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ももは
病院・特別個室 ― 夜
静かな病室。
点滴の機械音だけが、規則正しく響いている。
ベッドの上では、右腕を吊った牧田孝二がゆっくりと上体を起こしていた。
コン、コン――
控えめなノック。
扉が開き、スーツ姿の畑中浩一が入室する。
畑中は牧田の前で立ち止まり、深く頭を下げた。
「夜分に失礼いたします。ORVASの畑中です」
静かな声が病室に響く。
「今回の件、部下の軽率な行動によりご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません」
牧田は小さく息を吐き、穏やかに首を振った。
「どうか頭を上げてください」
そう言いながら身体を起こす。
「私の方こそ、無断で情報を求めて押しかけた立場です。勝負を選んだのも私自身の判断でした」
その言葉に、畑中は少しだけ表情を和らげる。
そして手にしていた花束と小さな箱をテーブルへ置いた。
「それでも、せめてものお詫びです」
「ご回復の後、改めて正式にご挨拶させていただきます」
牧田は花束を見つめながら、静かに呟いた。
「……礼など不要ですよ」
少し間を置く。
そして視線を畑中へ向けた。
「あの公太という少年の力。あれがネオコードというものですか」
空気がわずかに張り詰める。
畑中の表情が引き締まった。
「やはり、お気づきになられましたか」
牧田はゆっくり頷く。
「あの瞬間、空気の圧が変わったのです」
「技術や筋力では説明できない力でした」
窓の外へ視線を向ける。
「私は長年、多くの戦場を見てきました。だから分かる」
「彼はまだ若い。しかし確かな才能を持っています」
「伸びしろもある」
畑中は静かに聞いていた。
だが次の瞬間、小さく首を振る。
「確かに才能はあります」
「ですが同時に危うさも抱えています」
視線が少し厳しくなる。
「本人が力に呑まれれば、仲間を守るどころか巻き込む可能性すらある」
「今の公太は、まだ未完成です」
牧田はその言葉を聞き、静かに微笑んだ。
「未完成だからこそ魅力がある」
「火種というものは、時として時代を動かしますからね」
病室に沈黙が落ちる。
点滴の音だけが静かに流れていた。
やがて牧田が再び口を開く。
「……我々アスガルトには若手育成プログラムがあります」
畑中の眉がわずかに動いた。
「建前上は技術交流ですが、実際は実戦に近い訓練です」
「北域演習区で行われています」
畑中は静かに問いかけた。
「受け入れの余地がある、と?」
牧田は小さく笑う。
「私にそこまでの権限はありません」
「ですが――道を繋ぐことくらいならできるかもしれません」
再び視線を向ける。
「もし彼が今後、大きな壁にぶつかるようなことがあれば」
「環境を変えることで見える景色も変わるでしょう」
畑中は深く頷いた。
「貴重なお話をありがとうございます」
ゆっくり立ち上がる。
「その時が来れば、改めてご相談させていただきます」
牧田は片手を軽く上げた。
「その際はぜひ」
穏やかな笑みを浮かべる。
「――次は味方として会えるといいですね」
畑中は小さく頷いた。
「ええ」
そして一礼し、病室を後にする。
扉が閉まりかけた、その瞬間。
牧田が誰にも聞こえない声で呟いた。
「……あの炎の奥に、確かに光があった」
静かな笑みが浮かぶ。
「鍛え上げれば、もっと強くなる」
扉が閉まる。
再び病室は静寂に包まれた。
ピッ……
ピッ……
点滴の音だけが、夜の闇の中で静かに響き続けていた。
コメント
1件
しっとりとした夜の病室の空気が、すごく伝わってきました。お互いをリスペクトし合う大人同士の会話のやりとり、とても丁寧で好感が持てます。特に牧田さんの「あの炎の奥に、確かに光があった」という最後の呟きが胸に刺さりました。これから公太くんがどうなっていくのか、すごく楽しみです…🥀