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#御本人様とは一切関係ありません
# 一生 そばにいて .
302
「ハッピーシュガーライフのキャストでお化け屋敷で肝試し?」
俺はマネージャーから渡された企画書を見て、思わず眉をひそめた
マネージャーはなぜか、ものすごくキラキラした顔をしている
「そう!」
俺はもう一度、企画書へ視線を落とした
『ハッピーシュガーライフ 実写版キャスト特別企画! 廃墟風お化け屋敷で肝試し』
出演予定者の欄には
俺、 なつ、 らん、 みこと、 こさめ。 そして原作者の夏目さんの名前まで書かれていた
「…夏目さんも?」
「うん」
マネージャーは嬉しそうに頷く
「公開するのは結構あとなんだけどね。今回の撮影で助監督たちが色々迷惑かけちゃったでしょ?」
「……あぁ」
すちさんが原作について怒って、 らんが屋上へ連れ出して、 最終的に居酒屋で飲み会になった、あの日のことを思い出す。
「助監督さんたちが、迷惑かけた分、夏目さんになにかお礼をしたいって聞いたらしいんだよ」
「それで?」
「夏目さんが、キャストみんなで肝試ししたいって」
「……」
(なんでその発想になるんだ)
俺は企画書を持ったまま固まった
「まぁ、番組側も面白い企画になるってことで乗り気みたい」
「……」
正直… 俺自身、お化け屋敷はあまり得意じゃない。 暗い場所、 突然出てくる人、 大きな音
全部嫌いだ
だけど 一つだけ、 確認したいことがあった
「……なつは出る?」
「あぁ、はい」
その瞬間 マネージャーがにやっと笑った
「なつさんのマネージャーから聞いたんですけど、お化け屋敷は怖いけど、芸能活動のため頑張るって張り切ってたらしいですよ」
「へぇ……」
俺は何でもないような顔をして返事をした。 俺は何でもないような顔をして返事をした。
けれど 頭の中では
(なつが怖がってるところ…)
とんでもない想像が始まっていた
(怖くて俺の服掴んだり…)
『っ、ご、ごめん…怖くて ⸝⸝』
(俺の後ろに隠れたり…)
『ぃ、いるま!俺から離れないで!ぜったい!⸝⸝』
(手握ってきたり…)
『怖いから、ちょっとだけでも…ううん、ずっとぎゅってして?⸝⸝』
「……」
「いるまくん?」
「行きます」
「即決!?」
俺は企画書をマネージャーへ返した。
「だったら行こうかなって」
「へぇ〜?」
「……なんですか」
「別に〜?」
絶対分かっている顔だった。 俺はそれを無視して、スマホを取り出す
(俺も怖いの苦手だけど)
画面には
『暇 南月』
登録したばかりの連絡先。 俺はその名前を見つめる
(なつと一緒に回りたいし)
…いや、 一緒に回れるとは、まだ決まっていないか。でも もしペアを決めるなら、 絶対になつと組みたい
「……」
俺はスマホを握りしめて、 誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
「……よし」
撮影当日
「…え、なにこれ儀式?」
スタジオへ入った俺は、思わず足を止めた。
なつ達がもう既に集まっていて、なにかを取り囲んでいた。取り囲まられていたのはすちさんだった。 頭を抱えて、 完全に絶望したような姿勢になっている。
「夏目さん?」
「……聞いてない」
「なんて?」
「俺も回るなんて聞いてない!!!!」
突然、 すちさんが顔を上げた
「俺、あくまで見学だと思ってたのに!!!」
「……」
「俺が怖がってるみんなを見て笑う企画だと思ってたのに!!!」
「夏目さん」
「俺もお化け屋敷入るなんて聞いてない!!!!! あのマネージャー!またやりやがった!」
