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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。失ったものの多さや取り戻さなければいけないことなどで憂鬱になっていた私に、ドルマンさん達から連絡がありました。
ドワーフの一人に導かれた場所は、南部陣地の後方にある安置所。ここには回収した魔物の死骸が集められており、使える素材の採取などが行われています。よくもまあ三日間で集められたものです。
生憎使えそうな素材は少ないみたいですが、幸い数がありますので利益にはなるでしょう。少しでも赤字を補填してくれるなら良いのですが。
私が案内された場所は、そんな安置所の中心地。みんなで力を合わせて仕留めたブラッディベアの死骸が置かれている場所でした。腕と頭は私が消し飛ばしてしまいましたが、胴体や足は残されたまま。他の生き物は跡形もなく消え去るので、如何にブラッディベアが強いかを示しているのだと思いますが。
そんなブラッディベアの死骸にはドルマンさんを筆頭にドワーフの皆さんが群がって素材の採取を行っているみたいでした。
ブラッディベアの爪は鋭く固いので使い道も多く、毛皮は固くて柔らかいと言う良く分からない性質を持っていて此方も使い道に困らないのだとか。
「おう、来たな嬢ちゃん。ちゃんと目が覚めたみたいで何よりだ」
私に気付いたドルマンさんが右手を挙げながら声をかけてきました。
「ご心配をお掛けしました、ドルマンさん。しっかり休ませて貰いましたよ」
私も手を挙げて挨拶をしながらドルマンさん達に近付きます。
「無茶はほどほどにな。忙しいところ呼び出して悪かった。だが、どうしても嬢ちゃんに知らせたくてなぁ」
「必要なら幾らでも時間を作りますよ。何かありましたか?」
「安心してくれ、悪い知らせじゃない」
それは良かった。
「結論だけ先に言うとな、コイツの身体の中で魔石を見付けたんだ」
「魔石を?そんなことがあるんですか?」
ブラッディベアの体内から魔石が出た?
「ああ、実はな?」
ドルマンさん曰く、ドラゴン種やブラッディベアなどを代表とする超強力な、所謂災害級と呼ばれる魔物は体内で魔石を精製することがあるのだとか。強い魔物は長命で莫大な魔力を保有していますから、それが長い年月を掛けて結晶化したものが魔石となるのだとか。
「魔石は鉱石だけなのかと思いましたよ」
「いや、鉱石であることに間違いはないんだ。災害級から取り出すなんて、知識はあってもそう簡単に出来るものじゃないからな。だが、頑張ったご褒美は必ず付くもんでな?魔物から採取される魔石は質が良いんだ。今から取り出すが、期待して良いぞ」
「分かりました、ここで見ていますね」
私は用意された椅子に座り、ベルが私の隣に立って作業風景を眺めることにしました。
「まさに採取だな。いや、発掘か?」
ベルの言う通り、ドワーフの皆さんが持つのはピッケルやハンマー。生物の解体作業にはとても見えません。まさに発掘作業ですね。
「よぉし!取り出すぞーっっ!」
「「「おおぉーっっ!!!」」」
ドルマンさんの掛け声に皆さんが拳を突き上げて答える様子は、まさに男の世界ですね。戦にでも行くのかな?
しばらくガキンッ!とかゴンッ!とか、生物らしくない音が響き、それに合わせてドワーフの皆さんがピッケルやハンマーを振るいながら作業を進めていました。
見た目は大雑把なのですが、ちゃんと連携して作業しているらしく解体作業は順調に進んでいるみたいです。
「どうぞ、お嬢様。ベルモンドさんもどうぞ!」
「ありがとう、エーリカ」
「おう、悪いな」
途中でエーリカがジュースの差し入れをしてくれました。夏本番はまだ先とは言え、この熱気に当てられて暑かったからちょうど良かった。
レイミが作ってくれた氷室で冷やした果実のジュースは至高の味です。もちろんドルマンさん達の分も用意していますよ?
ジュースではなく良く冷やした果実酒を一樽氷室から持ってくるようにお願いしました。
そうして作業風景を眺めること一時間くらい。折角なので簡単な書類を持ってきて貰って処理しながら作業を眺めて過ごしました。
「よし!慎重にだ!傷付けるなよ!」
どうやら作業も最終工程に入ったようで、皆さん顔が真剣そのもの。貴重な体験ですね。いつも酔っ払っているイメージがありました。と言うか酔っ払ってるから、あんな表情は初めて見ましたよ。
「そっとだ!そーっとだぞ!」
そしてドルマンさん達が取り出したのは……おおっ!これは大きい!大樽ほどの大きさがあるエメラルドグリーンの石でした。石からは強い魔力を感じます。
「これは驚いた!見てみろ!」
すると、ドルマンさん達が騒ぎ始めた。魔石以外にも何かあったのかな?
慎重に取り出した魔石を台車に載せて、またピッケルを用意してる。
「旦那、どうしたんだ?」
ベルが私の代わりに聞いてくれました。
「ああ、すまん。魔石が埋まっていた周りに、マナメタルの結晶があったんだ!」
『マナメタル』、確か勇者様の剣にも使われている純度が高い魔力が結晶化した鉱石でしたか。
ドルマンさん曰く、この世で『オリハルコン』より稀少な鉱物であり、非常に軽量でありながら『オリハルコン』以外のあらゆる鉱物より硬く、そしてしなやかさも兼ね揃えているのだとか。
最大の特徴は、『マナメタル』に魔力を流すと、通された魔力が数百倍にまで増幅されると言うものです。その辺りは勇者様の剣を使う私も実感しています。
「嬢ちゃんの日頃の行いが良いからじゃろうなぁ。大きな魔石にマナメタルと来たもんだ」
「たまにはお祈りをしてみるのも良いかもしれませんね」
『聖光教会』には祈りませんよ。回り回ってマリアに祈ることになりそうですし。
……不快感さえなければ仲良くなれそうな気はしますが、視界に入るだけで心が真っ黒に迫ります。勇者様の恨みは凄まじいものですね。力となるので困りはしませんが。
さて、『魔石』と『マナメタル』ですか。どうしようかな。
「マナメタルは任せてくれないか?コイツを使ってやりたいことが山ほどある!」
「お任せしますよ。ただ、魔石の扱いには迷っていますが」
「ふむ、この大きさなら星金貨一万枚以上の価値があるんじゃないか?」
「おいおい、国家予算級の金じゃねぇか」
「質も良くてこの大きさだからな、小さな国なら買い取れるくらいの価値はあるんじゃないか?」
レイミの言う謎通貨、円でしたか。あれで言うと一兆円以上の価値があると言うことですか。
確かに小国の国家予算級ですね。とは言え、そんな金額を払える商人なんて居るかなぁ。
「価値が高過ぎるな、売る時に困りそうだ」
ベルの懸念も最もですね。
「ドルマンさん、この魔石を細分化して売ることは出来ますか?」
「小分けにするんだな?多少価値が下がるだろうが、この純度だ。帝国ではもちろん、アルカディアでも高値で売り捌けると思うぞ」
「では研究用に一部を残して、売れそうな金額に小分けしてください。研究用の大きさなどは任せますから」
「相変わらず気前が良いな、嬢ちゃん。任せとけ。財政難を軽く解消できるくらいにしてやるさ」
「お願いします。エーリカ、マーサさんを呼んできてください」
「分かりました!」
いつも世界は意地悪なんです。たまにはご褒美をください。