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みら

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イベント会場を出たあと。
阿部と佐久間は、そのまま近くのコラボカフェへ向かった。
「ここ!」
佐久間が指差す。
「イベント終わった人、みんな流れてきてない?」
阿部が周りを見る。
同じグッズを持っている人。
同じペンライトをバッグから覗かせている人。
さっきまで同じ会場にいたのだろう。
楽しそうな声があちこちから聞こえていた。
「絶対混んでるよ」
「予約してある!」
「さすが」
「今日の俺に抜かりはない!」
胸を張る佐久間に。
阿部は笑った。
「じゃあ行こう」
「うん!」
店内へ入ると。
阿部はすぐに足を止めた。
壁一面にキャラクター。
テーブルにも。
メニューにも。
さっきのイベントとはまた違う衣装のイラストが使われている。
「……佐久間」
「何?」
「あれ欲しい」
「入って五秒!」
阿部が指差したのは。
レジ横に置かれた限定グッズだった。
佐久間が笑う。
「あべちゃん、完全にハマってるじゃん」
「だってイベント限定って書いてある」
「そういう言葉に弱いタイプだった?」
「今知った」
「新しいあべちゃん発見!」
席へ案内されて。
メニューを開く。
阿部の目が輝く。
「これ頼みたい」
「いいよ」
「あとこれ」
「うん」
「これも気になる」
佐久間が阿部を見る。
「結構食べるね」
阿部は一瞬止まった。
それから。
少しだけ笑う。
「今日いっぱい動いたから」
「そっか」
佐久間も笑った。
それ以上は何も言わない。
「俺これ頼む!」
「じゃあシェアしようよ」
「する!」
料理が運ばれてくると。
阿部はスマホを取り出した。
「写真撮る」
「康二みたいになってる!」
「これは撮るでしょ」
「分かる!」
二人で料理を並べ直す。
「こっち向きの方がキャラ見える」
「あべちゃん、細かい!」
「佐久間、影入ってる」
「ごめん!」
撮り終わるまで。
なかなか食べられない。
佐久間が。
「康二の気持ち分かってきた?」
と笑う。
「これは記録したい」
「でしょ?」
阿部は写真を確認して。
そのまま目黒へ送った。
『コラボカフェ来た』
写真を一枚。
続けて。
『まだ帰らない』
すぐに既読になる。
『楽しんでおいで』
少しして。
『あべちゃんの写真もほしい』
阿部が笑う。
「何?」
佐久間が覗き込む。
「めめ」
「蓮、寂しくなった?」
「多分」
「送ってあげなよ」
「佐久間撮って」
「任せて!」
阿部は。
キャラクターのドリンクを持つ。
佐久間がスマホを構える。
「もっと笑って!」
「笑ってるよ」
「もっと!」
「注文多いな」
「はい、あべちゃん可愛い!」
「それ言わなくていい」
何枚か撮ってもらい。
阿部はそのうち一枚を目黒へ送る。
返事は。
ほとんどすぐだった。
『可愛い』
阿部は画面を伏せた。
「絶対蓮でしょ」
佐久間が笑う。
「食べよ」
「誤魔化した!」
食事の途中。
ランダムでもらえる特典を開ける。
「せーので開けよう!」
「いいよ」
二人で袋を持つ。
「せーの!」
開ける。
阿部は。
自分のカードを見る。
「あ」
「誰だった?」
「この子」
「俺は……」
佐久間が自分のカードを見て。
止まる。
「あべちゃん」
「何?」
「これ」
差し出されたカードを見て。
阿部の目が一気に大きくなった。
「え!」
今日。
阿部が一番好きになったキャラクター。
「それ!」
「欲しい?」
「欲しい!」
即答だった。
佐久間が吹き出す。
「じゃあ交換しよ」
「いいの?」
「もちろん」
「佐久間の欲しいやつ俺持ってる?」
「俺この子も好きだから大丈夫」
「ほんと?」
「ほんと」
カードを受け取る。
阿部は。
しばらく眺めた。
「嬉しい」
「そんなに?」
「うん」
思わず。
「佐久間好き」
と言う。
佐久間の動きが止まった。
阿部は気づかず。
カードを光にかざしている。
「これちゃんと持って帰れるかな」
「……」
「佐久間?」
「え?」
「どうしたの?」
「何でもない!」