「泣いてる?」
こさめが首を傾げる
「泣いてるよ!!!!」
「すっちー」
らんが、しゃがみ込んでいるすちさんの肩をぽんぽんと叩いた
「頑張ろ?ね?」
「らんらんはホラーとか得意だから、そんな意気揚々としてられるんだよ」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃないよぉ… 俺はただ、みんなが怖がってるのを高みの見物で傍観したかっただけなのに…」
こさめがすちさんの腕を、つんつんと指でつついた
「すちさん、やること悪魔だね」
「……」
「自分は安全な場所から、みんなの悲鳴を聞いて楽しむつもりだったんでしょ?」
「言い方」
「合ってるよね?」
「……合ってます」
「 認めるんだ」
すちさんは少しだけ視線を逸らした
「怖いの、本当に苦手なんです」
「へぇ〜?」
らんがにやにやしながら、すちさんの顔を覗き込む
「怖いんだ〜?」
「……怖いですよ」
「じゃあ俺と組む?」
「嫌です」
「なんで!?」
「らんらん、絶対お化け側に話しかけるじゃないですか」
「話しかけるよ?」
「ほら!!!!」
「ねぇねぇ!」
こさめが元気よく手を上げた
「ペアってもう決まってるの?」
「……!」
その言葉に
俺は反応した
(そうだ)
一番大事な問題
(ペア)
俺はさりげなく、 本当にさりげなく、 なつの方を見た。 なつは何も知らない顔で、企画書を確認していた。
(…なつと組みたい)
心の中ではそう叫んでいる。 だが、 表情には出さない。 俳優だから 演技には自信がある
「?…いるまどした? めっちゃこっち見てたけど」
「見てないです」
「見てたよ」
「……」
「もしかして」
こさめがニヤニヤしながら言う。なんか腹立つほどに、グーパンしたい。
「いるまくん、なつくんと組みたいの?」
「っ!?」
「え?」
なつが俺を見る
「い、いや!?」
「違うの?」
「……」
違わないぜんっっぜん! 違わない。 むしろ その通りだ。
「…まぁ」
俺は咳払いをした
「企画的に、メインキャスト同士で組む方が…⸝⸝」
「俺ら全員メインキャストやけど」
みことに正論を言われた
「……」
(終わった)
そんな俺を見て、 なつは少しだけ笑った
「……別に」
「?」
「俺、いるまと組んでもいいけど?⸝⸝笑」
「……え」
「え?」
俺の頭が止まった
「……なつ?」
「なに?」
「今」
「だから」
なつは少しだけ眉をひそめる
「いるまと組んでもいいって言っただけ」
「…………」
(勝った)
俺は心の中で、 静かに拳を握った。
その瞬間
「はいはーい!」
スタッフの声が響いた
「そろそろ撮影始めまーす!ペアを決めるので、皆さんこちらに集まってくださーい!」
「……!」
俺はなつを見る、 なつも俺を見る
「……」
「……」
(頼む… このまま なつと)
「ペアはくじ引きで決めまーす!」
「は?」
俺の願いは、 開始一秒で 無残にも砕け散った 。
ペア決め結果
いるま・なつペア
らん・こさめペア
すち・みことペア
「ちょっと神に育毛剤でも買ってこようかと思う」
「神様がハゲてる前提なの?」
隣にいたなつが、即座にツッコミを入れてきた
「わーいっ!」
その隣では、らんがこさめの肩に手を回していた
「可愛いこさめとだ〜!」
「撮影の時はあめてゃって呼んでね、らんくん」
「任しとけって〜✨️」
らんとこさめのペアは
……まぁ
問題ないだろう
らんはホラーが得意そうだし
こさめも怖がったとしても、二人ならなんとかなる気がする
問題は
「……」
俺はゆっくりと、 もう一組へ視線を向けた
すちと みこと
「…………」
「…………」
二人とも 黙っていた
(大丈夫なのか?)
