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あの日から数日後。
あなたはまた、同じ夜道を歩いていた。
理由は特にない。けれど、少しだけ空を見上げてしまう。
……もしかしたら。
そんな期待を、ほんの少しだけ抱きながら。
その時だった。
――ビシッ
空に、またあの亀裂が走る。
「……来た」
あなたが呟いた瞬間、
裂けた次元の中から、あの声が響いた。
「教主ォォォォ!!」
ドンッ!!
勢いよく地面に降り立つ黒い影。
そこにいたのは――
「……イサムレヨン様?」
確かに彼だった。
だが、前回と決定的に違う点がある。
頭に工事用ヘルメット。
体には反射ベスト。
膝にはプロテクター。
さらに背中には、なぜか交通安全の旗。
完全に小学生の登下校装備である。
あなたはしばらく沈黙した。
「……」
「……」
イサムレヨン様は誇らしげに胸を張る。
「学習した」
低く、重々しい声で宣言した。
「この世界の最大の敵は――」
指を立てる。
「トラックだ」
間違ってはいないが、
どこかがおかしい。
あなたが笑いをこらえていると、
イサムレヨン様は真剣な顔で続けた。
「今回は完璧だ」
彼は周囲を見回し、道路を確認し、
左右を指差し確認する。
「右、ヨシ」
「左、ヨシ」
「教主、ヨシ」
あなたを指差して頷く。
その仕草があまりにも真面目すぎて、
つい笑ってしまった。
「ふふっ」
その笑い声に、イサムレヨン様は少しだけ目を丸くする。
「……笑ったな」
「だって、その格好……」
すると彼は、少しだけ視線を逸らした。
「……お前に、もう一度会うためだ」
ぽつりと言う。
「前回は……理不尽だった」
それはそうだ。
「だが今回は違う」
彼はあなたの前に一歩近づく。
夜風が外套を揺らす。
ヘルメットも一緒に揺れる。
「今回は」
少しだけ照れくさそうに、
でも真っ直ぐあなたを見て言った。
「ちゃんと伝えに来た」
あなたの胸が、少しだけ跳ねた。
「教主」
彼はゆっくり口を開く。
「俺は――」
ブオオオオオオオオオ!!!
またしても背後から爆音。
あなたの顔が引きつる。
「……」
「……」
二人は同時に振り向く。
そこには――
猛スピードのトラック。
イサムレヨン様の目がカッと見開かれる。
「来たか……」
しかし今回は違う。
彼は素早く、背中の交通安全の旗を取り出した。
「止まれェェェ!!」
旗をぶんぶん振る。
トラックの運転手が驚き、
キィィィィィィィ!!と急ブレーキ。
ギリギリで停止した。
沈黙。
そして――
イサムレヨン様は勝ち誇ったように言った。
「……見たか」
ヘルメットのつばを軽く叩く。
「対策済みだ」
あなたはつい、笑ってしまった。
「ふふ……イサムレヨン様、すごいです」
その言葉に、彼はほんの少しだけ照れた顔をする。
そして改めて、あなたを見つめる。
「……今度こそ言う」
夜風が静かに流れる。
「教主」
「好きだ」
今度は空じゃなくて、
ちゃんとあなたに向かって。
そして小さく付け足した。
「……できれば」
少しだけ照れながら。
「トラックが来ない場所で、話したい」