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城プル
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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FORSAKENの殺戮場には、今日も重苦しい血煙と腐臭が漂っていた。
追撃。
逃走。
そして、絶望。
何度繰り返しても変わらない、永遠のゲーム。
ヴァニティはその中で、幾度となくサバイバーを追い詰めてきた。
完璧なタイミング。
完璧な角度。
そして、彼女にしか理解できない「美しい仕上げ」。
けれど――
「……あーあ」
ヴァニティは、血を拭い終えた大きな包丁を眺めながら、小さくため息をついた。
「どいつもこいつも、同じような顔をするんだもん」
赤い野球帽のつばを指先で弄ぶ。
「逃げる。
捕まる。
怖がる。
そして最後には、みんな同じ顔」
つまらない。
ヴァニティの胸に、ほんのわずかな退屈が広がっていた。
「ボクの愛の精密さをもってしても、仕込みが完璧すぎて刺激が足りなくなってきちゃったな」
包丁の柄を撫でる。
その瞬間だった。
空間が、歪んだ。
「……ん?」
音が消えた。
風も。
匂いも。
気配すらも。
まるで世界そのものが、一瞬だけ息を止めたかのようだった。
足元の影がぐにゃりと反転する。
黒い泥のような闇が、ヴァニティの足元から急速に引いていった。
「ちょっと……何これ?」
次の瞬間。
視界が、真っ白に染まった。
「――っ!」
あまりの眩しさに、ヴァニティは目を細める。
そして、ゆっくりと目を開いた。
「……なに、ここ?」
そこには、FORSAKENには存在しない光景が広がっていた。
泥もない。
血煙もない。
腐臭もない。
壁も床も天井も、すべてが白銀と純白で統一されている。
まるで巨大な無菌室。
いや――
「白銀の屠殺場……?」
そう呟いた瞬間、ヴァニティは眉をひそめた。
ここはSWAPSAKEN。
何もかもが整いすぎている、異なる世界だった。
鼻を刺すような鉄の匂いすらない。
腐敗した肉の残り香もない。
聞こえてくるのは、自分の足音だけ。
コツ。
コツ。
コツ。
「……気持ち悪い」
ヴァニティは露骨に顔をしかめた。
靴底で床を擦ってみる。
しかし――汚れない。
もう一度。
ゴシゴシ。
それでも白い床には、傷ひとつ残らなかった。
「……」
ヴァニティの眉間に、深い皺が刻まれる。
「ボクの血の模様が消えちゃうじゃないか」
赤と白の上着に残っていた血の跡まで、妙に薄く見える。
「何なの、この無駄に真っ白な空間」
包丁を肩に担ぐ。
「こんなの、まな板としても不合格だよ」
白い壁を見上げる。
「汚れが残らない。
匂いも残らない。
恐怖の痕跡すら残らない」
ヴァニティは心底つまらなそうに吐き捨てた。
「殺戮の美しさが、ちっとも映えないじゃないか」
彼女にとって、血は汚れではない。
恐怖も、絶望も、命が最後まで抗おうとする姿も――
すべてが「美しさ」だった。
だからこそ、この世界の白さは耐え難かった。
「……スペクター様の領域なら、こんな退屈な白にはしないのに」
その名を口にした瞬間。
ヴァニティの表情が、ほんの少しだけ穏やかになる。
彼女にとってスペクターは、絶対的な存在だった。
血と恐怖。
生存者の絶望。
キラーたちの狂気。
それらすべてを包み込み、支配する存在。
だからこそ――
目の前の「白」は、どうしても気に入らなかった。
その時。
「まあ……」
声がした。
静かで、よく通る声。
ヴァニティが振り向く。
白銀の髪。
雪のような肌。
そして、隙のない純白のドレス。
その女性は、まるでこの白銀の世界そのものから生まれたかのように、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。
「異界から、可愛らしいお客様がいらしたのね」
女王アクチュアリティ。
SWAPSAKENを統べる存在だった。
その姿から放たれる気配は、神聖で。
静かで。
圧倒的だった。
普通の者ならば、思わず跪いてしまうほどに。
しかし――
ヴァニティは違った。
「……」
じっとアクチュアリティを見つめる。
そして。
「……キミが、この気取った箱庭の主?」
アクチュアリティが微笑む。
「そうよ」
「ふーん」
ヴァニティは興味なさそうに返した。
「思ったより普通だね」
「……まあ」
アクチュアリティの笑みが、ほんの少しだけ変化する。
ヴァニティはその顔を見ながら、包丁の柄を握り直した。
スペクター様とは違う。
圧倒的な支配。
世界そのものをねじ伏せるような存在感。
命の恐怖すら飲み込んでしまう捕食者の気配。
そういうものが、目の前の女王からは感じられない。
あるのは――
あまりにも整いすぎた白。
そして、その白の奥に隠された何か。
「……」
ヴァニティは目を細めた。
「キミ、なんだか変だね」
「何がかしら?」
「白すぎるんだよ」
クスクスと笑う。
「何も汚れてない。
何も壊れてない。
何も失ってないように見える」
ヴァニティは一歩近づいた。
「でも――」
朱色の瞳が細くなる。
「その奥には、何か隠してるよね?」
アクチュアリティは答えない。
ただ、微笑んでいる。
その沈黙を見て、ヴァニティの口元がゆっくりと歪んだ。
「……なるほど」
退屈が、消えた。
「面白いじゃん」
包丁を構える。
「ボクね、意味のない綺麗ごとって大嫌いなんだ」
刃が白銀の光を反射する。
「綺麗なものなら、最後まで綺麗にしておけばいい」
一歩。
さらに一歩。
「でも、ボクは知ってるよ」
ヴァニティは笑った。
「どんなに綺麗なものでも――」
包丁をゆっくりと持ち上げる。
「傷がつけば、そこから全部が変わるってこと」
アクチュアリティの瞳が、わずかに細くなる。
「あなた……」
「ふふっ」
ヴァニティは楽しそうに笑う。
「やっと退屈しなくて済みそうだね」
白銀の空間に、鋭い殺気が走った。
「スペクター様に捧げる料理として、キミがどんな味なのか――」
ヴァニティの笑顔が、狂気に染まる。
「ちょっとだけ、確かめさせてもらうよ」
そして――
白銀の世界に、初めて「赤」が走ろうとしていた。
コメント
1件
VANITYの小説!普通に今でも推してたのでめっちゃ嬉しいです!SWAPFORSAKENのスペクターってアクチュアリティっていうんですね....優しい性格だとは聞いているけれどこれからどうなるのかが気になります!