『……怒ってないよ別に。たった3年間のちっぽけな思い出じゃん』
撮影現場で、 夏目さんと再会した時
みことが言っていた言葉。アレ 今でも、どつも気になっている。 二人は 過去に何かあった。 それだけは間違いないと思う。 だけど、 本人たちに聞けるような話でもない
俺が二人を見ていると
みことがふと、こちらに視線を向けた
「……?」
俺と目が合う
「なに?」
「いや」
「俺らのこと心配してる?」
「……まぁ」
正直に頷いた。 すると、 みことは少しだけ笑った
「大丈夫やって」
その笑顔は、 いつもの優しそうな笑顔だった。 だけど どこか、 少しだけ無理をしているようにも見えた。
「……」
俺は何も言えなかった
すると
「じゃあ皆さん!」
スタッフが大きな声を出した
「順番に入ってもらいます!」
「っ」
すちさんの肩が跳ねる
「一番目は……」
スタッフが手元の紙を見る
「らんさんと、あめてゃさんペア!」
「いぇーい!」
「はーい!」
らんとこさめが元気よく手を上げる
「二番目は、 夏目さんと、西園さん!」
「……」
「…………」
「すっちー」
らんが笑いながら手を振る
「頑張ってね〜!」
「らんらん、後で覚えてろ」
「こわ〜い♡」
「俺はすでに怖いんですよ」
そして 俺となつが 三番目
「……」
俺は隣を見る。 なつも、 少しだけ緊張しているようだった。
「…いるま」
「はい」
「怖くなっても、置いていかないでよね?」
「……」
( 今の言葉だけで、もう今日来てよかった)
「もちろん」
俺はできるだけ冷静に答えた
「絶対置いていかない」
なつは少しだけ安心したように笑った
「……なら、よろしく ⸝⸝」
「はい」
(…絶対守る)
お化けが出ようが、 何が起きようが、 俺はなつを置いていかない…多分
「最初は、夏目さんと西園さんペアですね」
スタッフが淡々と告げた
「……あぁ、はい」
すちさんは、にこっと微笑んだ。
笑っている… 笑ってはいるけど、 どう見ても無理をしていた。 口元だけが笑っていて、 目が全然笑っていない。
「じゃ、じゃあ…行ってくるね…」
よく考えてみれば、 この場でホラーを得意だと言っていたのは、らんだけだった
(らん以外、ホラー得意じゃないんだな……)
俺は二人の後ろ姿を眺める。 すちさんと みことは少しだけ固い表情で、 お化け屋敷の入口へ近づいていった
「じゃあ、入ってくださーい」
スタッフの声
ぎぃぃ… 重そうな扉が開く。 中は真っ暗だった
二人は入口の前で一瞬固まった
「早く入ってくださーい」
「はいっ」
結局、 スタッフに急かされて 二人は恐る恐る中へ入っていった。
ぎぃ…
扉が閉まった。
👑視点
「うわ、思ったより雰囲気あるね……」
お化け屋敷の中へ一歩足を踏み入れた瞬間、背筋がぞわっとした。
薄暗い廊下。 壁には古びた模様が描かれていて、ところどころに赤黒い汚れのようなものがついている。
どこから聞こえているのか分からない、不気味な音楽
ぎぃ… ぎし…
遠くで何かが軋むような音まで聞こえてきて、ただ歩いているだけなのに落ち着かなかった。
「うん……」
すちくんは短く返事をした。 いつもならもう少し何か言いそうなのに、今日は明らかに口数が少ない。 怖いからなのか、 それとも 俺と一緒だからなのか。
「…ぁ、あそこから手とか出てきそうやね!」
俺は少しでも空気を軽くしようとして、廊下の途中にある暗い隙間を指さした
「そうだね」
「……」
(どうしよう、会話弾まない)
隣を歩くすちくんを見る。 すちくんは元々、口数が多いタイプではない。 初対面の人には特にそうだ。 でも、 今の沈黙は なんだかそれだけじゃない気がした。
スタッフさんに渡された小型カメラが、俺の手の中にある。 今回の企画のために
自分たちの反応も撮影しながら進まなければいけないらしい
(企画のためにも喋らなあかんよな……)
俺はカメラを少し持ち上げる
「えーっと……」
何か言おうとして、 言葉が止まった。 何を話せばいいんだろう?
