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目黒の腕の中で。
阿部は少しだけ笑った。
「じゃあ、荷物置こう」
「うん」
二人でリビングへ向かう。
扉を開けた瞬間。
阿部の足が止まった。
「……」
目黒も。
隣で固まる。
リビングには。
天使と。
魔王がいた。
「おかえりー」
天使が。
何でもないことのように手を振る。
その横。
ソファには。
魔王が座っていた。
正確には。
座っているというより。
沈んでいた。
「……え」
阿部が。
ゆっくりソファを見る。
背もたれは斜め。
座面は床すれすれ。
脚は完全に曲がっている。
明らかに。
壊れていた。
「ちょっと待って」
阿部が言う。
魔王が振り返る。
「何?」
「何じゃないよ!」
阿部はソファを指差す。
「壊れてる!」
「ああ」
魔王が下を見る。
「壊れたね」
「なんでそんな他人事なの!?」
目黒も。
壊れたソファを見る。
「完全に潰れてるね」
「めめ冷静だね!?」
天使は。
隣で楽しそうに笑っている。
「魔王重いからねー」
魔王が天使を見る。
「魔王だからしょうがない」
「何その理屈」
阿部は頭を抱えた。
「とにかく直して」
魔王が。
少し面倒そうな顔をする。
「えー」
「えーじゃない」
「別に座れるよ」
「座れてないから!」
「俺は座れてる」
「ソファが耐えてない!」
魔王は。
しばらく壊れたソファを見て。
小さく息を吐いた。
「しょうがないなぁ」
指を鳴らす。
一瞬。
黒い光が部屋を包んだ。
「うわ」
阿部が目を細める。
光が消える。
そして。
ソファは。
直っていた。
「……」
阿部は黙る。
目黒も。
何も言わない。
天使だけが。
「おー」
と拍手した。
確かに。
壊れてはいない。
ただ。
大きい。
とにかく大きい。
黒。
金。
背もたれには。
#❤️💙
みら

19,807
207
意味の分からない装飾。
肘掛けには。
何かの角みたいなものまで付いている。
完全に。
部屋から浮いている。
阿部は。
ゆっくり魔王を見る。
「……何これ」
「ソファ」
「見れば分かるよ」
「直したじゃん」
「景観!」
阿部は。
部屋を見回す。
普通のリビング。
普通のテーブル。
普通のテレビ。
そこに。
魔王城から持ってきたようなソファ。
明らかに。
おかしい。
「めめ」
「うん」
「どう思う?」
目黒は。
少し考える。
「存在感あるね」
「優しい言い方しなくていいよ」
魔王は。
満足そうにそのソファへ座った。
今度は。
壊れない。
「これなら俺座れる」
「俺が座りたくないんだけど」
「慣れるよ」
「慣れたくない」
天使が。
楽しそうにソファの端へ座る。
「意外と座り心地いいよー」
「そういう問題じゃないんだよなあ」
阿部は。
諦めたように荷物を床へ置いた。
その時。
天使が。
じっと阿部を見る。
「何?」
「ううん」
「何」
「前のあべちゃんに戻ってきたね」
阿部の表情が。
少しだけ変わる。
目黒も。
天使を見る。
「前の俺?」
「うん」
天使は。
何でもないことのように笑っている。
「どういう意味?」
阿部が聞く。
「それはねー」
「この家狭いよー」
突然。
魔王が言った。
阿部が。
勢いよく振り返る。
「今大事な話してる!」
「でも狭い」
「分かってるよ!」
「九人来るんでしょ?」
「来るけど」
「俺も来るし」
「それは知らない」
「天使も来るし」
「それも勝手に決めないで」
目黒が。
少し笑っている。
阿部が睨む。
「めめ」
「ごめん」
「笑わないで」
「でも」
目黒は部屋を見る。
「確かに九人だと狭いよね」
「天使にも前言われた」
「でしょ?」
魔王が満足そうに頷く。
「じゃあ広くしよう」
「……え?」
阿部が止まる。
「今?」
「今」
「どうやって?」
魔王は。
立ち上がった。
「一旦全員外出て」
「なんで?」
「いいから」
「絶対嫌な予感する」
天使が。
すでに玄関へ向かっている。
「ほらほらー」
「天使も普通に従うんだ」
「こういうのは魔王の方が得意だから」
「何が?」
「建築」
「初めて聞いた」
目黒が。
阿部の荷物を持つ。
