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YK
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snjn
深掘りされるのも、見透かされるのも嫌いだ。
分かったような事を言われるのも気に障る。
ポーカーフェイスとは名ばかりの、これ以上踏み込んでくれるなよという顔をしとく。それが1番安全で心の安定になるんだ。
むしろそれが俺のデフォルト。
「…ねみぃー」
「…」
今日も鬼のようなスケジュールをこなしてクタクタに疲れきった勇斗が車に乗り込んできた。
バンの中、通路を挟んで1個横の窓際に腰掛けた勇斗が腕と足を組んでリラックスした体勢になった。その数秒後には静かな寝息が聞こえてくる。
…相当疲れてんな。
俺も今はなかなかの過密スケジュールだけれど、コイツの比にはならないだろう。
いつ寝てんだろ、って、こういう時に細切れで寝てんだな。
若いから持ってるようなもの。
無理できないのはお互い様だけど、最近の勇斗はなかなか見ていてちょっとこちらが気を張るレベルに疲れてる。
「…」
ライト消して…車内の空調少し上げるか。
のっそりと椅子から立ち上がり運転席に近づく。
調整が終わり静かに戻ると勇斗が薄目を開けてこちらを見ているのに気付いた。
「…あんがと」
「…いや、全然」
「…」
「…」
また寝息が聞こえ始めた。
…こういうとこ律儀だよなあ。
彼のこういった細かな気遣いが今の佐野勇斗を形作っているんだろう、と思う。
自分にはなかなか真似出来ないな、と思った。
…………
「…」
気付いたら俺も寝ていて、なんとなしに目を覚ました。
んー…ん?
「…っ」
体の横に重さを感じて振り向くとめっちゃ近くに勇斗の顔があって少し驚く。
寝てるし…
さっきまで通路を挟んだ向こうに居たはずなのに、なんでわざわざこっち来てるんだ?
「…」
全然気が付かなかった。
けど目を覚ましてしまってはこちらも少し動揺する。
「……ん」
「……」
なんだこの距離。
近いし重い。
その時視線を感じたのか勇斗の目がゆっくり開いた。
その目とかち合う。
「……おはよ」
「……おはよ。なんでこっち居るんだよ」
「んー…、いや、なんか。寝てる仁人が気持ちよさそうで、なんとなく」
「…あ、そう」
少し伸びをしながら寝惚けた口調でそう返される。
寝起きの人間に難しいことを聞いても仕方ない…。
俺もなんだかんだで少し休めた。
まー、いいか。
「…ねむ」
「んー…まだ寝れる」
「…ココで?」
「…嫌?」
「…いやじゃないけど」
「…もうちょい肩貸してー」
「ハァ…」
ため息を付いたけど、それがOKと取られたのか考える力も無いのかは分からないがまたスー…と寝息が聞こえた。
なんとなく目が覚めてしまったけど、その半身の温かさを多少妙に思いながらも目を閉じた。
…………
車のドアが開く音で目が覚めた。
誰かが呼びに来た。
「佐野さーん、」
「ハイハイ、行けるッスよ」
「…」
スタッフが呼びに来たのは勇斗だった。
いつの間にか勇斗は目を覚まし軽い準備を終えていた様で。
「行ってくる」
「…うん」
颯爽と居なくなったその背中はもうONモードで、なんとなく呆気にとられていた俺に短く言うと勇斗は車を降りていった。
…なんか結構眠れた気がする。
ココのところ俺も結構疲れてる。
無理できないけど無理しないと、そんな現場に身を置いているからか、疲労が溜まっていく一方で。
つかの間の休息は何故か勇斗と過ごし、回復も感じた。
深く考えても意味はない。勇斗もたまたまそうだったんだろう。
それだけだ。
そろそろ行くか、と俺も車をあとにした。
―――
「佐野くん今日調子よさそうだねー!」
「そッスか?」
「うん、肌ツヤもいいし元気元気、やっぱ若いからかな?」
「あはは、まあ、そうッスね」
「いいよ、その調子でいこ!」
現場では暗黙のやり取りがある。
スタッフや制作陣がキャストをやけに持ち上げて、モチベを上げてくれる。
それが満更でもない奴も居れば、わざとらしいなと冷ややかに感じる奴も居る。
ぶっちゃけその日のメンタル次第なところもあるので、誰が悪いわけじゃないがその扱いにまだ慣れなくてむず痒くなる事も多い。
「勇ちゃんおかえり」
「おう」
「次のとこさー、ここなんだけど」
「あー、うん、これね」
オフショットのカメラも付きながらの撮影。
なんとなく気が抜けない。
俺はそういうタチ。
