朝の陽がゆっくり差し込む大きな屋敷の一室。
真っ白なカーテンが揺れ、
ベッドの上で眠る少年の髪に柔らかな光が落ちた。
「……ん、あさ……?」
寝ぼけ声で目をこするちぐさ。
その横で――静かに、しかし丁寧に。
「おはようございます、ちぐ様」
低い声が部屋に落ちた。
目を開けたちぐさの視界に、
完璧な所作でお辞儀をする執事――ぷりっつが映る。
関西弁のはずなのに、執事としての口調はきっちりしている。
でも、ときどき素が出てしまうから厄介だ。
「ぷりちゃん……おはよう」
「……寝癖、えらいことなってますよ。直します」
やわらかく触れる指先に、
ちぐさは少しだけ耳を赤くする。
ぷりっつは幼いころから、
“ちぐさの専属執事になるために”育てられてきた。
だから、
ちぐさが泣けば誰より先に駆けつけ、
怪我すれば誰よりも焦り、
笑えばその理由を探しに行く。
それでも――
「ちぐ様とは主従関係」
という線だけは、決して越えない。
越えないようにしている。
(……この距離を守らんと、あかん)
そう思い込んでいた。
けれどちぐさは、
ぷりっつのその必死さに、少しずつ惹かれていった。
「ぷりちゃん、今日も学校まで一緒?」
「もちろんです。お送りするのも、迎えに行くのも……俺の務めです」
「……ありがと」
ちぐさの笑顔に、
ぷりっつはほんの一瞬だけ視線をそらす。
(あかん……可愛すぎる。プロの執事がこんなん思ったらあかん)
胸が痛くなるほど、
とっくに自覚してしまった恋心を押し隠す。
そんな2人の朝のやり取りを、
廊下から見ていた者がいた。
同じ学校に通う同級生――あっと。
彼はちぐさに想いを寄せているが、告白はしないと決めている。
ちぐさが誰を好きなのか、知っているから。
(……また仲良さそうにしてる)
苦笑しながら、それでもどこか切ない目を向ける。
そして――
屋敷の前に用意された黒い高級車に乗りながら、
ちぐさはそっと呟いた。
「ぷりちゃん……いつか、”ちぐ”って呼んでくれたら嬉しいなぁ」
「……それは。俺の立場では――簡単に言える言葉やありません」
「そっか……」
ほんの少し沈んだ声。
ぷりっつは気づいているくせに、
気づかないふりをする。
揺れる車内。
近くて遠い2人の距離。
――そして、この日を境に。
ちぐさとぷりっつの“主従関係”は、
少しずつ、ゆっくり形を変えていくことになる。
その変化の始まりが、
今日、学校で起きる
“ある出来事”だった――。
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コメント
4件
わわわ! 楽しみすぎる😭 prtg最近めっちゃ好き❤️
最高です😭