暗闇の地下、ここに魔力の根源がある。 しかし、目が慣れてきても、周囲には何もない。
ただの鉄骨で支配された暗闇だった。
「なんなんだ……? この部屋は……」
ガチャッ!!
「なんだっ!?」
急に音が鳴り響くと、天井からビカッと眩しすぎるくらいの真っ白な光が降り注ぐ。
『んー? なんだ? なんで人がいる?』
そして、放送のような音質で人の声が流れる。
「この声の主が……発明家……!」
「そ、それ、一番まずい展開じゃないですか!! 潜入どころか全員一瞬で見つかりましたよ!!」
しかし、慌てる俺たちを他所に、暗くて見えなかった自動ドアが開かれる。
「お前たち、ここで何してるんだ? おや……?」
そこには、丸禿げの老人で、分厚く丸い眼鏡を掛けた爺さんが現れた。
俺たちの横に寝そべっている、恐らく侵略者らしきモノを見ると、顔を傾げた。
「なんで俺の発明品が転がってんだ」
このジジイ……難なく自白……!!
俺たちが戦闘員や部隊に見えないとしても、明らかな人数差もあるのに、何かあるのか……?
「まあいいか。流れるところに流れるってな。お前たち、どうやってここに来たかは分からねぇが、まあお茶でも飲んで行きな」
そう言うと、爺さんは易々と背を向けた。
俺たちは、少し警戒しながらも後を追った。
「茶の間……」
「茶の間ですね……普通の……。地下であることには変わりないですけど……」
「お前さんたち、何者だ? 若い兄ちゃん二人に、コスプレ女、それに猫。お散歩な訳ねぇよなあ?」
敵対心はないようだし、普通に事情を話すか……?
俺は少し悩んだが、魔法やらを能力に置き換えて、他の全てを説明した。
「なるほどな。じゃあ、お前が蒼炎の剣士。”異世界から来た人物”ってことだな?」
その言葉に、俺たち全員の背筋が凍る。
そして、全員が黙り込んでしまう。
「わっはっは! 分かりやすい反応だ! それじゃあ、肯定しているようなモンじゃねぇか!」
そう言うと、爺さんは無遠慮にも大笑いをした。
「でも、まさか本当だったとはな。俺も話で聞いちゃいたが、半信半疑だったんだ。でも、俺の目から、お前さんたちは悪い奴には見えねぇな。何せ、嘘が下手だ」
この爺さんには、恐らく敵わない。
俺とルリは顔を見合わせ、白状することにした。
「異世界の魔王の息子が、勇者に祈りを込められてこちらの世界に転移……か。いい話じゃねぇか」
「信じる……のか……?」
「信じるぜ。だって本当なんだろ?」
「あ、ああ……。嘘はついてねぇけど……」
拍子抜けしてしまう。
こんな展開、恐らく誰も予想なんてしていなかった。
「まあ何にせよ、名乗ってもらったんだ。こちらも名乗らなきゃ失礼ってモンだよな。俺は鈴木忠作、発明家だ」
やはり発明家……。
俺は気を抜いていたのか、つい本題に走った。
「あの……人間と侵略者の融合体みたいなヤツ……。アレを作ったのも、アンタなのか……?」
その質問に、爺さんは途端に険しい顔に変わり、全員が再び、肝を冷やす。
「忘れたか? お前たちを見かけた時、最初に『俺の発明品』って言っただろ?」
た、確かに言っていた……。
色んなことに振り回されて、爺さんの不意の一言をすっかり忘れて、押し入った質問をしてしまった。
でも、引き取って貰わなきゃ困るしな……。
しかし俺の口は、別のことを口走った。
「じゃあ爺さんの発明は……『人間と侵略者を融合させる発明……人体実験』をしてるってことか……?」
「半分は合ってるが半分は違ぇな。俺が使わせて貰ってるのは、死刑囚になり、人権を迫害された人体だ。命ある人間を発明に使ったことはねぇよ」
「ってことは、前の事件の融合体とは無関係……?」
「まあ、その事件ってのは知らねぇが、命があったなら俺の発明とは無関係だな。その様子じゃ、お前さんたちはあまり知らないようだが、日々、公で出来ない侵略者を使った開発ってのは、裏で着実に行われている。その中で俺もそうだ。役人に買われ、この施設にいる」
「そうだったんですね、何だか安心しました」
学が、発明家として信頼できると認識できたのか、警戒心が解れ、お茶を啜り出した瞬間、
「でも、お前さんたちにこの”花の侵略者”が行くとはな。買った奴はお前さんたちを誤解してるのかも知れねぇ」
「え、誤解?」
すると、さっきまで身動きを取らなかった、元々花だった人型の侵略者は、急にウネウネと動き出す。