笑っていても、なんとなく緊張してしまう。
ふ、と勇斗と目が合った。
あ…この顔だ。
俺しか気付かないような変化。普段あまり見ない表情。
さっき車の中で見た物と同じだった。
「…いやいや…めっちゃ疲れてるって」
「え、よっしーもう疲れたの?」
「いや俺じゃなくて」
近くに居たであろう柔太朗がすかさず拾って話しかけてくる。
そういうんじゃねーんだよなあ。
俺はなんとなく腑に落ちないまま、進行の台本のチェックを始めた。
疲れていても現場はまわる。時間は止まってくれない。
そしてその事に慣れていく感覚が、なんとなく日常に溶け込み消えていく。
どんどん自分のことには鈍感になっていく。
だからこそ、誰かが疲弊していたらハッとして気を張る。
倒れてはいられない。
毎日は目まぐるしく進む。
そんな俺の中に勇斗の存在が当たり前にあって、なのになんとなく視界の端、頭の隅にずっといる様な感覚を覚えていた。
―――
「うわ、雨じゃん」
「降ってんねー…」
「…なんかどっと疲れるな」
「あー…」
「とりあえず着替えよ」
メンバーそれぞれが控え室に向かう。
俺もその中に紛れ「まーじ萎えるわ…」と呟きながら歩いていた。
それでもまだ夕方。本格的に夜になる前で良かった。
夜の雨は嫌いだ。心が凄く寂しくなる。
まだ聞こえてくる雨音と、暗くなった街に降る雨を想像して鳥肌が立った。
なんか背中が寒いな…。
「…勇斗?」
前にもいない。後ろを振り返ってもいない。
あれ?さっきまで一緒に居たのにアイツどこ行った。
今日の勇斗を思い出し、俺はなんとなく来た道を戻りだした。
「仁ちゃーん?」
「あー、勇斗いねーからちょっと戻るわー」
「はーい」
背中に声をかけられてそう答えて、少し早足で歩く。
そんな簡単に倒れたりしないのはわかってる。
まだスタッフも残ってる。
外は雨だけど、そんな事で死んだりしない。
だけどなんとなく、気が逸った。
漠然とした不安を感じながら歩いていくとセット側の裏の扉が先程のように開いていて、その扉にもたれ掛かるようにして勇斗が立っていた。
少し近付くと、髪や頬が濡れているのに気付いた。
「…おい。なにしてんの」
「…仁ちゃん」
「…」
まるで蝋人形みたいに真っ白な頬が雨に濡れている。
「なあ…どうした?」
「…いや」
「なんか…あった」
「うん…」
「…ここ濡れるから、中行くぞ」
「…うん」
なんでここまでしないといけないのか、と思いながらもポケットに入れていたハンカチで勇斗の顔を拭く。なんだかやけにボンヤリとしていて明らかに様子がおかしい。
…気付いてしまったのだから放っておけない。
「…どうした。今日変だぞ」
「…仁ちゃん…疲れた」
「…知ってる。それだけか?」
「…うん」
「…ハァ。じゃあこんなとこ居ないで早く着替えよ。行くぞ」
「…」
なんとなく勇斗は自分で動かない気がして、半分手が隠れる大振りな服の袖を掴んで引っ張って歩き出した。
「仁ちゃん…服伸びちゃうよ」
「…うっせ」
なんとなく勇斗が笑ってる気がして、気恥ずかしいので後ろ手に袖を引き前を向いたまま歩いた。
着替えが終わったメンバーとすれ違う時に少しドキッとして勇斗の方を振り返ると、袖は引かれたままだがいつもの笑顔で「お疲れ〜ス」なんて言っていた。
「ハイ。お前の。早く着替えろ、風邪ひくぞ」
ロッカーの前に連れていき体を向き直させるとようやっと手を離した。
ハァ…とため息をつきながら自分も着替え出す。
俺コイツにはリーダーらしいことなんてあんました事ないのになあ。
今日はやけに手がかかる。
「…」
なんとなく目をやると勇斗は普通に着替えてて少し安心して、さっさと着替えを終わらせようと急いだ。
これでは帰宅が夜になってしまう。
「ふう…」
私服に着替えて鏡を覗いた時、その向こうにいる勇斗と視線が合った。
「…なに」
「…」
「…なんか変だね、今日はほんとに」
「…変、かな」
「変だよ。早く帰って寝てください?」
「…」
鏡で髪を直しながら会話をしてるとふと勇斗の返事が止んだ。
「…仁人…一緒にかえろ?」
「…は?」
「…おれんち、来て」
「…なんで?」
「…雨だから」
「…」
「…」
勇斗は何を言ってるんだろう。
さすがに感傷的過ぎないか。
「…意味わからん」
「…うん、俺もわかんねー」
「情緒不安定じゃないですか」
「…うん…そうかも」
「寝不足だとね、そうなるから」
「…ダメなん?」
「…」
ハイハイといなしていると改めて聞かれる。
ダメじゃないけど、そこまで?
