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#ファンタジー
#ざまあ
設楽理沙
「二人の笑顔を思い出せますか?」
「それは……っ」
「今日学校で何があったとか、出掛けた先でどんなことがあったとか聞いたことはありますか? 大きくなってから、どんな食べ物が好きか嫌いか聞いたことはありますか?」
香さんはみちよちゃんと歩くんを交互に見ると、ぽろぽろと大粒の涙を流した。
「そんなこと……聞いたことない……っ」
「香さん、まだやり直せます。二人が辛そうにしていたら目を背けずに抱きしめてあげてください。二人も、お母さんが辛そうだったら抱きしめてあげて。怖がらないで気持ちを伝えて」
依子さんの言葉にみちよちゃんが今まで抑えていたものが一気に外れたように、香さんに抱きつき声を上げて泣き出した。
「お母さん……私、弱くて、ごめんなさい。お兄ちゃんに、頼ってばかりで……ずっと、逃げてたの」
しゃくり上げて泣くみちよちゃんを驚いた様子で見ていた香さんが、恐る恐るみちよちゃんの背中に腕をまわした。
「……ごめ……なさい」
抱きしめられたみちよちゃんは更に声を上げて泣き出す。
「母さん」
歩くんがゆっくりと香さんとみちよちゃんの元に歩み寄る。
「俺、ずっと苦しかった。女のフリするのも歩美って呼ばれるのも」
俯きながら歩くんは服の袖を握りしめて自分の気持ちを話しだす。
「俺にとって母さんは一人だけだから。どんなことされても嫌いになんてなれなかった。母さんに俺を、〝歩〟を好きだと言ってもらいたかったんだ。〝歩美〟じゃないと好かれないんじゃないかって思うと……怖くてたまらなかった」
歩くんが顔を上げて、真っすぐに香さんを見つめて言った。
「俺を見て、母さん」
歩くんの大きな瞳から、大粒の涙がはらりと落ちて床に弾けた。
「もう高校二年生なんだ。まだ頼りないとこもあるけど、これからは母さん達のこと守っていくから。九條の家の誰かが母さんに酷いこと言ったら、守ってみせるから」
床に膝をつき、歩くんが香さんとみちよちゃんごと抱きしめる。
「だから、母さん。少し休もう?」
香さんは小さな子どものようにぽろぽろと涙を止めどなく零しながら咽び泣く。
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