怖いね、 頑張ろうね
そんな普通の言葉すら、 今の俺には言いにくかった
(これもあれも、全部俺が余計な一言を言ったせい…)
『たった3年間のちっぽけな思い出じゃん』
あの日 すちくんと再会した時 俺は、 あんなことを言った。 本当は 怒ってなんていなかった。
…いや
怒っていないと言えば嘘になるのかもしれない
でも 俺が言いたかったことは、 あんな言葉じゃなかった。 忘れていると思っていた。 もう、 俺のことなんて覚えていないと思っていた
それなのに すちくんは覚えていたんだ、 俺のことを。 だから、 嬉しかったはずなのに 口から出たのは あんな言葉だった。
「…っ、」
「みことくん?」
「っ、あ」
突然名前を呼ばれて、 俺は顔を上げた。 すちくんがこちらを見ていた。 薄暗い照明の中 ピンクがかった赤い瞳が、まっすぐ俺を見る
「……大丈夫?」
「え?」
「さっきから、ぼーっとしてる」
「ぁ……」
俺は少しだけ笑った
「大丈夫やよ」
「……」
すちくんは何も言わなかった。 ただ 少しだけ
俺の顔を見つめていた。 その視線が なぜだか怖かった。 お化け屋敷よりも、 昔のことを思い出してしまうことの方が、 今の俺には ずっと怖かった。
「オリジナル曲、すごい再生されてたね。えっと…1億再生だっけ?」
すちくんが、前を歩きながらぽつりと言った
「あともう少しで2億かな…」
「すごいね」
「まぁ…ありがたいことに」
俺が活動3周年記念に投稿したオリジナル曲
たくさんの人の心に刺さったらしく、その曲は俺が初めて大きくバズった作品になった
それまでずっと歌手として活動してきたけど、その曲をきっかけに一気に知ってくれる人が増えた。 テレビに呼ばれることも増えたし SNSでも名前を見かけるようになった。
そして、その影響なのか、 過去に出したオリジナル曲まで、少しずつ再生数が伸びていった。
「……あの曲」
「ん?」
「よく聞いてるよ」
「え、あっ、そうなん?」
思わず足が止まりそうになる
すちくんが、 俺の曲を?
「作業曲に使ってる」
「……」
「うん」
すちくんは少しだけ笑った
「なんだか懐かしくてさ…」
「…懐かしい?」
その言葉が 妙に引っかかった。
俺はすちくんを見る
「……」
すちくんは前を向いたまま歩いていた。 薄暗い廊下、 不気味な音楽。 それなのに 今だけは お化け屋敷にいることすら忘れてしまいそうだった
「俺の曲のどこが懐かしいん?」
「学校の青春の曲……だよね」
「……うん」
「あれ聞いてると、なんだか…二人で軽音部してた時のこと、思い出して」
「!、……」
俺は思わず足を止めた。 すちくんも、それに気づいたように少しだけこちらを振り返る
そうだ… 俺らは 幼稚園の頃から高校まで
ずっと一緒だった。 小さい頃は、何をするにも一緒で、 同じ小学校に入って、 同じ中学校に進んで、 そして高校でも 気づけば同じ軽音部にいた。
「……覚えてるんや」
「覚えてるよ」
すちくんは当たり前のように答えた
「忘れるわけないじゃん」
「……」
数年前のことだった
「すちくん!軽音部入ろうよ!」
「ぇ……軽音部?」
入学式が終わってから、数日が経ったある日。俺は教室で、すちくんにそう声をかけた。まだ高校生活が始まったばかりで、何もかもが新しく感じる時期だった。新品の机、新しい教室、新しい先生。俺ら二人が着ている制服もまだどこか馴染んでいなくて、少しだけダボッとしている。それが逆に、いかにも一年生って感じがしていた
「うん!中学は吹奏楽部だったし!次は軽音部入ろ!✨️」
俺がそう言うと、すちくんは少し驚いたように目を丸くした
