犯人だと思って、ギロチンにかけて死んでしまったはずの彼が何故生きているのか。ここは一体何なのか。悪魔だったのか。…とにかく、聞きたいことはたくさんあったがどれも言葉にならなかった。
「———本当に、よく見破ったものだ」
射殺しそうなほど、冷たく鋭いこちらを責め立てるような浅葱色の瞳を向けられて、思わずユキナリはたじろいでしまったからだ。
「だが、残念だったな? 俺はあそこで終わる気なんて無かったし、別に悪魔を身代わりにしてはいけないなんてルールも無い」
もっとも、悪魔相手にまともに勝負を仕掛けたところでただの人間が勝てるわけもないだろうけどな。
嘲笑うようにそう言われて、ユキナリは俯いた。もはや、どうしようもない。一矢報いることも、逃げ出すこともできない。
「ひ、酷いよ…信じてたのに…!」
力を貸してくれていたことが全て、嘘だったことが思った以上に心に突き刺さる。そして、泣いても何も解決しないのに、涙が勝手に溢れ出て、言ったところで意味のないであろう言葉も飛び出てしまった。
「そんなこと、信じたお前が悪いだろ」
呆れたような顔をして、コウは泣き続けるユキナリにそう告げた。
「だが安心しろ。殺し返すつもりはない」
浅葱色の瞳が、愉快そうに細められる。…狭い檻から操り人形如く出されたユキナリに、コウは蕩けるような笑顔で。
「お前を、俺に相応しくしてやる…」
・リンユキ
親密度・狂のリンタロウを犯人として処刑するエンド
リンタロウを指名し、処刑したその瞬間。先ほどまで点いていた明かりが全て消えて、差し込んでいた月明かりさえも消えて、ユキナリは闇に飲み込まれてしまう。
気がつけば、屋敷の中は黒いインクや泥ような何かで溢れていた。
「な、何…これ…?」
リンタロウが悪魔だった? 犯人ではなかった?
とにかく、この状況を少しでも理解するために、気休め程度でも安心を得るために、ユキナリは他者を求めて、足を取られかけながらも当てもなく歩き、声を出した。
「誰か! 誰かいませんか!?」
必死にそう叫んでも、辺りは暗いままで、誰の声も聞こえない。不安が、恐怖が、ユキナリの精神をさらにすり減らしていく。
せめて、手帳に触れようとして…それがなくなってしまっていることに気がついて、さあっと血の気が引いた。
「手帳…!」
ソウシロウの形見である薄紅色の手帳。お守り代わりにずっと持っていたもの。それが、今、無くなってしまっていた。
「さっき落としちゃったのか…?」
兎にも角にも探さなくては、といつの間にか腰の辺りまで来た『黒』が、ユキナリを一歩も動けなくさせていることにようやく気がついた。
「…っ!!??」
さらにその『黒』から…手のようなものが伸びて、ユキナリを束縛した。
「あー、ようやく捕まえられたよ…ユキナリくんってば、こんなに暗いのに動き回るんだから…」
「り、リンタロウ…?」
「そうかな? 違うかもよ♪」
君がついさっき僕をギロチンにかけちゃったからねえ。
くすくすと、愉快そうに笑っている声だけが聞こえる。それが余計に恐怖を煽り、先ほどから身体の震えが止まらない。
「……」
暗闇の中で、桃色のようなアメシストが怪しく光っている。ユキナリをまるで、美味しいご馳走か何かを見るような目だった。
「いろいろアクシデントはあったけど…まあ、後継も手に入ったし、万々歳かな♪」
『黒』で拘束したユキナリを、リンタロウは…否、リンタロウの姿をした悪魔は軽々と持ち上げる。
「それじゃあ、四人で一緒に遊ぼうか。新しいご主人サマも、ミサキちゃんも…君を待ってるからさ♪」
全員が犯人になり得るし、ならない可能性もある。処刑エンドならそれぞれが犯人になる。
全ては三面鏡の悪魔のさじ加減。
このゲームは、犯人よりも三面鏡の悪魔を探すためのゲームである。
・ソウユキエンド
悪魔の本体に聖銀のナイフを投げつけるエンド
・攻略対象四人の好感度を高に上げる
・四人に鍵を渡さない
・イベント『四人兄弟と探偵のティーパーティー』を実行する
・悪魔に取引で手帳を渡す代わりに情報を得る
