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12 - They are (大森×藤澤)【フォロワー1100人記念作品】

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2025年04月22日

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一方通行の愛だった。少なくとも僕にはそう思えた。いつだってさみしい彼の虚しさを埋めるためにはたくさんの愛が必要で、それが僕になら務まると思っていた。僕は彼のことが大好きで大好きでたまらなくって、だから彼のためになら何でもできると思っていて、でもそれは間違いだったのだと苦しいだけの現実をようやく受け入れられたのは、もうどうしようもないくらい自分がボロボロになってからだった。彼をどれだけ愛しても愛しても愛しても、彼の虚しさは埋まることはなくて、彼の心はいつもいろんなところにいて、僕の愛に応える気すらないようにみえた。


「さみしいな……」


ある時、彼がセックスのあとでぼんやりと闇を見つめながら言った。


「……僕が隣に居ても?」


ちょっとおどけてそう言ってみせると、彼は小さく笑って何も答えなかった。僕の「好き」も「愛してる」もキスもハグも、彼には全く届いていないか、それか彼にとっては不必要なものかのどちらかに違いなかった。しかし彼は彼の虚しさを埋めるために人に甘えるのは得意だった。他人への距離の詰め方と、その後の距離感の作り方が上手なのだろう。自分こそが彼のさみしさを救ってあげられる、と思い込んでいる人間は僕以外にもたくさんいるはずだった。人にそう思い込ませるのがうまい男でもあった。番組での共演や曲の提供をきっかけに彼の手玉に取られる人間はかなりいて、僕らの事情を知る人間からは心配そうな、不思議そうな顔をされることが度々あった。SNSに匿名で彼と別の男が仲睦まじげに写る画像が送られてくることもしょっちゅうだった。


「元貴にはきっと僕じゃダメなんだよね」


そういってため息を吐くと、同じミセスのメンバーである若井は眉根を寄せた。


「もうやめにしたら?元貴は昔からあぁなんだよ、きっとこれからだって変わらない」


わかってるよ、と僕はいじけたように小さく返す。


「わかってるけど……でもそれでも、この『恋人』という立場を捨てない限り、最終的に元貴が戻ってくるのは僕のとこなんだよ。そう思ったら……いや、分かってる。分かってるよ、元貴の気持ちが僕に向いてないことくらい。でも夢見ちゃうんだよ、いつか僕だけを見てくれるんじゃないかって。そう思ったらこの立場に縋るしかないんだよ」


若井は呆れたように大きくため息を吐いた。


「涼ちゃんがそれでもいいならって前までは思ってたけど。最近自分の顔、鏡でちゃんと見てる?ひっどい顔してる。ご飯だってちゃんと食べれてないんでしょ。メンバーとして、友人として、正直もう見過ごせないよ」


一回離れたほうがいい。若井は僕の目を見据えながらはっきりと言った。僕はいたたまれなくなって目を逸らしてしまう。


「一回離れたら、元貴も涼ちゃんのありがたみが分かるかもしれないよ。あいつ、涼ちゃんに甘えすぎなんだよ」


それはないだろうな、と僕は思う。僕が彼に別れを告げたところで、彼はそれをさまざまに描かれる数多の「さよなら」の1つのように他人事みたいに受け入れてしまうだろうと思った。


そう、まるで今のこの状態みたいに。


「元貴、僕たち別れよう」


僕は間違いなく彼に別れを言い渡したはずなのに、彼は表情一つ変えなかった。ただ、「そう」と一言だけ。


「……それだけ?」


たまらなくなって、思わず非難するように彼を見ると、彼は戸惑ったように初めて表情を崩して


「だって、ほかに何を言えっての?涼ちゃん、別れたいんでしょ?」


僕はもう、思いっきり泣きわめいて彼を殴ってやろうかと思った。でも実際にそれを行動に移せるほどの気力もなかった。


「別に。元貴がないなら、ないんだよ。分かった、じゃあね」


僕は重たい足を引きずって踵を返した。目頭が熱かった。一方通行の愛だった。おそらく誰もがそういうだろうと思った。






「僕、元貴のこと本気で好きなんだよ。僕じゃダメ?」


目の前で小さく肩を震わせる男を見て、自分がまず思ったことは「面倒なことになった」だった。だからメンバーに手は出さないでおこうと思っていたのに。でも彼が向ける好意はあまりにもまっすぐで、すごくあたたかくて素晴らしいもののように思えて、つい手を伸ばしてしまったのだ。人の期待にはつい応えたくなってしまうという自分の悲しい性も、それを行動に移す理由となるには十分だった。もしここで断ってしまったら、今後仕事もしにくいだろう。もしかしたら彼が辞めるとか言い出すかもしれない。それは困る。僕は、分かった、と頷いた。途端にぱっと彼は顔をあげて、目を真ん丸にしてこちらを見つめる。