佐久間は慌てて笑う。
「俺もあべちゃん好き!」
「ありがとう」
「軽くない!?」
「何が?」
阿部は本当に分かっていない。
佐久間は。
少しだけ困ったように笑って。
「何でもない」
と答えた。
カフェを出たあとも。
二人はすぐには帰らなかった。
ショップを見て。
パネルを見つければ写真を撮る。
佐久間も。
今日は何度も阿部へスマホを向けていた。
「また撮るの?」
「いいじゃん!」
「俺ばっかりじゃない?」
「だって今日、あべちゃんめっちゃ楽しそうなんだもん」
「佐久間も撮ろうよ」
「俺はいいの!」
「よくない」
阿部は佐久間の腕を掴む。
「一緒に撮る」
「え?」
「せっかく来たんだから」
近くのパネル前で。
二人並ぶ。
今度はセルフタイマー。
「間に合う!?」
「十秒ある!」
「バッグ邪魔!」
「置いて!」
「グッズ倒れる!」
「早く!」
結局。
カウントぎりぎりで。
二人とも笑ったままシャッターが切れた。
出来上がった写真を見て。
阿部が笑う。
「これいい」
佐久間も。
画面を見つめる。
「……うん」
「めめに送っていい?」
「いいよ!」
阿部はすぐに送った。
少しして。
『楽しそう』
『佐久間くんにもありがとうって言っといて』
「めめがありがとうって」
「何が?」
「俺を楽しませてくれて」
佐久間が。
少しだけ目を細める。
「蓮らしいね」
「ね」
夕方。
ようやく帰ることになった。
二人とも。
朝より荷物が増えている。
特に阿部。
「重くない?」
佐久間が聞く。
「ちょっと」
「持とうか?」
「大丈夫」
「本当に?」
阿部が笑う。
「その聞き方流行ってるの?」
「何が?」
「二回確認」
佐久間には事情が分からず。
首を傾げる。
「何それ」
「こっちの話」
二人で歩く。
少し前までは。
イベントの感想が止まらなかった。
でも。
帰り道になると。
佐久間が少し静かになった。
阿部は。
横顔を見る。
朝風呂で。
翔太に言われたことを思い出す。
何も聞かずに。
一緒に行きなよ。
今日は。
傷を聞く日じゃない。
阿部は。
何も聞かなかった。
ただ。
佐久間の歩く速度に合わせる。
少しして。
阿部が手に持った袋を見ながら言った。
「続編あったら絶対行きたい」
佐久間が振り返る。
「ほんと?」
「うん」
「今日だけじゃなくて?」
「なんで今日だけなの?」
阿部が笑う。
「面白かったし」
「……」
「次も一緒に行こうよ」
佐久間が。
足を止めた。
阿部も止まる。
「どうしたの?」
「……また?」
「うん」
阿部は当たり前のように答える。
「佐久間と行った方が絶対楽しいし」
佐久間は。
何も言わなかった。
ただ。
阿部を見る。
「佐久間?」
「……あるよ」
「何が?」
「次」
少しだけ。
声が揺れた。
「絶対ある」
「じゃあ行こう」
「うん」
「今度は俺も事前情報送るね」
「俺より!?」
「今日結構詳しかったでしょ」
「認めるけど悔しい!」
ようやく。
佐久間が笑った。
阿部も笑う。
また。
二人で歩き出す。
しばらくして。
佐久間が小さく呼んだ。
「あべちゃん」
「何?」
「今日」
「うん」
「楽しかった?」
阿部は。
迷わなかった。
「めちゃくちゃ楽しかった」
「……そっか」
「佐久間より楽しんだと思う」
「それは認めたくない!」
「途中疲れてたじゃん」
「体力は関係ないから!」
「次は鍛えてきて」
「俺が!?」
阿部が笑う。
佐久間も。
大きな声で笑った。
でも。
そのあと。
ほんの少しだけ。
佐久間の目が赤くなった気がした。
阿部は。
気づかないふりをした。
家の近くまで来る。
目黒の家と。
阿部の部屋。
どちらへ帰っても。
もう自分の帰る場所のような気がしている。
「じゃあ」
佐久間が言う。
「俺ここで」
「うん」
「今日はありがとね」
「俺が言う方じゃない?」
阿部が笑う。
「誘ってくれてありがとう」
「……うん」
「本当に楽しかった」
「そっか」
佐久間は笑う。
「じゃあ、またね」
「うん。また」
阿部が答える。
でも。
佐久間は動かない。
「佐久間?」
「……あべちゃん」
次の瞬間。
ぎゅっと。
抱きしめられた。
阿部が。