・ミサキにリンタロウのことを証言してもらう
「全ての謎が解けました」
ユキナリは、全員を集めて、決意を込めてそう告げた。
「謎…? 犯人じゃなくて?」
「はい、ここ…狼遊戯邸で引き起こされたこの事件を解決するには、…信じられないかもしれないけど、まずは話を最後まで聞いてもらうことが大事になります」
ユキナリはぞわりと、確かに人々の中に紛れている悪魔の気配を感じながらも、キッと聴衆に向けて、この数日間で集めた情報と証拠から、推理して出てきた結論を語る。
***
「まず、当主はとある悪魔と契約していました」
「それは…『三面鏡の悪魔』という、意識と記憶を操ることに長けた悪魔でした」
「当主は、その悪魔と契約して…三人の自分を手に入れました」
「一人は異性を魅了する色男。もう一人は、商売上手な商人。そして、…弱者から慕われる人格者」
「でも、そのどれも本当の当主自身ではなかった。…当主はその真実にようやく気がついた。いや、気づかされたんです」
「悪魔が、新たな主人を、器を求めて魔法を解いたから…!」
「理想から剥離した…現実をある日突然突きつけられるのは、今までの自分を殺されることと同義だった。だから、当主は…」
「悪魔の計画通り…自分で、自分の頭を撃ち抜いたんです」
***
「おいおい、ちょっと待てよ! つまりそれって…!」
「自殺…とでも言うつもりか?」
「はい」
血のついたクッションの切れ端と、壁についていた銃痕。そして悪魔によって、強制的に見せられた『本当の自分』という受け入れがたい現実。それら全てが、悪魔によって計画されたものだった。しかし、引き金を引いたのは、当主自身だ。
だから、仮にユキナリが推理をせずに、当てずっぽうしたとしても…4分の1、3分の1、2分の1と、どれほど運が良かったとしても、最後には悪魔が残るシステムになると言うわけだ。本当の犯人である当主は、選択肢の中にいないのだから。
「それに加えて…四人とも自分が犯人だと思わされていましたよね?」
全員に動機があり、アリバイが無いという状況。そして、偽りの記憶によって引き起こされた思い込みによる疑心暗鬼。
「だから、ユキナリくんは…僕たち四人にお茶会しようって言ったの?」
どれほど思い込んでいたとしても、嘘は嘘でしかない。だからあの場でユキナリは、四人にそれぞれ得た情報を告げた。そうして、自分が犯人だと思っていた現状から、自分たちですら犯行ができないという証明が出てきたのである。
「でも俺たちは四人兄弟じゃなかったんだろ?」
そこは確かだ。当主には嫡子はいないが、愛妾の子が三人いた。手記にもそう書いてあるが、今ここにいるのは四人。その中の一人が当主の子供ではない人間…つまり、悪魔だろうとユキナリは思っていた。
「確かに、兄弟でない人はいます」
でも、その人物は犯人ではない。
「…いや、殺しに来たのは本当だったんだと思います」
ユキナリは一旦ミサキの方を見て…『私は大丈夫だから』とミサキが頷いたのを確認してから、その人物がいる方へと指差した。
「そうだよね、リンタロウ」
四兄弟ではない人物は、当主に復讐しに来た姉弟の片割れである、リンタロウだった。
『メイドのミサキに隠していることを問いただしたら、事態が一つ好転する』。この情報は、あの地下回路でソウシロウの手帳と引き換えにもらったヒントだった。
「……」
リンタロウは黙っている。そのまま、こちらをじっと見つめている。
「リンタロウは…ミサキさんと一緒に当主に復讐に来た。悪魔の力で、両親を殺したから」
だから、あの地下室は森姉弟が使用していたのだろう。どれだけの年月をかけて作ったのかは不明だが、そこまでしてでも、危険を顧みようとしなくてでも、…二人は当主に復讐したかったのだろう。
「館の時計を予め早めらせて、ミサキさんはノリトくんに予定のピアノの余興をさせる。…その間にリンタロウが当主を殺す、そういうつもりだった」
でも、ここで予定外のことが起きた。悪魔による、当主の自殺である。
