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#ファンタジー
#ざまあ
設楽理沙
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「依子さん?」
歩くんが驚いた様子で目を見開き、呟いた。
香さんも、隣に座っているみちよちゃんも目を見開いている。
「どうしてよそ者のあなたが? この女に引き渡すつもりなの!?」
「よそ者ではありませんよ。依子さんは武蔵の母親で九條の人間です」
優しそうで落ち着きのある雰囲気の依子さんが、あの武蔵先輩のお母さんだなんてかなり衝撃的だった。
「子どもと離れるのはとても辛いことだと思います。けれど、今のままでは状況は悪化するばかりです。うちで彼らを預からせてください」
「っやめて!いい人ぶって近づいてこないで!私から子どもを奪いにきたんじゃない!」
香さんが涙が溜まった瞳で依子さんを睨みつけた。
「奪うわけではありません」
依子さんは動じることなく、優しい口調で話かける。
「もう嘘を吐き続けて過ごすのはやめましょう。歩くんとみちよちゃんが本当に壊れてしまいます」
「うるさいうるさいうるさい!」
香さんは隣に座っているみちよちゃんの腕を掴み、自分の元に引き寄せると声を張り上げる。
「この子達は私のものよ!九條の家に……兄さん達になんて渡さないわ! 私の……私だけのものよっ!」
まるで駄々をこねている子どものように泣き叫ぶ香さん。
開いた手で割れた食器の欠片を依子さんに投げつける。依子さんは避ける素振りもなく、頬に欠片が当たり鮮やかな血が伝う。
「出ていって!」
腕を掴まれたままのみちよちゃんは時折痛そうに顔を歪めている。
このままじゃ、ダメだ。状況が悪化していく。
みちよちゃんの腕を掴んでいる香さんの手を離そうと一歩踏み出した瞬間
パチンと小気味好い音がした。
「いい加減にしなさい!」
穏やかな口調だった依子さんが声を張り上げた。痛そうに顔を歪めながら香さんは手のひらで頬を覆う。
「子どもは親の所有物ではありません。思い通りにしようなんて思ってはダメです。それぞれ意思があり、尊重されるべき存在です」
「そんなのわかってるわよ……っ」
「香さん、最後に歩くんとみちよちゃんの笑った顔を見たのはいつですか?」
依子さんがやんわりとした微笑みで悲しそうに訊く。その問いに香さんは大きく目を見開いたあと視線を下げると、唇を噛みしめた。