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田中静人
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#ヒトコワ
天音ろっく
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私は今、サーカスに来ている。
サーカスに行くのはこれが初めてだが、何でサーカスにいるのかは分からない。
ピエロは好きだし、路上での大道芸も何度か足を止めて見たことがある。
しかし、なんでわざわざ1人で席に座って見ているんだろう。
まぁいつもの気まぐれだろう。
1人で歩いていて、ふらっと立ち寄ることは稀にあることだら。
それに楽しそうに芸をするピエロ達、楽しそうに笑い、拍手する他の観客達。
久々に煙草を嗜んだり、酒を呑む以外で楽しい思いをしているのだから、それはそれでいいことだ。
空中ブランコで美しく宙に浮かぶ舞姫に見惚れていると、右側の席で大きな爆発音がし、瞬く間にその席は観客の血や肉片が飛び散った。
悲鳴を上げる他の観客達。
私も怖くなり、立ち上がって逃げようとした。
その時、他の席も爆発を起こした。
次は向かい側の席とその左側の席だ。
爆風と音で私は耳を塞いでしゃがみ込む。
立ち上がると地獄絵図だった。
向かい側、左右の席は血と肉片で真っ赤に染まり、爆発に巻き込まれた観客達は血が流れた顔や腕を抑えながら叫び声を上げる。
子供達は泣き叫び、無事だった観客達も悲鳴をあげながらパニック状態。
それを鎮めようとするピエロ達。
この世に地獄があるとしたら、きっと今の状態だ。
誰が呼んだのか、すぐさま分厚いスーツを着た警察達がテントの中に入り、観客達を一斉に外へ出した。
外へ出たら救急車が何台も来ており、すぐさまに怪我人が乗せられた。
それでも悲鳴や叫び声は鳴り止まなかった。
私はその場に座り込む。
良くないことは承知しているが、タバコに火をつけた。
この状況下では、吸っていないとやっていられない。
その時、「◯◯◯◯さんですよね?」
目線を上に向けると1人の警察官が立っていた。
何故私の名前を?
「そうですが……」
私は携帯灰皿にタバコを捨て、立ち上がる。
何かの事情聴取だろうか?
何故私の名前を知ってるのか疑問だが?
「署へ来ていただきたいです。あなたには爆弾製造及びこのサーカスに3つの爆弾を仕掛けた容疑がかかってます」
は?
言っている意味が分からない。
爆弾を設置して人を多く殺める動機はないし、そもそも爆弾の作り方なんて知らない。
「ちょ、ちょっと待ってください。私はたまたまここに立ち寄っただけで爆弾なんて……」
「しかし生き残った方々から目撃されているんですよ。あなたがサーカスでの出し物中に不審な動きをしているのを」
「いいえ! 私は自分の席から一歩も動いていない!」
私は焦った。
出し物に夢中で、一歩も動いてない。
それにそんな適当な証言で犯人扱いなんて……。
「そうだ!お前がやったんだろ!」
警察の後ろにいるスーツ姿の中年男性が、私に怒鳴りつけた。
「そうよ!私は見たんだからね!」
次は男性の横にいた女性が叫んだ。
「その特徴的なピアス、忘れられるわけない」
「そんなにピアス付けているのはお前だけだ」
「間違いない!お前がやったんだ!」
「観念しろ!」
次から次へと罵声を浴びせられる。
警察官はそんな観客達の先頭に立ち、涼しい顔で、「さあ。一緒に来てください」と私の腕を掴もうとする。
私はその手を払い、一目散へ逃げ出した。
後ろから何か聞こえるが、知ったことではない。
私が不審な動きをした?
ピアス付けてたから?
それで犯人扱いされるなんてこんなことあってたまるか!
普段から運動不足の上、タバコの吸い過ぎで息が切れる。
でも今は立ち止まれないのだ。
でも、これからどうする?
他の観客達や警察も私を犯人にする気満々だ。
どうやって無実を証明する?
真犯人は見つかるのか?
冤罪で一生刑務所暮らしか?
もしそうだとしたら……。
いっそのこと死んでしまいたい。
その時、私の胸が弾け飛んだ。
まるで爆発したかのように。
ぶらんぶらんと、心臓らしきものが垂れ下がっている。
口からも血が流れ出てくる。
痛みは感じない。
しかし体が動かない。
私はそのまま壁に横たわる。
(このまま死ぬのか。でも、それでもいい)
私には既に生きようとする意志はなかった。
何回も死のうと思ったことがあった。
片想いしていた女友達に遊ばれ、切り捨てられた時。
その時に慕っていた先輩、可愛がっていた後輩、親友と思っていた奴に相談した結果、面白おかしく裏で笑い者にされた。
交際していた女性が同じ部署の男性とラブホテルから出てきたとことを聞いた時。
相手の女性や周りの社員はそれをネタに楽しんでいた。
母が病気で介護状態になり、その後母方の親族が母と私達を切り捨てた時。
実は弟が社会人になった時、離婚する予定だった話を聞いた。
小学生の私が小さな弟の手を繋ぎ、父から公園に呼び出され、母と父をどちらか選べと言われ、当時の私は泣きながら止めたことを思い出す。
小学生の時に離婚の話が出ていた時から、この家族は仮面家族だったという事実を知ってしまったことに絶望してしまった。
そして、血の繋がった母の親族達、4人の伯母さんや叔母さん、祖母が母を見捨てて、介護や費用を丸投げし切り捨てた時、余計に悲しくなった。
私より辛い家庭環境を歩んできた女性と出会った。
その女性は私のことを好いてくれて、付き合うことになった。
私も好きだった。
しかし、それも偽りで全て遊びだった。
彼女は関係を持った男性の下へ消えていった。
私は金だけ払う暇つぶしだったわけだ。
私は女性からの好意、好きだとか愛してるという言葉も信用出来なくなった。
何度も、何度も、何度も、何度も考えた。
未遂までいった。
しかしそれも中途半端。
死ねなかった時どうなる?