「ほ、ほんとに?僕でいいの?」


思わず笑ってしまった僕に、彼は勢いよく抱きついてくる。目が合って、彼は僕の唇に自身のそれを重ねた。ぎこちないキスだった。それでもなんだか、心地よかった。まぁいいか、彼が飽きるまでは付き合おう。どうせ人の想いなんて、限りがあるものなのだから。最初はそう思っていたし、それで良かった。ただ、だんだんと月日を重ねるうちに問題が出てきた。元来、固定の相手を作らずに、明らかに自分に好意を抱いている相手だけにうまいこと甘えて、飽きられる前にこちらから離れて捨てられないようにすることでプライドを保ってきたような僕にとって、彼の愛は優しすぎた。いままでのように自分に好意を寄せてくる相手の期待に応えてしまう僕の行動に、彼は傷つきながらも全く責めなかった。気づいていても気づかないふりをして。傷ついているのに傷ついていないように振る舞って。でも仮に、もし僕が彼以外の人間を拒むようになった時、彼に捨てられたら、僕は本当に独りになってしまう。それが怖くて、結局自分の行動を変えることなどできなかった。


「さみしいな……」


ある時、彼とのセックスのあとで思わずそう呟いたことがある。こんな風に身体でつながりあっていても、愛していると言葉で交し合っても、僕は君の愛を信じきれないなんて、なんてさみしいんだろう。


「……僕が隣に居ても?」


今の状態に対しての感想だと思ったらしい彼は、自身の感じたさみしさを隠すようにおどけてみせる。そんな彼を見ていると、なんだか胸の奥が掴まれたように痛くなってしまう。僕はごまかすように小さく笑った。


彼から別れを告げられた時も、意外ではなかった。いや、傷つかないようにそう思い込もうとしていただけかもしれない。苦しそうで、今にも泣きだしそうな彼を見ていたら「そう」としか言えなかった。彼にこんな表情をさせているのは僕で。そんなの分かりきっていたことだから、別れるのは当然だし、僕が何か言うべきではないよななんて、また自分が傷つかないようにもっともらしい言い訳を並べ立てて。


「……それだけ?」


こちらを非難するような表情の彼に思わず戸惑う。


「だって、ほかに何を言えっての?涼ちゃん、別れたいんでしょ?」


だったらもう別れるしかないじゃないか。僕にそれを引き留めるような資格がないことは重々承知しているつもりだ。彼は苦しそうに表情を歪めて、それから何か諦めたように息を吐いた。その瞳は潤んでいる。


「別に。元貴がないなら、ないんだよ。分かった、じゃあね」


目尻にまでたまった涙がこぼれる前に、彼は踵を返した。その後ろ姿を見て僕は、ひどくさみしいと思ってしまった。


「ただいま」


つい癖のようにこぼれてしまった言葉に顔を顰めながら靴を脱いだ。当たり前だがそこに返答はない。なんだかどっと疲れてしまってそのままベッドに倒れ込んだ。部屋の中はやけに寒くて、シーツも冷たかった。


「さみしいな……」


僕の何気ない一言に言葉を返してくれる君はもういない。本当に独りだった。目の前の景色が変にぼやけて見えて、なんだろうと目元に触れて初めて自分が泣いていることに気づいた。


「あ……」


吐いた息が嗚咽に変わる。さみしいな。今頃僕は君への愛に気づくだなんて。



※※※

フォロワー様1100人記念ということで、ミセスの楽曲「They аre」をモチーフにお話を書かせていただきました!

皆様、いつもいいねやコメントありがとうございます´ ᵕ`).。o♡

明日からは新しいシリーズを開始する予定です

あるテーマに沿ったオムニバス形式というこれまでの私の作品の枠組みには無かった形に挑戦しますので、もしよければそちらもまたよろしくお願いします✨

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