「……みことくん、軽音部やりたいの?」
「やりたい!」
「急だね」
「高校生って感じするやん!」
「それが理由?」
「それも理由!」
俺がにこにこしながら言うと、すちくんは少し困ったように笑った
「……っ、うん、わかった」
「ほんと!?」
「うん」
「やった!」
思わず机を叩きそうになるくらい嬉しくなる。幼稚園の頃からずっと一緒だったすちくんと、高校でも同じ部活に入れる。それだけで、なんだか高校生活がもっと楽しくなるような気がした。
その時だった
くしゃっ
すちくんの後ろから、何か紙を丸めるような音が聞こえた
「?」
俺は首を傾げる
「……どしたの?」
すちくんは一瞬だけ後ろを振り返った
その視線の先には、同じクラスの誰かが座っていた。 けれど、すぐに何事もなかったように俺の方へ向き直る
「ううん、なんでもない」
「?」
少しだけ気になったけど、俺は深く考えなかった
「じゃあ決まりね!今日、見学行こ!」
「今日?」
「善は急げ!」
「その言葉の使い方、合ってる?」
「合ってる合ってる!」
「絶対適当でしょ」
すちくんは呆れたように笑った
軽音部に入ってから数ヶ月、先輩たちともすっかり仲良くなって、部活動はとても楽しかった。放課後になると音楽室に集まって、みんなで演奏したり、先輩たちに教えてもらったりしていた。最初は上手くできなかったことも少しずつできるようになって、俺は毎日のように「軽音部入ってよかったなぁ」と思っていた
でも、そんなある日
「すちくん、美術部入りたかったって……ほんと?」
放課後の教室で、俺はすちくんの方を見た。 少し前に、先輩との会話で偶然聞いてしまったのだ すちくんが本当は美術部に興味を持っていたこと。 それどころか、中学の頃からずっと絵を描くのが好きだったこと
「……うん」
すちくんは小さく頷いた
「っ、なら最初から言ってよ!」
思わず声が大きくなった
すちくんの肩が少しだけ跳ねる
「断ればよかったじゃん!すちくん、絵上手いんだし、美術部入ってたら今頃なにかしらの賞取れてたやん!」
俺はすちくんの描いた絵を知っていた。 昔から、すちくんは絵が上手かった。 ノートの端に描いた落書きですら、俺なんかとは比べ物にならないくらい綺麗で、色をつければ本当に絵本に出てきそうな世界が広がっていた。
だからこそ、 俺は余計に悔しかった。
俺が軽音部に誘ったから
すちくんが本当にやりたかったことを諦めたんじゃないかと思った
「なんで言ってくれなかったん?」
「……」
「すちくん?」
すると、すちくんは俯いた
制服の袖をぎゅっと握りしめて、小さな声で呟く
「それだったら…距離、空いちゃうじゃん」
「……え?」
「俺の友達、みこちゃんだけだし……」
その言葉を聞いた瞬間、 俺は何も言えなくなった
「……」
すちくんは昔から、人と話すのが得意な方ではなかった。
俺が誰かと仲良くなっている時も、少し離れたところから見ていることが多かった
俺が声をかければ笑う
でも
自分から誰かの輪の中に入っていくことは、ほとんどなかった
「…だから」
すちくんは続ける
「みこちゃんと同じ部活なら…ずっと一緒にいられるかなって」
「すちくん……」
「それに、軽音部も嫌だったわけじゃないよ」
すちくんは慌てたように顔を上げた
「みこちゃんと一緒に演奏するの、楽しいし…先輩たちも優しいし」
「……」
「ただ…最初は、美術部も気になってただけ」
そう言って すちくんは少しだけ笑った。 でも俺は、 なんだか胸の奥が苦しくなった
俺はずっと、 一緒に軽音部に入れて嬉しいと思っていた。 すちくんも同じ気持ちだと思っていた。 でも、 本当は違った。