「…ダメじゃないけど…まじでどうした?」
「うん…今日はなんとなく1人になりたくない」
「…ハァ」
何度目かのため息をついた俺はさっさと諦めることにした。
どうせ寝るなら同じだろう。
―――
あれから俺たちは同じ車に乗り勇斗のマンションに一緒に帰宅した。
着く頃にはもうすっかり夜で。
車から降りて外に出た瞬間の絶望感は半端なかったけど、隣に人がいて同じ家に帰ると思うとそれも少し柔らいだ。
「どうぞ」
「ただいまー」
「…おかえり」
少し笑いながら冗談を交えて話す。
さっきまでの別人のような勇斗ではなくって、少し安心した。
…………
「ありがと」
「いや、こちらこそ」
温かい飲み物の入ったカップを手渡されてそう言うと勇斗が少し笑って言った。
「なんか…雨ってさ」
「うん」
「最近嫌いなんだよね」
「最近?」
少し間を開けて俺の横に座った勇斗がポツポツと話し出す。
「うん…なんか気持ちが滅入る気する」
「あー…まあわからんでもないな」
「…ね」
「疲れてたりするとさ、見え方が変わるよね。何事も」
「うん、多分それ」
「…全然止まないな…俺も来てよかったかも」
「え?」
「いや…夜の雨、嫌いなんだ」
「仁人も?」
「うん。なんか…気持ちが滅入るわ」
さっきの勇斗の言葉を借りた。
寂しくなるとか、心細くなるなんて人にはなかなか言えないし。
「…なんか心が寂しくなるんよなあ」
「え…?」
「1人が嫌に感じる」
「…まあ、わかる」
素直にそう言った勇斗を見て、少し心がほぐれた気がした。
同じなんだ。
多分この雨のせいで、ここのところの疲れのせいで、俺たちはなんとなくシンクロしてる。
たまたまこの雨で重なったんだ。
きっと他にもそんな人は居るだろう。
雨が好きなんて、そんなロマンチストになれる程俺たちに心の余裕はないんだ。
「…ねむい。寝よ?」
「寝る寝る」
「あはは食い気味やんけ」
「だって眠いもん」
勇斗の寝室の大きなベッドに潜り込んで、目を閉じる。
他人の家で寝るなんてことないからちょっと心配してたけど…これは秒でいかれるやつかも…。
「仁人おやすみ」
「…おやすみ」
仰向けで目を閉じた。
瞼の向こうに僅かな光を感じる。
オレンジ色の常夜灯が俺たちを優しく照らしていた。
……………
………
……
…
ゴソッと寝返りをする音で少しだけ意識が戻る。
僅かな寝息を感じて少しだけ瞼を上げるとまた至近距離に勇斗の顔があった。
なんとなく反対を向いてまた目を閉じる。
すると今度は背中に勇斗の体の体温を感じた。
まあ…いいか…
そのまま意識がまた眠りに引き込まれていく。
窓の外ではまだ雨が降ってる。
背中の温もりがこの雨の寂しさを感じさせなくしてくれていた。
なんか、心地いいな、なんてどこかで思いながら今度こそ眠りについた…。