少しだけ目を見開く。
佐久間の腕に。
思っていたより力が入っていた。
「……佐久間?」
返事はない。
阿部の頭に。
昨夜の目黒の言葉が浮かんだ。
抱きしめてあげるだけでいいよ。
阿部は。
何も聞かなかった。
どうしたの。
大丈夫。
何があったの。
何も。
ただ。
佐久間の背中へ腕を回す。
ゆっくり。
抱きしめ返した。
佐久間の身体が。
少しだけ震えた。
「今日」
小さな声。
「来てくれてありがと」
「うん」
「……楽しかった」
「俺も」
阿部は。
背中を軽く撫でる。
「すごく楽しかった」
佐久間は。
しばらく離れなかった。
阿部も。
急かさない。
何を思っているのか。
今は知らなくてもいい。
そのうち。
話したくなったら。
聞けばいい。
少しして。
佐久間が身体を離した。
目元は。
やっぱり少し赤かった。
でも。
笑っている。
「じゃあね!」
「うん」
「またイベントあったら絶対行こうね!」
「行く」
「あべちゃん、今日以上に予習しないでよ!」
「なんで?」
「俺の立場なくなる!」
「じゃあ佐久間ももっと予習すれば?」
「負けない!」
阿部は笑った。
「またね」
「うん。また!」
佐久間が。
今度こそ歩いていく。
阿部は。
その背中が見えなくなるまで。
少しだけその場に立っていた。
“また”。
たった二文字。
でも。
佐久間には。
何か大事な言葉だったのかもしれない。
そんな気がした。
それでも。
今は追いかけない。
阿部は。
スマホを取り出した。
目黒へ。
『今帰った』
送る。
返事は。
すぐだった。
『待ってる』
阿部は笑う。
そして。
目黒の家へ向かった。
扉を開ける。
「ただいま」
すぐに。
目黒が出てきた。
「おかえり」
阿部を見るなり。
目黒の顔が緩む。
「楽しかった?」
「めちゃくちゃ」
「写真見たら分かった」
「俺、佐久間より楽しんだ」
「そうみたいだね」
目黒は。
阿部の増えた荷物を見る。
「買ったね」
「ちょっと」
「ちょっと?」
「……結構」
「見せて」
「あとで全部見せる」
「うん」
目黒は。
嬉しそうに阿部を抱きしめた。
「ちゃんと帰ってきた」
「帰ってくるって言ったでしょ」
「一番に?」
「一番に」
「よかった」
阿部も。
目黒の背中に腕を回す。
しばらくして。
目黒が聞いた。
「佐久間くんは?」
阿部は少し考える。
「楽しそうだった」
「そっか」
「傷の話は」
少し間を置く。
「聞かなかった」
目黒が。
阿部の頭を撫でる。
「うん。それでいいと思う」
「でも」
「うん?」
「最後に抱きしめられた」
目黒の手が止まった。
「……抱きしめられた?」
「うん」
「佐久間くんに?」
「他に誰がいるの」
目黒は黙る。
阿部が。
少し笑う。
「俺も抱きしめた」
さらに。
沈黙。
「めめ?」
「……一日貸すって言ったから」
「うん」
「今日は我慢する」
阿部が吹き出した。
「そこ?」
「そこ大事」
「佐久間だよ?」
「分かってるけど」
目黒は。
少しだけ不満そうに阿部を抱きしめ直す。
「もう今日は終わったから」
「うん?」
「ここから俺の時間」
「またそれ?」
「約束したでしょ」
阿部は。
笑いながら。
目黒の胸に額を預けた。
イベントで。
いっぱい笑って。
いっぱい騒いで。
佐久間と。
次の約束もした。
そして。
ちゃんと。
帰る場所へ戻ってきた。
今日は。
誰の傷も治していない。
何の答えも出していない。
それでも。
きっと。
意味のある一日だった。
そう思えた。
コメント
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うわあ、めちゃくちゃいい話だった……! コラボカフェで阿部がどんどんハマっていく感じとか、佐久間との「せーの」で開ける特典交換のシーン、すごくリアルで思わず笑顔になったよ。あと、帰り際のぎゅっとした抱きしめ。阿部が何も聞かずに、ただ抱きしめ返した選択が本当に優しくて。最後にちゃんと帰る場所(めめのとこ)に戻ってくるのも、この話ならではのあたたかさだなって思った。何かを治そうとしなくても、意味のある一日ってあるんだね。素敵なエピソードをありがとう、みらさん!