テラーノベル
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ーー城を離れて、小さな隠れ家
融解未遂から数時間後、きりやんは王都郊外の山荘にいた
木々に囲まれた静かな場所
ここはきんときが昔使っていた、彼だけの秘密の隠れ家だと言う
「まさか、お前に連れ出されるとはな…」
「え~?自分で”連れ出して”って言ってたじゃん♡」
「……忘れろ。あれは、錯乱してただけだ」
「じゃあ……キスも錯乱だったってこと?」
「ッ……そ、それは…//」
きんときの目がいたずらっぽく光る
「てか、今も真っ赤笑ほんと可愛いな~きりやん♡」
「おまえ……っ!」
(こいつ、一生この調子かよ…!?)
でも、不思議とその調子が今は心地よかった。仮面を被らず、誰かと話す。それだけでこんなにも気が楽になるなんて
ーー夜、焚き火の灯りの中
火を囲んで、2人で夕食を済ませたあと。静かに夜の風が吹き抜けていた
「ねぇきりやん」
「……ん」
「王子ってさ、本当にきりやんがやりたかったことだったの?」
「……」
しばらくの沈黙の後、きりやんはぽつりと答えた
「…わかんない気づいたときにはもうこうだったから」
「本当の自分が分からないの?」
「んなこと…お前に言っても…」
「ちゃんと言ってくれたら、真剣に聞くよ。誰よりも」
真っ直ぐに向けられる瞳
それはまるで仮面越しの全てを貫いて来る光だった
「俺はさ、本当のお前の”きりやん”の部分が一番好きなんだわ」
「っ…またそれ…」
「だって事実だし。きりやんの困った顔、照れた顔、怒った顔全部かわいい」
「…っ!だからやめろって!//」
「でも、本当にそう思ってる。きりやんの全部を見たい。誰にも見せない顔まで」
心臓が跳ねる。一つ一つの言葉に、仮面が剥がれ落ちるようで
隠していたものが、きんときの前では丸見えだった
ーー小さな寝室
狭い山荘にベッドはひとつだけ
「俺床でいいよ」
「…」
「なんだよベッド使えよ。そっちが柔らかいだろ?」
「いや…お前がそう言うと思ってた。だから言うけど床は冷える」
「ほ~ん?つまり?」
「……一緒に寝てもいい…でもお前が変なことしないならだけど」
「約束はできないなぁ」
「しろ!」
「ムリ♡」
「殺すぞ」
結局寝台に並んで横になる
「でも…さ」
暗闇の中、距離はたったの数センチ
「……一緒の布団に、きりやんが俺に背中向けてるだけで……」
「やばい」
「……っ……さっさと寝ろ!!」
きりやんが布団を被るもきんときの腕が背中越しにそっと伸びて手を当ててきた
「今夜はなにもしないから」
「…これからもすんな」
「ふ…、でも…きりやんが横にいてくれるだけですげー嬉しい」
胸がじんわり熱くなる
(俺は…王子じゃなく…”きりやん”として今、だれかのとなりにいる)
その事実が少し怖くて、でも嬉しかった
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