「行こっか」
「めめまで」
「中にいたら危なそうだし」
「それはそう」
阿部は。
渋々立ち上がった。
アパートの外へ出る。
三人で建物の前に立つ。
「……」
阿部は。
自分たちの部屋を見上げる。
不安しかない。
「めめの部屋、魔王城になったらどうしよう」
目黒が少し考える。
「……困るね」
「でしょ?」
「でもあべちゃんが一緒なら」
「そういう話じゃない」
天使が隣で笑う。
「魔王城も楽しいよー」
「楽しくない」
「広いよ?」
「広さだけの問題じゃない」
「お風呂も広い」
「ちょっと魅力的にするな」
目黒が吹き出す。
阿部が。
また睨む。
「めめ」
「ごめんって」
その時。
中から。
魔王の声が響いた。
「出来たよー!」
「早!」
阿部が驚く。
「大丈夫かな」
目黒が言う。
「大丈夫じゃなかったら戻してもらう」
「戻せるかな」
「……」
二人とも少し不安になる。
天使は。
何も気にせず玄関を開けた。
「入ろー」
部屋へ戻る。
阿部は。
恐る恐る中を見る。
「……あれ」
目黒も。
周りを見回す。
普通だった。
壁も。
床も。
天井も。
魔王城にはなっていない。
ただ。
広い。
玄関も少し広くなり。
廊下も。
リビングも。
以前の何倍かある。
キッチンも。
九人で立っても余裕がありそうだった。
「普通」
阿部が言う。
魔王が。
得意そうに胸を張る。
「普通にした」
「できるんじゃん」
「できるよ」
「じゃあソファも普通にしてよ」
全員。
リビングを見る。
そこには。
あのソファ。
黒。
金。
角。
やたら大きい。
部屋が広くなったせいで。
さっきよりは馴染んでいる。
でも。
やっぱり浮いている。
阿部は。
無言で魔王を見る。
「……そこはそのままなんだ」
「俺座れるから」
「俺の家なんだけど」
「めめの家でしょ?」
「細かいところ突っ込まなくていい」
目黒が。
ソファへ近づく。
「でもこれ」
「何?」
「九人座れそう」
阿部が。
少し考える。
確かに。
大きい。
かなり。
「……それは便利かも」
魔王が。
嬉しそうに笑う。
「でしょ?」
「でも見た目は嫌」
「贅沢」
「誰の家だと思ってるの」
天使が。
部屋の真ん中でくるっと回る。
「広くなったねー」
「天使が最初にやってくれればよかったじゃん」
阿部が言う。
「面倒だったから」
「最低」
「でも魔王やってくれたし」
「役割分担」
魔王が言う。
「そういうこと」
二人で勝手に納得している。
阿部は。
深く息を吐いた。
「もういい」
「いいの?」
目黒が聞く。
「広くなったし」
もう一度。
ソファを見る。
「……そのうち慣れるかもしれない」
魔王が満足そうに頷く。
「慣れる慣れる」
「嬉しそうにしないで」
天使が。
突然。
玄関へ向かう。
「じゃあ帰るねー」
阿部が振り返る。
「え?」
魔王も。
普通に立ち上がる。
「俺も」
「ちょっと待って」
「何?」
阿部は。
天使を見る。
「さっきの」
「何?」
「前の俺に戻ってきたって」
「あー」
天使が思い出したように笑う。
「また今度ねー」
「今聞く!」
「また来るから」
「今話せるでしょ!」
魔王も。
玄関で手を振る。
「じゃあねー」
「二人とも自由すぎる!」
目黒が。
後ろで笑っている。
天使は。
扉を開ける。
「また来るねー」
「来るなら普通に来て!」
「多分!」
「多分って何!」
そのまま。
二人は外へ出ていった。
扉が閉まる。
静かになる。
阿部は。
しばらく玄関を見つめた。
「……帰った」
「帰ったね」
目黒が隣に立つ。
阿部は。
新しく広くなったリビングを見る。
普通の部屋。
広いキッチン。
大きなテーブルを置けそうな空間。
そして。
明らかに普通ではないソファ。
「めめ」
「ん?」
「あれ本当に置いとく?」
目黒も。
ソファを見る。
少し考えて。
「九人座れるなら便利じゃない?」
「めめまで魔王側にならないで」
「でも」
目黒が笑う。
「次みんな来た時、座れるよ」
阿部は。
もう一度ソファを見る。
九人。
並んで座って。
佐久間が騒いで。
康二が写真を撮って。
ラウールが何か食べて。
きっと。
すぐにうるさくなる。