すちくんは、 俺と離れたくなかったから
俺のために 自分のやりたいことを後回しにしていた。
「俺は、部活が違ってもすちくんと毎日帰るよ」
「…」
「部活終わるまで待ってあげれるよ。授業のペアも組むよ?」
すちくんは黙ったまま、俺の言葉を聞いていた
「それに俺は、すちくんには俺以外の友達も作って欲しいって思ってるよ…」
その瞬間、 すちくんの表情が少しだけ変わった
「作らないよ…」
「え?」
「ほかの友達なんていらない。 みこちゃんだけでいい…」
すちくんはまっすぐ俺を見た
その目が 今まで見たことがないくらい真剣で、怖かった。
「 なん、で?」
思わず聞き返してしまった。 すちくんは答えない。 ただ 俺を見つめていた
「…………」
「本気?」
「うん」
迷うことなく すちくんは頷いた
「これは俺の、汚い独占欲だから」
「……っ」
胸の奥が、 ぎゅっと 変な感覚に包まれた
(なにこの、モヤモヤ感……)
初めてだった。 こんな感覚
胸の奥が気持ち悪いような… でも、 はっきり嫌だとも言い切れないような。
ただどうしても、このモヤモヤに名前を定義付けたくない。
知りたくない。 こんなモヤモヤに 名前なんてつけたくない。
俺は 前にも似たような感覚を感じたことがある
人の悪口ばっかり言う女の子に 突然告白された時、 その子の気持ちを知った瞬間、 胸の奥に 嫌なものが残った、 あの時と 同じだった。 俺は今、 すちくんの 寂しいという独占欲を、 気持ち悪いと思ってしまっている
「……」
俺は、すちくんの友達失格だ。友達が寂しいと思っているのなら、その気持ちを受け入れてあげるべきなのに、俺はそれができない。すちくんが俺だけを必要としてくれているのに、それを嬉しいと思えなかった
そんなの、
「友達…じゃない…」
思わず、心の中だけで言うつもりだった言葉が口から溢れてしまった。
「っ、…!」
俺は慌てて自分の口を塞ぐ
でも もう遅かった
恐る恐る顔を上げると、俺の目に映ったすちくんは、絶望に近しい顔をしていた
さっきまで俺を見つめていた瞳が揺れている
「ぁ、ちが…」
違う。 そんな意味で言ったんじゃない。 そう言いたかったのに、言葉がうまく出てこなかった
「っ、…」
すちくんの目に涙が溜まっていく
そして、とうとう耐えきれなくなったように、一粒の涙が頬を伝って落ちた
「……」
俺は何もできなかった。 謝らなきゃいけないのに、 何か言わなきゃいけないのに すちくんのあんな顔を見た瞬間、頭の中が真っ白になってしまった。 その場には、なんとも言えない重い空気が流れていた
ちくんは泣いている
俺は動けない
何を言っても
もう遅いような気がして
胸が苦しくなった
「……っ」
耐えられなかった
俺は
その場から逃げた
「みこちゃん……!」
後ろから声が聞こえた気がした。
でも、 振り返れなかった。 教室を飛び出して 廊下を走る。 ただ、 すちくんの顔から 逃げたかった。
それから俺らは、離れ離れになった。あの日から、すちくんとまともに話すことはなくなった。幼稚園の頃からずっと一緒だったのに、学校ではすれ違っても目を合わせなくなった。あんなに当たり前だった「一緒に帰ろう」という言葉も、もう誰も口にしなかった
すちくんは、軽音部を辞めた
突然、ボーカルがいなくなって、先輩たちは焦っていた。バンドとして練習していた曲も完成しなくなり、次の文化祭に向けた予定も狂ってしまった。
俺は、そんな先輩たちの顔を見るたびに苦しくなった
(俺が追い出したんだ)
すちくんは、自分から軽音部を辞めた。