「そして、リンタロウは見てしまった」
正しくは…うつされてしまったのだ。
「三面鏡の悪魔に、仮初の主人として」
そこまで、ユキナリが言って、先ほどまで黙っていたリンタロウが『ふふっ♪』と笑った。
「すごいねぇ♪ ただの探偵助手…と思ってたけど、こんな少ないヒントの中、ここまで見破れちゃうなんて思わなかったなぁ♪」
虹色だった髪が黒く、黒く染まっていく。まるで、宇宙のような謎の空間がリンタロウの影から揺らめいていて、ついさっきまでの何を考えているか分からない、そんな風貌は本性を暴かれてもなお、崩れなかった。
「…え、君が悪魔だったの…?」
「まあ、だろうと思ってたけど…ここまでとはなぁ」
「……お前が」
トモヤは驚きを隠せずにリンタロウの姿をしていた悪魔を凝視し、ショウマはさほど驚いた様子もなく興味なさそうに見据え、コウは警戒心をあらわにして睨み付けていた。
「それにしても勢揃いだよね♪」
怯えたり、警戒したり、あり得ないものを見るような目で見てくる使用人たちをざっと見渡しながら、悪魔はユキナリに告げる。
「頑張って偽善者ぶった甲斐があったよ♪」
人格者のふりをするのが一番キツかったからねえ、と悪魔は長い袖をひらひらさせながら、嘲笑うようにそう言った。
「な、何だと…!」
「…ここにいる使用人たちは生贄ってことかよ!」
リツがイトカを、タクヤがユミカを庇いながら、そう言った。
「ユキナリくん…こうして、悪魔の正体。そして、犯人が分かったわけだけれど、僕たちの事態は今なお好転していないということで合ってるかな?」
チエを身に寄せつつ、冷静にチグサはユキナリに問う。
「…チグサさんの言ってることは合ってます」
本当に、残念なことに。
「そ、そんな…!」
この館を出るには、犯人を処刑すること。しかし、すでに死んでしまっている、否、首が無い当主を処刑することはできず、三兄弟たちは犯人ではなく、リンタロウに乗り移っている悪魔を処刑すれば…何が起こるか分からない。
「俺たちが束になって戦うっていうのは…」
「本気で言ってる? 向こうはバケモノなんだから、僕たちがどう頑張っても勝てるわけないじゃん。本当に頭空っきしだね」
タケオが武器を構えてそう言うも、ユウトによって即座に、さらに彼の毒舌と共に却下された。
「…鏡の悪魔殿」
「ん?♪ なあに、執事長さん♪」
そんな状況下で、オサムが悪魔に話しかけた。
「あなたが本当のことを言うか否かが分からない以上、私たちは信じる他ありません。ですが、このゲームであり、儀式に関しては、あなたは誠実でいなくてはならないはずです」
それが悪魔のポリシーであり、契約の掟ならば。
「…何が言いたいの?」
「現在、犯人が当主であること。四兄弟の中に犯人はおらず、リンタロウくんも犯人ではない上に、今悪魔であるあなたが表に出てきている。…あなたが私たちを生贄として取り込むには、決着をつけることが必要であるのでしょう?」
「…へえ、よく知ってるね」
「悪魔に関する本も読んだことがありますので」
悪魔の威圧に気圧されそうになりながらも、オサムは話を続ける。
「この儀式の中心はユキナリくんであり、我々は人質である。この考えに間違いはありませんか?」
「…そうだね、まだこの儀式に決着はついていないからそうなるね♪」
嘘ではない、と悪魔はオサムの言葉を否定しなかった。だから、今もなおこのゲームは、儀式とやらは続いているということになる。今ここにいる人間の命を人質にして。
「お、俺に、何をさせるつもりなの…?」
「そうだね…君まだあの鍵持ってるでしょ?」
どこかの鍵のことを言っているのだろう。ユキナリはすぐに思い当たった。
「それを…あの三人のうちの誰かに渡してよ」
悪魔は、トモヤとコウとショウマを指差した。
「な、何で…!?」
「それね、僕の本体を閉じ込めている鍵なんだよ♪ それが新たな主人に渡されないと、僕は儀式を完了させられないんだ♪」
儀式が終わらなければこのゲームも終わらない。そして、ユキナリにも使用人たちにも…自由は手に入らない。
