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もっと可愛く甘えて、本音を聞き出せればいいのに。
なのに、一度溢れ出した感情は、可愛げのない言葉になって勝手に口から飛び出していく。
「……そうやって余裕ぶって、結局はただ、意地を張って言えないだけでしょ」
「……」
「図体だけは無駄にデカいくせに、中身はただの意気地なしじゃん」
言った瞬間。
あ、しまった、と全身の血が引いていくのが分かった。
竜牙さんの顔が、見たこともないほど強張って固まる。
優しかったはずの店の空気が、一瞬で凍りついた。
「……っ」
竜牙さんが小さく、短く息を飲む。
その表情を見た瞬間、俺の心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
やばい。
ここで「ごめん」と言えればいいのに、引くに引けないプライドが、俺をさらに追い詰める。
「……っ、もういい。俺、帰る」
逃げるように立ち上がろうとした、その瞬間。
「慧斗…!」
呼ばれた声に、足が止まる。
低い声。
だけど、いつも俺を包んでくれる温かい響きは消えていて、掠れた、弱々しい響きが混じっていた。
俺は、振り返ることができなかった。
「…待って」
絞り出すような声だった。
それが、どんな謝罪の言葉よりもきつく俺の耳に刺さる。
「……もう、いいってば」
それだけ吐き捨てて、俺は一度も振り返ることなく、逃げるように店を飛び出した。
◆◇◆◇
外は、いつの間にか少しだけ冷え込んでいた。
夜風が火照った顔と頭を冷やしてくれる。
……はずなのに、胸の奥のモヤモヤは消えるどころか、真っ黒な後悔になって広がっていく。
「最低だ……」
夜道を歩きながら、自分にしか聞こえない声で何度も毒づく。
なんであんなこと言った?
“図体だけはデカいくせに”
あの言葉だけは、絶対に言っちゃダメなやつだった。
竜牙さんは、明らかに傷ついていた。
あんな、子供が突き飛ばされたような、何も言い返せないほど打ちのめされた顔、初めて見た。
俺は震える手でスマホを取り出し、LINEを開く。
『さっきは、本当にごめ──』
そこまで打ち込んで、また全部消した。
……なんて送ればいいのか分からない。
俺だって傷ついてた。
寂しかった。
不安だった。
でも。
だからといって、愛している人をあんな風に言葉で刺していい理由にはならない。
(…こんなことも我慢できずに、余裕も持てないから…振られるのかな、おれ…竜牙さんにも、愛想つかされちゃうの、かな…っ)
帰宅して、明かりもつけずにベッドへ倒れ込む。
目を閉じても、ちっとも眠れる気配がない。
まぶたの裏に、竜牙さんの顔ばっかりが浮かんでくる。
困ったみたいに笑う、優しい目。
俺が何かつまずくたびに、そっと差し出される大きな手。
俺の好きなものを、俺以上に覚えていてくれる繊細な気遣い。
ほんと、好きなんだよ。
大好きで、離したくなくて、全部欲しくて。
だからこそ苦しくて、分からなくなる。
その時
サイドテーブルの上で、スマホが短く震えた。
びくっとして画面を覗き込む。
通知の主は、竜牙さんだった。
#ざまぁ
『…もう帰ったか?さっきのこと、傷つけたり、不安にさせていたならごめん。だけど、まだ話す勇気が無いんだ』
短いメッセージ。
あんなことを言われたのに、俺を責める言葉なんて、一つも入っていなかった。
それを見た瞬間、視界が急激に歪んだ。
胸の奥がぎゅーっと締め付けられて、呼吸が上手くできない。
「……っ、なんでだよ……」
なんで、そんなに優しいの。