でも、 原因を作ったのは俺だった。
俺があんなことを言ったから 俺がすちくんの気持ちを受け止められなかったから、
俺はすちくんを追い出してしまったんだ
その劣等感にずっと悩まされて、俺も結局、軽音部を退部してしまった
一気にボーカルとドラムがいなくなった軽音部は、上手く回らなくなった。先輩たちは何度も新しい部員を探していたけど、以前みたいには戻らなかった。
そして いつの間にか 軽音部はなくなっていた
俺のせいだ 俺の気持ち悪いという感情のせいで
先輩たちにまで迷惑をかけてしまった
「……」
謝らなきゃいけなかった。 すちくんにも 先輩たちにも… だけど できなかった。 すちくんの顔を見るのが怖かった。 あの日、 俺が口にしてしまった言葉を もう一度思い出させるのが怖かった。 だから 何もしなかった。
その愚かな判断のせいで、余計状況を悪化させ、すちくんは不登校になった
俺の家の隣には、すちくんの家がある。 小さい頃からずっと見慣れていた家。 窓を開ければ見えるくらい近くにいるのに。 もう 会えなかった
すちくんの部屋の窓は、二十四時間ずっとカーテンが閉じていた
朝になっても、 夜になっても、 学校へ行く時間になっても、 何日経っても、 一度も開くことはなかった。 俺は自分の部屋の窓から、そのカーテンを何度も見ていた。 すぐ隣にいるはずなのに、 手を伸ばしても届かない場所にいるような気がした。
「……ごめん」
誰にも聞こえない声で 何度そう呟いても、 閉じられたカーテンは 動くことがなかった 。
「……すちくん」
「ん?」
薄暗いお化け屋敷の中で、すちくんがこちらを見た。さっきまで昔の話をしていたからなのか、俺の胸の奥ではずっと、あの日の記憶がぐるぐると回っていた
「ごめんね」
「……」
「友達じゃないって言っちゃって……本当は、そんなこと思ってなかった」
すちくんの表情が少しだけ変わる。 俺は、もう逃げたくなかった。 あの日みたいに、 言葉を途中で止めて その場から走って逃げるのは、 もう嫌だった。
「ただ…すちくんの言っていたことにモヤモヤして、勝手に気持ち悪いって解釈しちゃって…」
自分でも 何を言っているんだろうと思った。
もっと上手く説明できればいいのに、 昔から 大事なことほど 言葉にするのが難しい。
「そう思っちゃう自分が友達失格で、そんなの友達じゃないって思って…」
「……」
「でも」
俺は、ぎゅっと手を握った
「…あのモヤモヤはきっと」
喉が震える
「どこかで、そう思って貰えて嬉しいって思う…背徳感だったんだと思う」
言い終わった瞬間、 張り詰めていた何かが 切れた。
「……っ」
気づいたら、 俺は泣いていた。 ぽろぽろと涙が溢れてくる。 なんで泣いているのか、 自分でも分からなかった。 ずっと言えなかったからなのか、 ずっと謝りたかったからなのか…
それとも すちくんが今、 目の前にいるからなのか
「みこちゃん…」
優しい声が聞こえた
俺は慌てて顔を逸らす
「ご、ごめん…ぐすっ、泣くつもりじゃ…」
「……」
「ほんとに、あの時は…ごめん」
何度目かも分からない謝罪だった。 でも 今度は逃げなかった。 すちくんの前で、 ちゃんと口にしたり
「俺、ずっと…謝りたかった」
涙で視界がぼやける
「でも、すちくんの顔を見るのが怖くて…また傷つけるんじゃないかって思って…」
「……」
「だから、何もできなくて…」
俺は唇を噛んだ
「ずっと、カーテン閉まってるの見てた」
その言葉に、 すちくんが息を止めたのが分かった
「隣に住んでるのに…すぐ会いに行ける距離なのに……俺、何もしなかった」
