望まない未来に怯えて嫌な結果を迎えるぐらいなら、自分から選択して「私が選んだ事だから」と胸を張って言いたい。
――大丈夫。
――私は尊さんに愛されてるし、周りの人たちにも祝福されている。
――私たちは今さら揺らがない。
私は自分に言い聞かせ、さらに言う。
「宮本さんに連絡して、彼女がいいって言ったら、広島まで会いに行ってみませんか? 私も一緒に行きたいです。電話やメッセージで用事を済ませるより、実際に会って話したほうが分かり合えると思います。文字だけの『ごめんなさい』より、相手の目を見つめて心を込めて謝ったほうが、きっと伝わります」
彼を見つめて訴えかけると、尊さんはしばし軽く瞠目して私を見ていたけれど、優しく笑って頭を撫でてきた。
「……なんか、控えめに言って最高だな」
「え? 何がです? ……わ、あんまりクシャクシャしたら。……わっ」
あんまりにも尊さんがワシャワシャ頭を撫でるので、私はクスクス笑って彼の腕にしがみつく。
そのあと尊さんはまた私を抱き締め、息を吐いて言う。
「……俺の中で朱里は、ずっと『守るべき存在』だったんだ。あの橋で出会った時から、今どうしてるか、また泣いてないか気に掛け続けてきた。会社に引き入れてからも、仕事で躓くたびに手を差し伸べたくて堪らなくなって必死に我慢してた。……年齢も離れてるし、一時は妹に重ねて見ていた事もあり、俺の中で朱里は庇護の対象だった」
そこまで言ったあと、彼は破顔する。
「……でも、成長して大人になったな。……すげぇ誇らしい」
そう言われ、女性として求められた時と同じぐらいの喜びを感じた。
「……朱里と結婚したら、凄く楽しくやっていけそうだ。きっとお前は母親になっても明るさを忘れず、賢く正しく子供を導いていける人になれる気がする。……勿論、俺も全力で育児するけどな」
「はい!」
私はにっこりと笑い、尊さんに抱きつく。
「……大好きですよ。だから、大丈夫」
私はギュッと腕に力を込め、不安を抱えた彼を励ます。
やがて尊さんはスマホのメールに宮本さんのメールアドレスを打ち込み、本文を考えようとして悩み始める。
「……参ったな。纏まんねぇ……」
言葉の通り、彼は文章を打ち込んでは消し……、を何回も繰り返している。
「シンプルなほうがいいんじゃないですか? とりあえず感情的な事を書くより、事実を書いて『お会いできませんか?』って聞けばいいんですよ」
「…………確かに。今グダグダ書くのは得策じゃねぇな」
尊さんは頷き、努めて冷静に、ビジネスメールみたいな感じで打っていく。
【宮本凜さま お久しぶりです、速水尊です。今は継母に法の裁きを受けさせ、篠宮尊として副社長に就任しました。大変申し訳ない事に、つい先日、兄からあなたの手紙を受け取りました。手紙は継母の言いなりになっていた人事部部長が保管し、社長となった兄が取引して受け取ったそうです。知らなかったとはいえ、ずっとあなたを無視した形になり、本当に申し訳なく思っています。宮本さんは広島でご結婚されたそうですね。おめでとうございます。僕にも婚約者ができ、結婚を控えているところです。つきまして、色々お話ししたく、お時間をいただけたらと思いました。大切な話なのでメッセージで済ませたくはないので、もし宮本さんさえ不快でなければ、婚約者と一緒にそちらに伺っても宜しいでしょうか? 速水尊】
彼は文章を打ったあと、「これでいいだろうか」と私にスマホを渡してくる。
「多分、いいと思います」
頷くと、尊さんはもう一度メールを読み返して誤字脱字のチェックをしたあと、深呼吸したのちに送信ボタンをッタップした。
「……はぁ……」
彼は溜め息をつき、スマホをテーブルの上に置く。
「お疲れ様です」
「……やべぇ。心臓バクバクしてる」
尊さんは溜め息をつき、力なく項垂れる。
「どれどれ」
私はススス……と彼の胸元に手を当て、雄っぱいをモミモミ揉む。
「……こらぁ……、痴女……」
尊さんは笑い交じりに言い、私の両頬を摘まんでムニムニと引っ張った。
「広島って厳島神社があるんでしたっけ。あと、原爆ドームも」
「そうそう。……って、修学旅行で行かなかったか?」
「私、中学の修学旅行が京都、奈良で、高校の修学旅行は長崎でした」
「そっか……」
「尊さんは?」
尋ねると、彼はチラッと目を逸らしてから答える。
「中学は広島から北九州、高校はアメリカ」
「あーっ! 格差だ! 海外いいな!」
「…………だから言うの嫌だったんだよ……」
尊さんはションボリして項垂れる。
――と、その時、彼のスマホがピコンと鳴った。
コメント
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朱里ちゃんの肝が据わってる姿勢に脱帽🤗 最高の女だよホントに(๑•̀ㅂ•́)و✧