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しっとりとした、なまあたたかい唇が重なると、どうしようもないほどに感じた。……ああ、やっぱりこのひとなんだと。


肝心なときにわたしを見てくれ、助けてくれるのは、いま傍にいない夫ではない。あなたなんだと。


「んぅ……」角度を変えて、重ねられる唇。鮮烈な情愛に身を焦がされ、狂いかけてしまう。落ちるところまで落ちてみたい。このひととなら……。


だがわたしは、精一杯の理性を振り絞って、なんとかあなたの腕を押した。「駄目です広岡さん。まだ、わたし、……きちんと出来ていません。きちんと整理してから、あなたに向き合いたい……」


すると、わたしの髪を撫でた広岡さんは、そっとわたしの耳元へと唇を近づけ、


「う……」どうしようもなく感じる。駄目。触れられるだけでびりびりと痺れて、日々の摩耗した生活で忘れかけていた情欲を取り戻す。――彼は。


わたしの耳たぶを唇で弄ぶように挟み込むと、


「――」


《《それ》》を聞いた途端、どうしようもならなくなった。彼が、わたしの首筋へと舌を這わせ、

「あ……んぅ……っ」感じる。声が出てしまうよ。ちゅうちゅうときつくわたしの首筋を吸い上げながら舐める彼はやがて、わたしの膨らみへと手を伸ばし、


「……んっ」


「えっちな声出すのな……有香子」


「広岡さん……」


「才我って呼べよ。有香子」


激しく互いを奪い合うような濃密な接吻を交わし、わたしの女の部分がおびただしい欲を垂れ流す。彼は、感じて、乱れるわたしの様子に満足したようで。パンティのなかに指を潜り込ませ、


「んぅ……っ」


「あー」ちょっと気の毒そうな、コミカルな声をあげた。「だくだくじゃん。待ってて。ゆっくり――じっくり、いかせてあげるから」


言葉通り、その声音で。放つフェロモンで。細くて繊細な白い指先で。わたしのことを至らしめてしまった。


激しい絶頂のあまり、自分を見失った。自分が巨大な膣になったかのように、あまりに激しい余波に。甲高い声をあげてしまう。「ああ……あああっ……!!」


「有香子」ひし、とわたしを抱きしめる彼の純真。わたしの欲動を抑え込んでいるかのようであり、わたしと一体になって高い波にさらわれているかのようでもあった。

わたしは彼の男の部分に手を伸ばす。かちゃかちゃとベルトを外し、ジィ、とジッパーをおろしてむき出しにすると、


「有香子っ……」


それを頬張り、上下させる。竿の部分が生々しく血管が浮かんでおり、ああ、あなたは、正直に生きるひとりの人間なんだなと悟った。


どこまでいってもあなたとわたしは、男と女。狂しく互いを求める同士。こんなわたしを愛してくれるあなたのためならば、わたしは、毒婦にでもなろう。


行為を終えた直後の、激しい息遣い。たまらない余波。快楽の矛先。身を狂わせるほどの絶頂の先に人間はなにを見るのか。……魂だけ、だった。


あなたという人間を愛するわたしはどうしようもない動物。獣なの。母であることを。ひとの妻であることを。このいっときだけは、忘れさせて。


欲を満たしてもまだ足りない。肌を合わせ、互いのぬくもりを重ね、わたしたちは愛を確かめあった。


* * *


「広岡さーん。鷹取さん!!」


どこかからか声が聞こえた。中島さんの声だ。

咄嗟にわたしは、自分の着衣が乱れていないかを気にした。上方から、懐中電灯で照らされる。穴を覗き込む中島さんの顔が見える。「お二人とも。無事ですか?」


無事、といっていいものか果たして。数瞬、迷いを見せているうちに、広岡さんが、「鷹取さんがすこし怪我をしている。……ロープ出すから、引っ張り上げてくれないか? 他にひとはいないか?」


「あはい」山崎さんの声が聞こえてどきっとした。いつから、……近くにいたのだろうか。「うちの主人を電話で呼びましょう」


そうしてみんなの手を借りて無事に、わたしたちは救出された。


けども、わたしたちに待っていたのは、いままでとは違う日常。思いもよらない結末だった。


わたしは密かにあなたの顔を盗み見た。大丈夫、と彼の目は語っていた。信ずるほかなかった。


申し訳ないですが、許しません。

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