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狭いアパートの窓から差し込む月光は、臨月を迎え、はち切れんばかりに膨らんだ静香の腹部を白く照らし出していた。その曲線は、かつての可憐な少女の面影を上書きし、圧倒的な生命の質量を主張している。「……出木杉さん、苦しくない?」
静香の声は、熱を帯びて微かに震えていた。彼女は横向きに横たわり、重くなった腹部を支えるようにして出木杉を受け入れる。出木杉は、その膨らみに掌を添え、内側から蹴り上げる力強い胎動を感じ取った。それは、彼がかつて机の上で学んだどの生命科学の記述よりも、生々しく、破壊的なまでに美しい現実だった。
「苦しくなんてないよ。これが、僕たちの生きている証なんだから」
出木杉は、彼女のうなじに顔を埋め、溢れ出る汗と母乳の混じり合った濃密な香りを深く吸い込んだ。ゴムという隔たりを捨て、剥き出しのまま重なり合う二人の間には、もはや一寸の迷いも存在しない。
彼は慎重に、だが深く、彼女の深淵へと己を注ぎ込む。静香は大きく背を反らせ、彼の肩に歯を立てた。その痛みさえも、二人が社会から切り離され、この閉ざされた空間でしか生きられない共犯者であることを再確認させる悦びとなった。
腹部の中の新しい命を挟んで、二人の鼓動が共鳴する。重なり合うたびに、静香の体からは奇跡の雫が溢れ、出木杉はそれを一滴も溢さぬよう、彼女の胸に唇を寄せた。
「ああ……出木杉さん、もっと……。この子にも、あなたの熱を伝えて……」
静香の指が彼の背中に食い込み、深い傷跡を残す。それは論理や道徳を置き去りにした、原始的なまでの生への渇望だった。エリートとしての未来を捨て、逃亡者となった出木杉にとって、この巨大な腹部を抱えた静香こそが唯一の帰るべき場所であり、守るべき宇宙のすべてだった。
絶頂の瞬間、静香の腹部がひときわ大きく波打ち、二人は一つの塊となって暗闇の中に沈んでいった。
夜が明ける頃、二人は互いの汗を拭い合い、まだ見ぬ二体目の命が、この過酷で密やかな逃避行の続きを照らす光になることを確信していた。