テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「お前にやるんだぜ」
そう言ってヨンスさんが私に手渡したのは、スチールで出来た二枚組のプレート。其処にはヨンスさんの名前や、何らかの番号などが刻まれている。
「ドッグタグ……ですか」
「ああ、兵役の時に貰った奴なんだぜ」
「そんな……良いんですか?」
「頼めばまた作って貰えるから、良いんだぜ」
だからこれは、お前が持っていて欲しいんだぜ────ドッグタグを持った私の手を、ヨンスさんの手が忽ち包み込む。
「もし有事になった時に、俺が死んだら……このドッグタグが俺の形見になるんだぜ」
「ヨンスさん…………」
「俺はいつだって、 お前のことを想ってるんだぜ。離れていても、死の間際になっても、ずっとずっと。これは、そんな俺の代わりになるものなんだぜ」
そう言って微笑むヨンスさんに、私は途轍もなく悲しい気持ちになった。
「北」といつ再び戦争になってもおかしくない国。そんな国にヨンスさんは生まれ、 育ったのだ。だから兵役にも行ったわけで。
「そんな顔するんじゃないんだぜ、菊」
「…………ごめんなさい」
「謝って欲しくもないんだぜ。お前の気持ちは俺も分かるから。俺だって、本当は戦争なんか望んでないからな。でも、仕方の無いことなんだぜ」
「…………」
「だから……持っていてくれるか?」
その言葉に私は首を縦に振ると、ヨンスさんは「コマウォヨ」と礼を述べて、私の頬に口付けた。
────鳴呼、願わくば。
貴方の祖国が、この先も平和でありますように。
貴方の人生が、この先も平穏でありますように。
彼に抱き締められながら、私は貰ったドッグタグを密かに握り締めた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!