「ユキナリくんの好きな人で良いんだよ? そうしたら、僕はその人と契約して、みんなを幸せにしてあげるから♪ もちろん、君が望むなら新しい主人を求めたりしないよ♪」
館に灯された炎がゆらりと揺れた。
それを見て、ユキナリは確信する。この言葉は嘘だと。仮に言葉通りにしたところで、…この負の連鎖は続く。
だから。
「待ってよ」
「ん?」
一芝居打つことにした。
「リンタロウは選べないのか…?」
「…え? 『僕』?」
「俺は…リンタロウのことが好きだよ。ソウシロウさんが、…殺されちゃった時、俺のことを元気付けてくれて、力を貸してくれた時、…たくさん、助けてくれたから」
「ふうん♪ そうなんだあ…♪」
悪魔が何故か上機嫌になったようだ。ニコニコと笑っている。まるで、純粋無垢な子供のように。
しかし。
「じゃあこいつらはいらないや」
すっとついさっきまで浮かべていた表情を消し去って、黒い荊棘を出現させて、使用人たち諸共三人を閉じ込めた。
「ユキナリくん…!」
「リンタロウ、リンタロウ…! やめて…! お願い、目を覚まして!」
「ひぃ! ちょ、ちょっと、こ、これ、石みたいに硬いし、鋭いです…!」
「クソッ…! 壊せないのか!」
「嘘だろ!? 剣が折れたんだが!?」
「フライパンもダメだ…! ま、待てユミカ! 流石にお玉じゃ無理だ!」
「でも、たっくん…!」
「どうしようノリスケくん…! あっ、ピアノ! ピアノ投げる!?」
「できるわけないだろ! もっとマシなこと思いつけ!」
「ああ、もう! これはまずいですねぇ!」
混乱に陥っている彼らを他所に、黒い薔薇が意思を持つようにうねうねとユキナリと悪魔を囲う。悪魔の一部のようなものだから、当然と言えば当然なのかもしれないが。
「…はい、これで邪魔できないね♪」
悪魔が上機嫌そうにユキナリに告げ、手を差し出した。
「…渡す前に最期に聞かせてくれ」
「良いけど…何が聞きたいの?」
悪魔が不思議そうに首を傾げた。
「どうして、ソウシロウさんの手帳を渡した時…本当にヒントを言ったんだ…?」
「……」
「嘘を言っておけば…俺に正体を見破られずに出来たんじゃないのか…?」
悪魔が、動きを止めた。まるで、時を留められたかのように、目を丸く、否、瞳孔を開かせて。
その一瞬を逃さずに、
「今だ…!」
ユキナリは、ずっと隠し持っていた聖銀のナイフをリンタロウに刺そうとして、
「残念でした♪」
…———呆気なく、拘束された。
「いやあ、そんな質問をされるとは思わなかったけど…残念だったね♪ ユキナリくん♪」
ケラケラ笑っているが、目は先ほどと同じように瞳孔が開いている。
「君が聖銀のナイフを持っていることはよく分かっていたからね♪ ずぅーっと、警戒してたんだよ。いつ出してくるかなぁって♪」
「ゔ…ぐぅ…!」
ギリギリと全身を締め上げる『黒』に、ユキナリは苦しみのあまり呻いて喘ぎ、本能的な涙が溢れる。…聖銀のナイフは蹴り飛ばされた。
「…君のことだけは大切にしてあげようと思ってたのに」
苦しむユキナリを見上げて、悲しそうにそう告げた。
「だから、飽きるまで遊んであげるね♪」
壊れても直してあげる。狂っても戻してあげる。死んでも生き返らせてあげる。ずっと、ずっと、ずっと…。
「これで、終わりだよ」
「―――させるわけ、ないだろ…!」
一瞬何が起こったのか、分からなかった。
何故なら、何故なら…。
「どうして…?」
ぼとっ、とユキナリが『黒』から解放されて、床へと落とされた。尻餅をついたがそんな痛みよりも衝撃的な光景が広がっていた。
悪魔に刺さったのは、聖銀のナイフ。
「だって、だってあなたは…」
呆然と、信じられないと言う風に目を見開いた悪魔を、後ろから突き刺したその人物は。使用人の服を着たその人物は。いつもの笑みを消し去って、アイスブルーの瞳を見せているその人物は…。
「ソウシロウ…さん…? 生きていたの…?」
自分の、ユキナリの師匠であり、探偵であるソウシロウなのだから。
