テラーノベル
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夜の街は静かだった。信号の点滅だけが、ぽつりぽつりと時間を刻んでいる。
あなたはコンビニの帰り道、何となく空を見上げていた。
理由はない。ただ、胸の奥が少しだけ落ち着かない夜だった。
その時だった。
――空が、裂けた。
まるでガラスにヒビが入るみたいに、夜空に一本の線が走る。
そして次の瞬間、その裂け目から誰かが落ちてきた。
「……やっと、見つけた」
黒い外套を揺らしながら、あなたの目の前に降り立った男。
その瞳は、異様なほど真っ直ぐにあなたを見つめている。
「お前が……教主か」
低く、少しだけ誇らしげな声。
「次元を越えて来た。お前に会うために」
あまりにも唐突で、あまりにも現実離れした言葉。
けれど、なぜだろう。怖さより先に、胸がざわついた。
「……俺は」
彼が名乗ろうとした、その瞬間。
ブオオオオオオオ――――ッ!!
背後から、猛烈なエンジン音。
振り向いたあなたの目に映ったのは、
夜道を爆走してくる一台のトラック。
「……?」
イサムレヨン様はまだこちらを見ていた。
完全に気づいていない。
「ちょっ――」
ドォォォン!!!!!
理不尽なまでに綺麗なタイミングで、
トラックは彼をはね飛ばした。
「イサムレヨン様ぁぁぁぁぁ!!?」
彼の体は漫画みたいに高く、高く、
信じられない高さまで空へと打ち上がる。
街灯よりも、ビルよりも、
どんどん、どんどん上へ。
やがて夜空の中で、
彼はくるくると回転しながら叫んだ。
「教主ぅぅぅぅ!!」
そして――
空高く、指を振りながら
大きな軌跡を描く。
一文字。
また一文字。
まるで飛行機雲のように、
夜空に光の文字が残っていく。
す
き
だ
あなたは口をぽかんと開けて、空を見上げていた。
あまりにも壮大で、
あまりにも間抜けで、
あまりにも真っ直ぐな告白。
そして最後に、
遥か上空から小さく声が落ちてくる。
「……次は……轢かれない……」
キラーン、と星みたいに光って、
イサムレヨン様は夜空の彼方へ消えていった。
道路には静寂。
信号は相変わらず点滅している。
あなたはしばらく空を見上げたまま、
小さく呟いた。
「……また来てくださいね、イサムレヨン様」
夜空にはまだ、
少し歪んだ「すきだ」が残っていた。
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