「みこちゃん」
「ごめん……」
「みこちゃん」
「ごめん、ごめんね……」
「みこと」
その呼び方に、 俺は顔を上げた。 すちくんが 目の前にいた。 昔と同じような顔で、 だけど 昔とは少し違う表情で
俺を見ていた
「…もういいよ」
「……っ」
「俺も」
すちくんは少しだけ笑った
「ずっと、みこちゃんに謝りたかった」
その言葉を聞いた瞬間、 俺の涙は さらに止まらなくなった。
いるま視点
「………」
本当にまずいと思っている。 俺は今、憧れで、推しで、初恋のなつに…キスをしてしまっている。 そう、所謂 事故ちゅーというやつ
先程、お化け屋敷の演出で突然鳴った大きな音にびっくりしたなつが、反射的に俺へ抱きついてきた。
「ひっ!?」
ぎゅっ
「うわっ!?」
俺も体勢を支えることができず、そのまま後ろへ倒れ込んでしまった。 そして 気づいた時には、 なつを押し倒すような体勢になっていた。
「……っ」
俺は完全に固まっている
なつは目をぎゅっと閉じていて、まだ何が起きているのか理解していないらしい
ただ 時間の問題だった。 あと数秒もすれば きっと目を開ける。 そうしたら 終わる。 俺の人生が
(どうする)
頭の中がものすごい勢いで回転する
ここで慌てて顔を離せば、今まで唇が触れていたことが完全にバレてしまう
(それだけは避けたい…)
かといって このままでいるわけにもいかない
「……」
なつのまつ毛が ぴくりと動いた
「っ、!」
(まずい)
俺は一気に心臓が跳ね上がる。 なつが ゆっくりと目を開けようとしていた
「っ、!」
俺は咄嗟に、なつの目を手で覆った
「んぅ!?」
(ぁ、やばい…見せたくないがあまりに目を覆ってしまった)
完全に判断を間違えた気がする。 目を見せなければ、まだ状況に気づかないかもしれない
そう思ったのに 急に視界を塞がれたなつは当然びっくりしたらしい
「んっ、んぅ?⸝⸝」
(いや待て これ、余計怪しくないか?)
なつが驚いて声を上げた
けれど
口が塞がっているせいで、声にならない
(…っ、無理やりキスしてるみたいな声になってる。 可愛い! じゃなくて、 バレた? いや、これ絶対バレたよな?多分)
「っ、??、?」
なつは状況が分からないのか、俺の手の下で小さく首を傾げている
(……あ、 気づいてなさそう)
「……」
(よし、 ゆっくり唇を離して…)
俺は慎重に、ほんの少しだけ顔を上げた。 あと少しほんの あと少しでら この事故をなかったことにできる、 そう思った その時
俺の視線の先に なにかがあった
「……」
暗闇の中、 じっと こちらを見ている 怖い置物
「うわぁぁ”ぁ”!?!?」
思わず叫んだ。 そして びっくりした勢いで なつから思いっきり顔を離してしまった
(ぁ、やばっ! 思いっきり口を離したから!)
恐る恐る なつの方を見る
「……」
「あぇ、…⸝⸝」
なつは 完全に固まっていた
顔が 真っ赤だった。 耳まで 真っ赤だった
「… ⸝⸝」
や、やばすぎ…
演劇部でも事故チューシーンあったからやってやった✌️
サムネ
コメント
6件
ノベル普段見ないんですけどこれだけ無限に見れます!
🍵👑の過去やばいです!! なんか独占欲っていうのかな?言語化できないんですけど、めっちゃ好きです‼️
翠黈がぁぁぁ…… 翠さんの独占欲が強い感じが好きすぎて… 黈さんが泣きながら謝ってるところ好きです😭😭 あと茈赫ですよ、どうしてくれるんですか。キスしちゃったじゃないですか()赫さん自身も茈さんにだいぶ懐いてる?感じがして可愛いぃぃ…😭💕 茈さんの心の声が好きすぎるのでもっと喋ってください((