***
「…ごめん、ユキナリくん。感動の再会と話は後になる」
ソウシロウは即座にそう言って、悪魔の反撃をひらりと避け、動けないでいたユキナリを横抱きにして、距離を取った。
「やあやあ♪ ようやく姿を現してくれたじゃないか」
「何で、何でお前がここにいるんだ…! お前は確かに死んだはずなのに…!」
ソウシロウがそう言うと、悪魔は恨めしそうに睨みながらそう叫んだ。
「良かった〜♪ ちゃんと騙せたみたいだね? …首吊り殺人に見せかけるのは本当に大変だったよ」
口角を上げ、執事服を着たソウシロウはアイスブルーの瞳を光らせて、そう言った。
「ところで、これ、なーんだ?」
ソウシロウが見せたのは、悪魔の本体が閉じ込められたという鍵。
「ユキナリくん、多分勘違いしてると思うんだけど、この鍵はね…悪魔『を』閉じ込めている鍵じゃなくて、悪魔『が』閉じ込められている鍵なんだよ」
「へ? それって…」
「悪魔は三面鏡が本体なんじゃなくて、この鍵が悪魔の本体ってことさ」
三面鏡から加工されたんだろうね、と。
そのように真実をソウシロウに告げられた悪魔が声にならない声をあげて、リンタロウの姿をほとんど消しながら、こちらへと突進してくる。
「ユキナリくん、これでその鍵を壊してほしい…」
「え、でも、ナイフが…」
聖銀のナイフは一つしかないはずだ。相手は悪魔なのだから、ソウシロウが持っていた方がいいのでは、とユキナリは言いかけだが。
「大丈夫。僕、それが無くても時間稼ぎは出来るから…♪」
ソウシロウはそう言って、両手にはめていた白い手袋を取り、銃を悪魔に向けて、応戦し始めた。
銃撃と斬撃が館を揺らす中、ユキナリは床に悪魔の本体である鍵を置いた。
そして。
「―――壊れろ!!」
聖銀のナイフを勢いよく振り下ろしたのだった。
***
…そうして気がつけば、屋敷の外に全員転がっていた。
深い森の澄み切った空気は、黎明が訪れたことを知らせ、怪我もなく生きていることにまず全員が安堵した。
悪魔の気配も、恐ろしい終わらない夜も消え去っていた。
立派だった屋敷は見る影もなく、見窄らしいものに変わり果てており、使用人たちは駆けつけた警察官によって保護された後、新しい人生を歩み出すこととなったらしい。
***
「よっこい、しょっと」
未だに眠るユキナリをソウシロウは背負う。
「警部、ここで良いんですか?」
「警部は君でしょ、ツバキちゃん」
彼女…ソウシロウの後輩であり、元刑事だったツバキが『…失礼しました。未だに慣れないもので』と照れた様子でそう言った。
「うん、送ってくれてありがとう♪ 報告書作りも大変だろうに…」
「いえ、事情聴取も捗ったのでそこまででは」
「そっか〜♪ 暇な時にでも遊びに来てよ。ユキナリくんもきっと会いたがるだろうし…あ、お土産は甘いものが良いな…♪」
「ソウシロウさんは糖分摂取を控えたほうがよろしいかと」
「えぇ!? ツバキちゃんまで!?」
ということはユキナリにも言われているんだろうなぁ、とツバキは思った。
「…それでは、失礼します」
「うん、じゃあね。ツバキちゃんー」
バイクに乗ったツバキが見えなくなるまで見届けてから、ソウシロウは現在の自宅かね職場である神崎探偵事務所へと歩いていく。
「ソウシロウ、さん…」
「あ、起きちゃった? 寝てて良いよ。あとちょっとで着くし」
温かい。生きているのだ、彼は。
それでも、あの時感じた恐怖が拭えなくて、ソウシロウにぎゅっと掴まった。
「ぐえっ」
「あ、ごめんなさい…!」
思ったより強かったようだ。
「いや、いいよ。落ちちゃうもんね」
「その…ちょっと、不安で…」
「僕そんな非力じゃないよ!?」
「ち、ちち違いますよ!」
少しすれ違いが発生しそうになったが、ユキナリは続ける。
「あの時…本当にソウシロウさんが、殺されちゃったんだって、そう思って、俺…」
「『敵を欺くには味方から』っていう言葉…本当にあるけど、あれって心臓に悪かったよね…ごめんね?」
「…良いですよ。だって、あれ以外に方法なんて無かったでしょう? あれがあの場面の正解だったんです」
