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「おい!佐伯!起きろ!」
「んあ?」
揺り動かされて、俺は目を開ける。見上げると、同僚の宮脇が眉を下げていた。
背中を数度軽く叩かれる。
「疲れてるのは分かるんだけどさ、もう一踏ん張りだから頑張ってくれ!進捗は?」
「え、ええと……俺、何してたっけ」
「おいおい、まだ寝ぼけてんのか?新作のやつ」
宮脇は盛大なため息をついて、俺の背中をまた叩いた。
──あれ?俺は……何してたっけ……?
周囲を見回す。そこは見慣れたオフィスだ。
山積みの書類に、疲れた目をした人々。
「新作のデバッグだよ!」
叫びながら飛び起きる……はずだった。
けれど、そこはオフィスでも俺の部屋でもなく、知らないベッドの上だった。
──は?どこ!?
目を擦りながら辺りを見回す。
豪華なカーテン、アンティーク調の家具、ふわふわの猫。
「……宮脇は?え?猫?」
『にゃあ』
……いやいやいや、鳴かれても……違う、知っている。
「そうだ、俺……カイルに……」
猫の──リリウムの声でようやく記憶が繋がる。
良かった……いや、良かったのかこれ……?
一つ息を吐くと、外は夕焼けの光が差し込んでいた。
ひとまずデバッグ地獄じゃなかったことに安堵する。
そこにノックの音が響いた。
「……入るぞ」
──推しだ。いや、レイだ。その声に体が跳ねる。(数時間ぶり2度目)
「え、どうぞ!」
慌てて起き上がると、レイが部屋に入ってきた。今度は書類がその手にはないので、執務が終わったのかもしれない。
「調子はどうだ?」
「えっと……だいぶ良くなりました!ハーブティーも美味しかったし、少し休めたので……」
「嘘をつくな……無理をしている顔だ」
「えっ、そんなこと――」
否定しようとするが、その鋭い視線に気圧されて言葉が出ない。
数時間前にこちらに転生──憑依……?──してしまった俺としては嘘ではないのだが、事故で寝込んでいたらしいしなぁ。
さっきまでの夢見も悪かったし。
「い、いや、あの……れ、レイはどうしてまたここに……」
「お前の顔が見たくなった……」
そう言いながら、レイは俺の隣に腰を下ろす。その動きが自然すぎて、拒否する隙を与えない。
顔が!見たくなった!……サラっとイケメンムーブ……。
俺には絶対にできない技だ。
「お前は、俺にもっと頼っていいんだぞ……そうでないと、俺の誓いの意味がない」
まただ――「誓い」という言葉。ゲームの中では、ない設定。
それが所謂結婚の誓いのようなものなのかどうか……どうも言葉からすると、もっと重々しいものに感じるのだ。
それにしても、この『カイル』は本当に何者なのか……。
「その……どうしてそこまで……?」
思わず聞き返すと、レイは一瞬だけ考えるような仕草を見せ、口元に淡い笑みを浮かべた。
「簡単なことだ。お前は、俺の最も大切な存在だからだ」
耳元で囁かれるその言葉に、心臓がドクンと跳ねる。そして気づけば、レイの手が俺の顎に触れていた。