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放課後のサーバーに入った瞬間、ひろはいつも通りの声で笑った。
「うり〜今日も来てる?」
「来てるけど。っていうか、ひろのほうが早いの珍しくない?」
うりの少し呆れた声に、ひろは「えへへ」とごまかすみたいに笑う。
でも本当は、理由なんてひとつしかなかった。
うりがいるから、早く来た。それだけ。
⸻
今日は拠点の整備の日だった。
「これさ、こっちのほうがバランスいいと思うんだけど」
うりが冷静にブロックを置き直すと、ひろはその横でじっと見ているだけ。
「うりってさ、本当にすごいよね」
「急に何?」
「いや、なんか……一緒にやると全部いい感じになるじゃん」
さらっと言ったひろの言葉に、うりの手が一瞬止まる。
「……褒めても何も出ないけど」
「ほんとに思ってるだけだよ」
その声がやけに真っすぐで、うりはそれ以上何も言えなくなった。
⸻
夜が近づいて、ゲーム内の空がゆっくりオレンジから紫に変わる。
ひろがふと、小さくつぶやいた。
「ねえうり」
「ん」
「ここ、落ち着くね」
いつもなら軽く流すはずの言葉なのに、今日は少し違った。
うりは少しだけ間を置いてから、
「ひろがいるからじゃない?」
って、何でもないみたいに言った。
⸻
一瞬、ひろの動きが止まる。
「……え、それ反則じゃない?」
「何が」
「そういうの、普通に照れるんだけど」
「知らない」
でもその声は、いつもよりほんの少しだけ優しい。
⸻
拠点の中、ふたりのキャラが並んで立つ。
ベッドも、チェストも、全部が雑なのに、なぜか落ち着く場所。
ひろがそっと言う。
「うりさ、明日も来る?」
「来るよ」
即答。
ひろは少し笑って、
「じゃあ、明後日も?」
「来る」
「その次も?」
「……ひろがいるなら、来る」
その言葉に、今度はひろのほうが黙った。
画面の向こうで、うりは見えないのに、なぜかすぐ近くにいる気がした。
⸻
「うり」
「なに」
「俺さ、ここでうりといる時間、けっこう好き」
少しだけ勇気を出したみたいな声。
うりはすぐに返さなかった。
でも、そのあと小さく、
「……俺も」
って、ほんとに小さく言った。
⸻
その瞬間、ゲームの中の夜が完全に降りてきて、拠点の灯りだけがふたりを包む。
言葉にしなくてもいいくらいの、あたたかさ。
ひろは画面を見ながら思う。
れもん
5,822
(これ以上、何か言ったら壊れそうだな)
でもうりも同じことを思っていた。
(これ、ずっと続けばいいのに)
⸻
そしてふたりは、何も言わずに並んで作業を続けた。
たまにぶつかって、たまに笑って。
それだけで、十分すぎる夜だった。