そして、ルリアールに襲い掛かると、腕や胴体は伸び、ルリアールの身体を抑え込んでしまった。
「ど、どうなってんだ!! 爺さん!!」
「ソイツは、対侵略者用に開発したヤツでな。魔力とやらの解明は出来てねぇが、実験中に気が付いた。その花の侵略者は、同じ侵略者を襲う傾向がある。それを利用し、人間の脳を動かせれば、人間の知能を得て、侵略者を捕縛できると考えて発明した……」
爺さんはその場から動くことなく、焦る姿もなく、流暢に危険事態を説明する。
「クソッ……! じゃあルリが危ねぇだろ……!!」
俺は刀を抜くが、何かがおかしい。
「蒼炎の兄ちゃん、兄ちゃんの力が魔力ってんなら、この施設内で、その力は使えねぇよ? 侵略者を扱うんだ、魔力を遮断する設備くらい整ってる」
「ンだと……!! ジジイ……状況分かってんのか!! このままじゃ、ルリが殺されちまう……!!」
「ああ、そうだな」
「は……?」
「まったく、妾が来ていて良かったな」
スッとクロが前に飛び出すと、瞬時にして、花の侵略者とやらは動きを止め、拘束を解いた。
中からは、ゲホッと息まで止められそうになっていたルリが飛び出てきた。
「そうか……魔力を吸って力を無くしたのか……。にしても……ジジイ……!! ルリが死にそうって時に、さっきの反応はどう言うことだ……!!」
「お前さん、何か勘違いしてないか?」
「あ……?」
「俺がいつ、お前たちの味方になった?」
その言葉に、俺たち全員は三度、背筋が凍る。
この爺さんは確かに気はいいし、俺たちの言葉も信じてくれるけど、それが味方を意味しているわけじゃない。
「研究……発明……進歩……。人間っつーのはな、幾つもの犠牲の上で生きてるんだ。特に、俺みたいな発明家を生業としてる奴は、その残酷な現実と常に渡り合ってる。目の前で人が死にそうになっても、俺の発明で人が死んだとしても、俺は知らねぇよ」
「テメェ……責任感ねぇだろ!! ンなの!!」
「裏の……!! 裏の技術者だぞ。世間一般様の常識で図れると思うなよ……小僧」
そう言いながら、不機嫌そうに自動ドアから去ろうと、ドアを開くと、目の前には侵略者がいた。
「コイツは……!!」
「外にも侵略者……!? なんで爺さんの施設なのに、侵略者が徘徊してやがるんだ……!!」
そう言ってる間に、今度は爺さんの腕と足が拘束され、壁に叩き付けられる。
「爺さん……!!」
「俺を……助けなくていい……!! 自分で蒔いた種だ、自分の発明に殺される覚悟もなく、俺ァ、こんな仕事してねぇよ!! お前たちは早く逃げちまえ……!!」
ガッ!!
俺は、蒼炎が出ないまま、刀で攻撃を抑える。
どうやら、コイツも植物の侵略者が元となっているようで、伸びているものは枝のように見えた。
「よせ!! 力が出ないんだろ!?」
「うるせぇ……! 目の前で命狙われてる奴がいんなら、黙って見過ごせねぇんだよ……!!」
刃は錆びている。蒼炎を出すことと、怪力、この二つが合わさって、ようやく使える代物になる。
「ウラァァァァァ!!」
ゴリ押し。俺にはもう、それしかなかった。
ゴキ!!
枝は力強く折れ、そのまま身体部分も、思い切りへし折ると、ソイツは動かなくなった。
「危ねぇ……身体が枝でよかったぜ……」
力が出せないのか、壁にもたれかかり、ゆっくりと腰を下ろす爺さんは、静かに俺を見遣る。
「ソイツが……お前さんの”正義”か……?」
「あ? 正義? 知らねぇよ、そんなモン。それよりも、命助けてやったんだから、護衛代寄越せ、クソジジイ」
俺が真顔で手を差し出すと、「少しだけだぞ。老いぼれの命を助けた礼じゃねぇ。この施設を、俺の息子たちを守ってくれた礼だ」と言い、また大きく笑っていた。
――
プツッと映像が切れると、一人の役人が話し出す。
「このように、私が監視していた研究員の施設では、異世界の力が封じられる施設内にいました。その施設では、蒼炎の剣士とコスプレの女、どちらとも、テレビなどで見せる力が発動できなかった。命の危機だと言うのに」
警察庁長官は、苦い顔でゆっくりと頷いた。
「それでは、潜伏調査、並びに、証拠の提示とさせて頂きます。後のご判断は長官殿にお任せします」
男はニタリと笑い、その場から去った。
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