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「いいじゃん、いいじゃん。楽しんできなよ」

優菜はまた話を聞かせてと励ましてくれた。


「もちろん」


優菜と別れ、バイト先に向かう。


「お疲れ様です」

声をかけながら、従業員の専用口からカフェの中に入る。


「東条ちゃん。今日、あのお客さん来てるから、近くに行かなくていいからね」

店長が話かけてくれた。


今日来てるんだ。

嫌な予感がしたが、店長を始めスタッフの仲間が気を遣ってくれ、川口さんと接触することはなかった。

しかし今日に限って川口さんは、帰らなかった。


混雑時は時間制限を設けるチェーン店とは違い、うちは時間制限のないお店だ。

長時間に渡り過ごしていくお客様も多い。


結局、閉店時間にならないと川口さんは帰らなかった。


バイトが終わり、帰る際に

「東条ちゃん、気をつけて帰ってね。まだあの人近くにいるかもしれないし」

店長から念を押された。


「はい」

返事をして、従業員専用口から帰る。

もしもの時のことを考え、スマホをポケットに入れて、すぐ出せるようにしていた。


駅へ向かって歩く。

その時、前方から川口さんが現れた。

ここは店通りの裏道、人通りは少ない。


どうしてここにいるの?私のこと、待ってたの……?


私がなんて声をかけようか困っていると

「東条ちゃん。なんで、僕に連絡をくれないの?」

川口さんは怒っている様子だった。


恐い。

どうしよう、店長に連絡をして助けに来てもらおう。

そう思い、ポケットにあるスマホを取り出そうとした。


「おい、人が話しているのにやめろよ!」

急に怒鳴られた。


川口さんの様子がおかしい。

もう一度携帯を見てしまったらさらに逆上をし、何かされかねない。


でも、助けを呼ばなきゃ。


私はとっさにスマホをポケットにしまうフリをし、感覚で覚えているLINNアプリの場所を押し、トーク履歴が一番上にあるはずであろう、優菜の画面の通話ボタンを押した。

しかし実際に画面を見ながら操作しているわけではないため、繋がったかどうかわからない。


優菜じゃなくてもいいから、誰かにこの状況を伝えたい。

繋がっていることを祈りながら、こちらの音声がわかるよう音量は最大にした。


「すみません。お客様と個人的なやり取りはお店で禁止をされているため、できません」

そう伝え、川口さんのいない方向へ走ろうとした。


「おい、待て!」

川口さんは私を追いかけきた。


私はもともと運動が苦手だ。

特に走ることが遅い。


相手は五十代くらいの男性だが、すぐに追いつかれ、リュックを掴まれた。

反動で私は転倒をしてしまった。


「キャッ!」


季節は夏だったため、服装も軽装。

転倒し、アスファルトへ接触したところからは血が出ているような痛みがした。


立ち上がろうとすると、川口さんが目の前にいた。


再度、逃げようとすると

「逃げたら、殺す」

そう言って彼は果物ナイフと思われるようなものを私の顔の前にチラつかせた。


私、ここで殺されちゃうの?

恐怖で身体が動かない。


「僕は東条ちゃんと話がしたいんだ。傷をつけるつもりはないよ。さあ、立って。公園へ行って二人でゆっくり話をしよう」


ニコニコと笑って話す、川口さん。

恐怖からか吐きそうになる。


「どこの公園に行くんですか?」


恐る恐る聞いてみる。


「木洩れ日公園だよ、僕たちの思い出の場所だろ?」


話が全く理解できない。

私は川口さんとその公園には行ったことがない

公園までは歩いて五分くらいかかる距離だ。


その間に逃げ出せる隙を見つけなくちゃ。


「途中で逃げだそうとしたら、刺しちゃうからね」


立ち上がった私のリュックを思いっきり掴み、人に見えない位置でナイフを突きつけられる。


私は不本意だが川口さんと一緒に歩き出した。


こんな時に限って、人通りが少ない。

ナイフが背中にあるため、身体も硬直してしまう。


川口さんの言っていた目的地に着いた。

昼間は人で賑わっているはずの公園も、夜は静かだ。

ほとんど誰もいない。

時折、電気をつけながらランニングをしている人がいるくらい。


公園の端、さらに外灯がなく、人が来ないようなところへ連れて行かれる。

ベンチに座らされた。


「東条ちゃんは、僕のことをどう思っている?」


どうもこうも、お客さんとしか思っていない。

それをどう伝えようか悩む。


「大切なお客様だと思っています」

逆上しないようにあえて大切をつけてみたけど……。


「もう、恥ずかしがらずに言っていいんだよ。僕のことが好きだって」


どんな勘違いをしているの?