悪魔相手に正攻法は通じないのだと、改めて分かる事件だった。そんなことを考えているうちにまた、眠気に襲われてくる。
「あ、眠くなっちゃった? いいよ。僕がベッドまで運んであげるから」
「でも…」
「良いの良いの。こんな時くらい、僕に甘えなさい」
「…はい、ありがとう…ございます。ソウシロウさん…」
そうして、ユキナリはまた穏やかな寝息を立て始めた。それを確認してから、ソウシロウは『よいしょっ』と、背負い直し神崎探偵事務所へと入っていったのである。
秋の名月。いつもとは違った色に染まる月が浮かんで、こちらを見下ろしていた。
「…聞きたいことがあるんだけど」
神崎探偵事務所の屋上で、『月見団子もいいなぁ』と考えながら、タバコを吸っていたソウシロウにフードを被った人物が話しかけてきた。
「えーっと、リンタロウくん? どうしたのこんな夜に」
君のお姉さんが心配するんじゃない? と笑みを携えながら、ソウシロウはそう言った。
「あなたは、悪魔なの?」
夜風がビュウ、と一際強く吹いて、リンタロウのフードを脱がし、ソウシロウの肩にかけたままのコートを揺らした。
飛ばされないように、帽子を押さえていたソウシロウの口元に笑みが浮かんだままなことが、余計に怪しさを増させる。
「そうだけど?」
アイスブルーの瞳をリンタロウに向けて、ソウシロウはそう答えた。
「どうしてわかったのかな」
「あの首吊り死体。発狂死した使用人に自分の服を代わりに着せて、自分だと思い込ませた…って話だったけど、それでも不可能だよ。だって、足場も無いのに鐘とロープをしっかり結ぶことなんてできないんだから」
それでこそ、魔法でも使えない限り。
「へえ…そうだったんだ…」
他にも聖銀のナイフを持つために手袋を両手にはめていた点や、ユキナリに悪魔の本体が隠された地下室に取りに行かせるなど…後になって気がついたことを話したが、それでもニコニコ笑うソウシロウに、悪魔特有の胡散臭さを感じるが故にリンタロウの視線も鋭くなった。
「そんな怖い顔しないでよ。僕は今のところ何も悪いことなんてしていないよ?」
「悪魔の言うことなんか信じられない…」
「その悪魔に助けられてなかったっけ?」
「僕を助けてくれたのはユキナリくんだよ」
「…そう」
ソウシロウはタバコの火をしっかりと消して、ゴミ箱へと捨てた。
「まあ、良かったじゃないか。後遺症も無くて」
悪魔の鏡が目に入って、豹変した御伽噺のようなことにならずに済んで。
「……」
「もう夜も遅いし、僕はもう寝ようかな。君も家に帰った方がいいんじゃない? ようやく、復讐に囚われずに生きていけるんだし」
「…本気で、言ってるの?」
「まさか復讐相手が自殺したから不完全燃焼なんて言うつもり?」
「……」
「まあ、君たちがどうするかを止める権利も理由も僕にはないから…強く言うつもりはないけど」
ソウシロウはてくてくと、屋上から降りる階段へと歩いていき、くるりとリンタロウの方に振り返った。
「———ユキナリくんに余計なこと、言わないよね?」
ぞわっ、とリンタロウが気圧されるほど殺気をソウシロウはアイスブルーの瞳を開けながら向けていたが、パッと笑った。
「まあ、言わないって信じてるから。あ、あと、依頼があったらいつでも頼ってくれて良いからね♪」
「…ねえ」
リンタロウが俯いたまま、ソウシロウを引き留めた。
「ん?」
「最後にこれだけ聞かせてくれる?」
「んー、何かな?」
ほんの一瞬、夜風が吹いて、二人の髪を優しく揺らした。
「仮にユキナリくんが『間違えてたら』、あなたはどうしたの?」
月が黒い雲に隠された。
「…僕は『正しい』ユキナリくんが好きなんだよね」
そして、もう一度月が顔を出した時。
「そうなっちゃったら…残念だけど、もう良いかな」
妖しく光るアイスブルーが、空に浮かぶ月のように冷たく光った。
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