「……まあ」
阿部は。
少しだけ笑った。
「それならいいか」
「気に入ってるじゃん」
「気に入ってない」
「ほんと?」
「見た目はね」
阿部は。
広くなった部屋を見回す。
また。
みんなが集まれる場所が。
少しだけ。
広くなった。
それだけは。
悪くないと思った。
魔王と天使が帰ったあと。
阿部は、広くなったリビングをもう一度見回した。
「……ほんとに広くなったね」
目黒も隣で頷く。
「九人来ても余裕ありそう」
「じゃあ」
阿部はスマホを取り出した。
「みんなに言っとこうかな」
グループチャットを開く。
少し考えて。
『めめの部屋広くなった』
と送った。
すぐに既読がつく。
佐久間から。
『何それ!?』
康二。
『どういうこと!?』
ラウール。
『引っ越したの?』
阿部は笑いながら打つ。
『魔王が広くした』
数秒。
誰からも返事が来なかった。
目黒が横から画面を覗く。
「止まったね」
「説明不足だったかな」
「十分だと思うけど」
その直後。
佐久間。
『魔王!?!?!?』
康二。
『なんで!?』
渡辺。
『もう何でもありだな』
宮舘。
『壊されてない?』
阿部は。
ソファを見る。
黒。
金。
無駄に大きい。
妙に立派。
『ソファ壊された』
送る。
深澤。
『壊されてるじゃん』
岩本。
『部屋は大丈夫なの?』
『部屋は大丈夫』
少し考えて。
『むしろ広くなった』
ラウール。
『見たい』
佐久間。
『明日行く!!』
康二。
『俺も!』
深澤。
『俺も見たい』
渡辺。
『みんな行くなら行く』
宮舘。
『じゃあ俺も』
岩本。
『結局全員じゃん』
阿部は。
画面を見ながら笑った。
「明日全員来るみたい」
「早いね」
目黒も笑う。
「部屋広くして正解だったかも」
阿部は。
もう一度ソファを見る。
「でもあれは正解じゃない」
「九人座れるよ」
「めめ、気に入ってきてない?」
「ちょっと」
「やめてよ」
二人で笑った。
夜。
夕飯を食べて。
風呂にも入って。
寝る準備まで終わったあと。
阿部は。
あの大きなソファに座っていた。
結局。
座り心地は悪くない。
むしろ。
かなりいい。
それが少し悔しい。
隣には目黒。
頭の中には。
天使の言葉が残っていた。
『前のあべちゃんに戻ってきたね』
「……めめ」
「ん?」
「天使が言ってたこと」
目黒が阿部を見る。
「前のあべちゃんに戻ってきたって?」
「うん」
阿部は膝を抱える。
「どういう意味だと思う?」
目黒は。
すぐには答えなかった。
少し考えてから。
「事件の直前のあべちゃんじゃないと思う」
「……うん」
それは阿部も思っていた。
あの頃の自分は。
食べられなくて。
眠れなくて。
誰にも会いたくなくて。
全部忘れたいと思っていた。
戻りたい自分ではない。
目黒は続ける。
「もっと前」
「もっと前?」
「うん」
阿部を見る。
「元気だった頃のあべちゃん」
阿部は黙る。
「仕事して」
「みんなと喋って」
「好きなこと見つけたらすぐ調べて」
「気になったら止まらなくなって」
目黒が少し笑う。
「アニメイベントもそうだったでしょ」
阿部も。
少しだけ笑った。
「佐久間より予習した」
「そう」
「イベントも佐久間くんより楽しんでたし」
「それは言われた」
「そういうところ」
目黒は。
阿部の髪を軽く撫でる。
「ちょっと前のあべちゃんっぽいなって思った」
「……そっか」
「もちろん」
目黒は続ける。
「全く同じじゃないよ」
阿部が見る。
「記憶なくしてた時のあべちゃんもいるし」
「この夢で覚えたこともあるし」
「今のあべちゃんは、前のあべちゃんに戻ったっていうより」
少し考える。
「前の元気なあべちゃんに近づいてきた、って感じかも」
阿部は。
その言葉をゆっくり考えた。
「俺」
阿部が言う。
「事件の前って、そんな元気だった?」
目黒が少し笑う。
「元気だったよ」
「忙しかったでしょ」
「忙しかったけど」
「疲れてた時もあったし」
「それでも」
目黒は阿部を見る。
「楽しい時はちゃんと楽しそうだった」
「……」
「みんなでいるの好きだったし」
「仕事の話してる時も」
「何か調べてる時も」
「目、輝いてた」
