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「おじさん、私ね!逆上がり、あともう少しでできそうなんだよ!」
朝飯のフレンチトーストを頬張りながら、ひまりが嬉しそうに話してきた。
昨日までの土砂降りが嘘みたいな快晴や。
俺はコーヒーを啜りながら、ひまりの跳ねた寝癖を指先で整えてやる。
「ほう、逆上がりか。上手にできるようなったらワシにも見せてくれるか?」
「うん!私、頑張るから…!」
「そゆことや、和幸。放課後公園付きおうたれ」
「ええっ?!自分、運動神経ゼロっすよ! 鉄棒なんて中学以来触ってないですし……」
「四の五の言わんと、ひまりが回れるまで土台にでもなれ」
和幸を追い払い、俺はランドセルを背負ったひまりを車まで送る。
校門の前で車を降りたひまりが、不意に振り返って俺の服の裾を掴んだ。
「おじさん……今日、帰りも来てくれる?」
「おう、当たり前やろ」
ひまりが安心して校舎へ駆けていくのを見届け、俺はふっと息を吐いた。
だが、その瞬間
背後に嫌な気配を感じて目が冷たくなる。
校門の陰、黒いサングラスをかけた見慣れぬ男たちが、こちらを値踏みするように見とった。
蛇頭会の端くれか、それともどこぞの刺客か。
(……シマを荒らされた仕返しに、学校まで嗅ぎ回りに来たか)
俺はわざとらしく煙草を取り出し、男たちに向けて真っ直ぐに歩き出した。
男たちは俺の殺気を感じたのか、慌てて視線を逸らし、足早に立ち去っていく。
「和幸。……車、出せ」
車内に戻った俺の声は、自分でも驚くほど低く、ドスが効いとった。
「兄貴……やっぱり、連中、ひまりお嬢を……」
「ああ。……一線を越えおったな。ワシの大事なもんに鼻面近づけた罪、タダで済むと思うなよ」
俺は懐の短刀の柄を、無意識に強く握りしめていた。
ひまりの前では優しい「おじさん」でおらなあかん。
あの子の夢を汚さんように、返り血一滴、彼女の視界に入れんのがワシの務めや。
「今夜、蛇頭会の本拠、叩き潰すぞ。……ひまりが寝静まった後、一気にケリをつける」
「……了解しました。準備させます」
車が事務所へ向かって加速する。
昼間の明るい光の中で、俺の心だけがどす黒い怒りに染まっていく。
医者を目指すひまりの清らかな未来のために、ワシがこの街の病根を、根こそぎ切り取ってやる。
「……ひまり。今夜は、美味いハンバーグ作ったるからな」
独り言のように呟いた言葉は、誰に届くこともなくエンジンの音に消えた。
俺は眼鏡を指で押し上げ、ひまりがさっきまで座っていた助手席の温もりを、ただ静かに感じていた。
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#シリアス
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