「なぜ、そう思うんですか?」


「だって僕がコーヒーをこぼした時、あんなに親身になってくれたでしょ?ズボンだって嫌がらず拭いてくれたし、火傷はしてないかって腕も見てくれたし」


それは従業員として当たり前のことをしたまでだ。

怒らせちゃいけないと思い、言い返すことができないけれど。


「あと、東条ちゃん、僕だけに距離が近いよね。触って欲しいのかと思って、たまに触ってたんだよ。他の人に見られたらって考えるとゾクゾクしてすごく興奮したよ」


気持ち悪い。やっぱり故意に触れられてたんだ。


先ほどから吐き気がするが、さらに気持ちが悪くなる。


「僕さ、一回離婚をしているんだ。子どももいた。会ってないからわからないけど、大きくなっていたら東条ちゃんくらいの女の子なんだ」


「そうなんですね」

思わず感情がこもっていないような声で、冷たくあしらってしまった。


彼は気にしない様子で

「だから、余計に興奮したよ。東条ちゃんと付き合うってことは、あんなことやこんなことができるわけでしょ?娘とそんなことするなんて考えたら、毎日が楽しかった」


この人は、おかしい。

常軌を逸している。


「もう、我慢できないよ」

そう言うと、ベンチに座っている距離がさらに近くなった。

「嫌!」

私は抵抗をしてしまった。

殴られるかも、刺されるかも。怖い。


「そうだよね、嫌だよね。こんなところじゃ」


わかってくれたの?

少し胸をなでおろす。


しかしーー。

「こんなベンチの上は嫌だよね。誰かに見られたら恥ずかしいし。でもね、僕はもう我慢できないんだ」


リュックを掴まれ、真っ暗な茂みへと誘導され、思いっきり突き飛ばされた。


「キャァ!」

雑草の上に転倒をした。


うつ伏せの状態から立ち上がろうとしたけれど、川口さんから後ろから押さえつけられる。

彼は私の上に覆いかぶさってきた。


「嫌、離してください!」


「おい、声を出したら殺すぞ」

顔の横にナイフが突きつけられる。


うつ伏せ状態から、身動きが取れない。


川口さんは、私の首筋へ唇をつけ、舐めてきた。

嫌だ、気持ちが悪い。声を出したいが、恐怖からか声がでない。


首筋を吸われる。

嫌、嫌、嫌……!!


今度は、強引に仰向けにされた。

「いい子にしていたら、痛いことしないからね」


そういうと彼は、私の服のボタンを強引にひっぱり、服を破いた。

素手で破ききれないところは、ナイフを使っている。


私の下着が露になった。

「東条ちゃん、可愛いね」

彼は笑っている。


下着の上から胸を手で触られる。


お願い、誰か助けて……!?


涙が出てくる。


やだぁぁ……!

強引にキスをされそうになった。


その時ーー。


「やめろ!」


聞き覚えのある声がした。

その刹那、彼の手に持っていたナイフが弾き飛ばされる。


驚いた様子の川口さんは、私の上からやっとどいてくれた。


私は、恐怖からか動くことができない。


「警察を呼びました。もう抵抗はしない方がいい」


低くて、聞きやすい声。

髪の毛が少し長くて、顔は暗闇ではっきり見えなけどーー。

黒崎さんだ!


「チッ!」

川口さんは逃げようとした。


「今逃げても証拠は全て撮ってあるので。覚悟していてください」


黒崎さんの言葉が聞こえたのかわからないが、彼は走ってその場から逃げ去ってしまった。

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