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「大丈夫ですか!?」
なんとか起き上がったものの、放心状態の私に黒崎さんは声をかけてくれた。
スカートは捲れており、上衣は破かれて下着が見えている状態だ。
こんな姿、好きな人に見せたくなかった。
黒崎さんは自分のスーツを私に羽織られてくれた。
私の下着を隠してくれるほどの大きさだった。
黒崎さんは、私の目を見て
「ケガをしているところはありますか?痛いところはありますか?」
慌てているが、優しく聞いてくれた。
「転んだところが痛いです」
私は、子どもに戻ったかのように大泣きをしてしまった。
「俺のことは恐いですか?」
私は首を横に振った。
「良かった。もう大丈夫ですから」
そういって抱きしめてくれたが
「黒崎さん、ワイシャツが汚れちゃう」
今の私はいろんな意味で最高に汚い。
黒崎さんは驚いた顔をして
「そんなの気にしなくていいんですよ」
優しく抱きしめてくれた。
泣き止みたくても泣き止めない。
私が落ち着くまで、ずっと抱きしめていてくれた。
「ありがとう……ございます」
あれっ?声が出せない。
泣きすぎもあるかもしれないが、精神的ショックからか、声が出にくい。
「少し落ち着きましたか?」
私は黒崎さんの問いかけにコクンと頷いた。
「ケガをしていないか心配です。病院へ行きましょうか?」
首を横に振る。
「警察に相談をしましょうか?」
警察に相談、そんなことをしたら、義母に心配をかけちゃう。
首をもう一度横に振った。
黒崎さんは困った顔をしていた。
「ご両親に連絡をしましょう。こんな時間だから心配をしていますよね」
声がうまく出せないため、私はスマホを取り出し、文字を打った。
<歩けるので、大きなケガはしていません。頭も打っていません。警察は今は行きたくありません。私は、本当の両親がいないんです。今も一人暮らしです。田舎に住んでる義理のお母さんに心配をかけたくありません。警察は必ず行きます。でも、今は行きたくない。思い出したくありません>
黒崎さんは私のメッセージを読んでくれた。
自分が我儘を言っているのはわかっている。
<夜遅くにすみません。一人で帰れるので、大丈夫です。助けてくれてありがとうございます>
「そのカッコ、その状態で帰れるわけないですよね。友達に連絡をとれますか?心配です。泊めてもらったりはできないでしょうか?」
一番最初に優菜の顔が浮かんだが、優菜は実家暮らしだ。優菜のご両親に迷惑がかかってしまう。
<友達は実家に住んでいます。大丈夫です。一人で帰れます>
そうメッセージを送って、歩き出そうとした。
しかし、膝の痛みからフラついてしまい、黒崎さんに支えられた。
正常な判断ができないほど、精神的なダメージを受けているのが自分でもわかる。
そんな私を見ていて、黒崎さんは
「愛ちゃん、俺のこと恐いですか?」
先ほど聞いてきたことをもう一度聞いてくれた。
黒崎さんを怖いとは思わない、首を横に振った。
「愛ちゃんとは出会ったばかりで、俺のことも信用ができないと思います。でもあなたのことが心配なんです」
目を見て真っすぐ伝えられる。
「俺の家に来ますか?俺も一人暮らしだから、誰も家にいないので気を遣わなくていいのですが」
そんな迷惑はかけられない。
首を横に振る。
「あなたをそんな状態で帰したくはありません」
指先が恐怖からか震えていた。
本当は、好きな人から誘われて嬉しいと感じたかもしれない。
今はそんな気持ちにはならなかった。
「俺と一緒にいるの嫌ですか?」
彼も困っている。ここもいつ誰が通るかわからない。
こんなカッコを見られたら、誤解をされ黒崎さんが通報をされてしまうかもしれない。
首を横に振った。
「良かった。歩けますか?」
震えている私の手を優しく取り、私を支えてくれた。
彼は目立たない場所にタクシーを呼んでくれた。二人で乗り、彼の家に向かう。
本当に行っていいのだろうか、そう思って彼を見ると
「大丈夫ですよ」
そう言って彼は、私の手を握ってくれた。
彼氏でも友達でもない男性の家に一人で行くなんて、どうかしている。
だけど、この時、私は黒崎さんを頼りたいと思ってしまったんだ。