阿部は。
少し照れたように目を逸らす。
「そんな見てたの?」
「見てたよ」
「ずっと?」
「ずっと」
即答だった。
阿部は笑った。
「めめらしいね」
「恋人だから」
「はいはい」
目黒は。
阿部の肩を抱き寄せる。
「でも」
「何?」
「最近」
少しだけ声が柔らかくなる。
「そういう顔、増えた」
阿部が。
目黒を見る。
「温泉でも」
「うん」
「イベントでも」
「うん」
「今日、みんなに部屋のこと送ってた時も」
「そんなところまで?」
「楽しそうだったから」
阿部は。
少し黙った。
自分では。
気づいていなかった。
でも。
考えてみれば。
最近。
笑うことが増えた。
食べたいと思う。
出かけたいと思う。
次の予定を楽しみにする。
誰かとまた会いたいと思う。
現実に戻ったら。
これをしたい。
あれをしたい。
そんなことも。
少しずつ増えている。
「……天使」
阿部が言う。
「ちゃんと見てたんだね」
「多分ね」
「適当そうなのに」
「適当そうだけど」
二人で笑う。
阿部は。
目黒の肩に少し寄りかかった。
「前の俺に近づいてるなら」
「うん」
「いいことなのかな」
目黒は。
少し考える。
「俺は嬉しいよ」
「なんで?」
「元気になってきてるってことだから」
「……」
「でも」
目黒はすぐに続ける。
「前と全く同じにならなくてもいい」
阿部が見る。
「事件の前のあべちゃんに戻らなきゃって思わなくていいし」
「うん」
「前より変わっててもいい」
「うん」
「頼れるようになったなら、その方がいいし」
阿部は。
少しだけ笑った。
「それは今も練習中」
「知ってる」
「すぐ自分で何とかしようとするから」
「それも知ってる」
「めめに全部バレてるね」
「長いからね」
「何が?」
「一緒にいる時間」
阿部は。
また笑った。
「そっか」
目黒の手を握る。
「じゃあ」
「うん?」
「前の俺に戻るんじゃなくて」
少し考える。
「元気だった俺も、記憶なくした俺も」
「うん」
「今の俺も」
指を絡める。
「全部持って帰ればいいのかな」
目黒の表情が。
少しだけ変わった。
「……うん」
ゆっくり頷く。
「それがいいと思う」
阿部も。
小さく頷いた。
天使が言った。
前のあべちゃんに戻ってきたね。
もしかしたら。
それは。
昔の自分に戻れという意味ではない。
好きだったものを。
また好きだと思えるようになった。
誰かと一緒にいることを。
また楽しいと思えるようになった。
これからのことを。
また考えられるようになった。
ただ。
それだけなのかもしれない。
でも。
今の阿部には。
それが十分だった。
「明日」
目黒が言う。
「またうるさくなりそうだね」
「絶対うるさい」
「佐久間くん一番にソファ座りそう」
「俺もそう思う」
「壊れないかな」
「魔王仕様だから大丈夫でしょ」
「そっか」
阿部は。
目の前の巨大なソファを見る。
少しだけ笑う。
「まあ」
「うん」
「九人で座れるなら悪くないかも」
目黒も笑った。
「やっぱり気に入ってるじゃん」
「便利なだけ」
「ほんと?」
「ほんと」
「二回聞く?」
「それもういいって」
二人の笑い声が。
広くなった部屋に響いた。
明日は。
また九人が集まる。
そのことを。
阿部はもう。
普通に楽しみにしていた。
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お疲れ様です。 一気に読みました。 イベントドップリ楽しんだんだね。 予習もしっかりして🩷より楽しんだのかな 時々意味ありげな仕草表情どの位大きい物を抱えて居るのかな… 天使も悪魔も本当に自由だね😅
やっと読んだよ〜第46話!魔王がソファぶっ壊して直したら逆にデカくなってるの、笑った😂「俺座れるから」「ソファが耐えてない!」の掛け合い、阿部ちゃんのツッコミが冴えてた!天使の「前のあべちゃんに戻ってきたね」の台詞、最初は軽く流した感じなのに、最後にちゃんと回収してくるのがじんわり来た。めめが「元気だった頃のあべちゃん」って言ったとき、胸がきゅっとなった。広くなった部屋に皆が集まる日常、待ってる感じがすごくあったかくて好きだなあ。