後遺症が残り、生活に支障をきたす。
介護状態になり、寝たきりになる。
植物人間状態になって、目を覚さない。
それを考えるたら直前で辞めた。
実行に移しても、結局未遂に終わった。
それから、自分が確実に死ねる事故や事件に巻き込まれないか考えるようになった。
それが今実現した。
冤罪で爆弾魔されるのは癪だが、死ねるならそれでいい。
ただ……。
ただ、最後に一本だけ煙草を吸えるなら吸いたい。
私はポケットから取り出して、愛煙しているショートホープにジッポライターで火をつける。
深く吸っても痛みも感じない。
ただ吸いごたえのあるショートホープの美味しい味。
本当は死に間際はショートホープを吸いながら、砂糖を入れたアブサンを呑んで死にたいとくだらないことを考えたこともあった。
だが、いっそこの状況ならアブサンが無いことが悔やまれる。
タバコももう吸い終わる。
ここで俺の命も終わる。
やっとこの地獄のような世界と別れを告げられるんだ。
その時、警察がやってきた。
今来てももう遅い。
俺はここで死ぬんだ。
「こんなところにいたのか?さあ一緒に来てもらう」
何を言ってるんだ?
この状況で?
私は軽く失笑した。
だが、内臓が垂れ下がった状態の俺の両脇に、警察2人が腕を掴んで立ち上がられた。
「何をしてるんですか?もう私は死ぬんです!何をしても意味がない」
俺は訳がわからなかった。
こんな内臓が飛び出てる人間を連行しようなんて意味がない。
「今から署へ連行する。なんでこんなことをしたのかもな」
「見えないのかこの状態が?私はもうすぐ死ぬんだ!」
俺は怒鳴った。
だが警察は涼しい顔をして
「お前こそ何を言っているんだ?生きているじゃないか?話はしっかり聞かせてもらうからな」
「なっ……」
そう。
内臓が飛び出てても、痛みも感じない。
飛び出てる以外は問題なく体が動けるんだ。
なんでこんな状態でも生きていられるんだ?
俺はそのままパトカーへ連行させられる。
その間、周りから治療されていた他の観客からよ罵倒を受ける。
「この人殺し!」
「この爆弾魔!」
「あたしの家族返してよ!」
罵詈雑言が一斉に浴びせられる。
いや、俺じゃない。
やったのは、俺じゃない。
叫びたかったが、声だけが出なかった。
俺は内臓が飛び出てたままパトカーに乗せられる。
早く俺を死なせてくれ。
なんで死ねないんだ?
何度も絶望を味わって、死ねないまま爆弾魔の人殺しとして過ごすのか?
もう嫌だ。
いっそ誰か俺を殺してくれ……。
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今日見た夢は過去最悪だった。
死ねないということがこんなにも絶望感を味わうのか。
希死概念は普段からあった。
自身が起こしたものでなければ、家族にも友人にも何も被害がないからだ。
だがこの夢は違う。
自分は人殺しとして、明らかにすぐ死んでもおかしくない状態で加害者として生きる。
これ以上の絶望があるのか?
健康のまま長生きしたい。人生を謳歌したいという人は多くいるだろう。
しかし、逆に世の中に絶望して死にたいと思っている人も多いだろう。
だからこそ世界には自殺というのが無くならない。
運命や自身の選んだ選択肢で謳歌できる人はいいが、狂った運命に選択肢も無い人間には苦しみしかないだろう。
生きるって辛いことだな。
そろそろ仕事へ行く準備をしなければならないが、私はタバコに火を付けて生きることの重みを噛み締めながら、一吸いした。
コメント
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第9幕、読み終えました。冤罪で爆弾魔扱いされる主人公の追い詰められ方が生々しくて、胸が締め付けられました。特に、内臓が飛び出ているのに♡♡♡ず、警察に連行されるシーンのグロテスクな絶望感が強烈です。最後の「今日見た夢」という一文で、現実も夢も地続きの苦しみであることが暗示されていて、重い余韻が残りました。主人公の希死念慮の描写が丁寧で、考えさせられるエピソードでした。