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臣桜
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上野文
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尊さんは「はぁ……」と溜め息をついたあとに我に返り、「やべぇな」と呟いてシャワースペースを出る。
そして手に数枚のティッシュを持って戻り、汚した壁を拭いた。
洗面所のゴミ箱に捨ててまた戻ってきた彼に、私は「綺麗好きさんですね」と言う。
「……風呂場に精液が溜まると、排水口が詰まるって言われてるんだよ……」
ヒヤッとしたのか、彼は疲れた声で言う。
「経験者じゃないんですか?」
「そこまで風呂場でやってねぇよ」
「私と付き合う前、抜き放題だったんじゃないですか?」
「飲み放題みたいに言うな」
彼はシャワーヘッドを持って私の秘所を洗い、「向こう行ってあったまってな」と温泉を示した。
「お先にいただきまーす」
私は断りを入れ、ペタペタと温かい床を踏んでかけ湯をし、温泉に浸かる。
「あ”ぁ~……、いいお湯、いい眺め、夢気分」
「どっかで聞いたフレーズだな」
シャワーを浴びながら、尊さんが笑う。
やがて彼も髪と体を洗い終えて湯船に浸かり、「はぁ……」と溜め息をつく。
「沢山歩いて疲れたろ。ふくらはぎ揉んでやる」
「え、いいですよ。尊さんだって疲れてるし」
「俺はいいんだよ。鋼鉄のふくらはぎをしてるから」
「マジですか。いつから人間やめたんですか」
そんな会話をしながら、尊さんは私のふくらはぎを揉み、中心部をグーッと縦に指圧していく。
「あ”ぁ~……」
「さっきから声がおっさん臭ぇんだよ」
クスクス笑われ、私は調子にのってまた「あ”ぁ~……」と言う。
「テレビで見た動物園のサルで、すっげぇ声出すのいたよな」
「ああ! 知ってる!」
なんとも、悲哀というか情感たっぷりの声を上げるサルを思い出し、私はケラケラ笑う。
喋ってゆったりと温泉に浸かっていると、楽しかったけれど少し疲れた体が癒されてくる。
「……さっき、大丈夫だったか?」
「ん?」
「後ろから苦手だったろ。少しでも嫌じゃなかったか?」
尋ねられ、私は微笑んで尊さんの腕を組む。
「好きな人が相手だから、全然大丈夫でした。……後ろからって見えないし、男性の支配欲を満たしがちな体位だと思うので、不安に感じやすいです。でも、尊さんには安心して背中を任せられるというか……」
「戦場か」
「ふひひ。『背中は任せた』」
私はお決まりの台詞を口にする。
「ハンドサインとか決めましょうか。こうやったら『待て、恵がいる』」
そう言って、私は適当なハンドサインをとる。
「中村さん、野生動物か何かかよ。じゃあ『涼が通っている、注意』もありそうだな」
尊さんも適当なハンドサインをとり、私はケラケラ笑う。
「恵を追いかけてる涼さん、四つん這いで物凄いスピードで走ってそう」
「どこの祟り神だよ」
「それで恵が鹿に乗って弓矢を持って『鎮まり給え!』って言ってるの」
アニメのネタを出してヒイヒイ笑っていると、お湯がチャプチャプ踊る。
「それ系になったら、中村さん強そうだな。武器を持ったら攻撃力高そうだ。弓矢とかぜってぇ外さない感じがある」
「涼さんはね、口から御曹司ビームをぶちかますの」
「待て待て、どんどん人間離れしていく」
「御曹司の怒りは大地の怒りなんですよ」
「待て……。涼が虫に見えてくる……」
尊さんはヒイヒイ笑い、プルプルと震えている。
「でもニコニコ笑顔なんですよね」
「ぶふぉっ」
彼は噴き出し、とうとう湯船に突っ伏して再起不能になってしまった。
「はぁ……、まったく愉快な女だよ、お前は」
「ノッてくれる尊さんも、愉快な男ですよ」
そのあともじっくりお湯に浸かったあと、先に尊さんが上がって服を着ると、スライドドアを閉めてリビングへ行く。
私はもう少し景色を楽しんだあと、フカフカのバスタオルで体を拭き、フェイスケアをしてドライヤーをかけた。
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コメント
1件
第866話、読み終えました。尊さんとの温泉でのんびりした時間、すごくほっこりしましたね。ふくらはぎを揉んでくれる優しさと、「背中は任せた」のやりとりが本当に尊い……! お互いをネタにしたアホな笑い合いも、二人の距離感がよく出てて大好きなシーンです。これからも楽しみにしてますね!