🐥夢/痴話喧嘩
ギルベルト、ひいてはルートヴィヒがかなりのスピリチュアリズムです。
この小説に書かれているものは異なる視点からの主張なので、よいこのおこさまは「ふーん、こういう主張も世の中にあるんだな」と思って、安心して電子レンジの使用を続けてください。
「こういう主張」を持っている方は、「ふーん、反対意見もあるもんなんだな」と寛容にお願いします。
尚、作者がこのような思想持ちだとは夢でも思わないでください。私は電子レンジしか愛せない女です。
マァとりあえずなんてもよろしい方のみこの先へお進みくださいまし
「ね、だから怒ってると言いましたよね」
と。信じられないくらい怖い声を出して、(夢主)ははちゃめちゃに怒った。
しかしギルベルトは、何故自分が怒られているのか分からない顔をして、ヴルストの分厚い皮をちまちまガジガジ齧っている。
まるで、夕食で母親が急にヒステリックを起こしたときの小学生みたいな、噫(ああ)またか、とでも言いたげな顔で。知らぬ存ぜぬ、関係ないと硬い腸をグジグジやっているのだ。
さて、何故(夢主)はヒステリックを起こしたのか。これは溜めに溜めていたものの放出でも、気まぐれの愛でもなければ発作でもなかった。それでは、何かと言えば。
「電子レンジ壊すのやめてって、前にも言いましたよね!」
そう、これである。困った事に、愛犬がソファーを噛むクセを持っているというようなノリで、ギルベルトには電子レンジを解体したくなるクセがあるのだった。
それもその筈。彼には愛すべき弟が居るのだが⋯
「しょうがねえだろ、ヴェストが電子レンジの出すマイクロ波は人体に多大な影響を与えるって言うんだ」
頭皮をガリガリ短い爪で掻きながら、欠伸でもしたい顔でギルベルトは答えた。
健康志向を持つ国体の兄は、何でも賢弟の言う事を聞いてくれる優秀な軍人である。
その為、マイクロ波だ⋯なんだという話題に敏感である。 という訳で、前回に引き続き、今回も電子レンジが犠牲になったのだった。
彼は 既に巨大なヴルストを食べ終えた後なのだが、足りないという顔で改めてジャガイモを冷蔵庫から取り出し始めている。
いつもなら、「お腹すいてるなら私が作ります」とニコニコする(夢主)も、これを目ざとく指摘して、頭を真っ黒にしながら怒鳴りつけた。
「ほら、また鍋取り出してる!おっきい寸胴鍋!電子レンジなら簡単に蒸かせるのに、なんでそんなめんどくさい事するんですか!その鍋に入れるお水が勿体ないでしょう!」
2人は「腹が減っては戦ができぬ」を提唱する体育会系なので、喧嘩中に物を食べるのはいつもの事⋯それどころか、「私には不満があります、喧嘩を通して貴方にもっと知らしめたいです」というアピールをする機会でもあった。
その為、話を逸らすな的な無駄な怒り方をしないで済むのだった。
「そのめんどくさい事をする体だって、マイクロ波によって簡単に壊されんだ、組織破壊に繋がんだからな!」
「馬鹿なんですか!そのような事故が起きないために、メーカーが高い技術力で開発・調整をしているんです!」
(夢主)は日本人なので、自国企業を貶す事に近い発言を聞くと、発火する質を持っていた。
マァ、どの国民も「我が国の技術力が1番」的思考を持っているのだが⋯。
「大体、マイクロ波でリハビリテーションを行うことも出来るんですよ、多大な量を浴びなければ健康にさえ利用できるのです」
「馬鹿、お前はヴェストの気持ちを踏みにじるのか?」
「この弟馬鹿!」
しかし話は逸れた。ギルベルトは不利になると、ルートヴィヒを引き合いに出す厄介な行為に出るのだった。(夢主)はルートヴィヒの事を弟のようにとても可愛がっているので、反論ができないことを知って⋯
戦のカリスマとまで言われた、正々堂々を愛する男ではあるが、長いニート生活は国も変えるのだ。よく覚えておこう。
「大体、ルートくんもギルベルトさんも国なんです。戦での日記、見ましたからね。腕をスッパリ切られて回復する体に、そんな微細な健康志向要りませんわ!」
ご尤もである。更にギルベルトは、国土を失った亡国であるにもかかわらず、元気に自宅待機命令を出されているよく分からない男なのだ。
仲良しこよしのフランシスに1度聞いたことがあるが、「⋯?知らない⋯⋯」と生娘の顔をされたので、結局存在しているのがよく分からない男であるとしかわからなかった。
しかし、それを聞いたギルベルトは急に顔を赤らめて、雌の顔になった。
「俺、お前に長生きして欲しいんだけどよ⋯駄目だったな、ケセセ」
歯が浮くような台詞をつらつらと重ねながら、諦めた淑女みたいな儚げな顔で微笑むのだ。
そうすればもう(夢主)は、不憫な彼を愛そうとしか思えなくなる。
23回目の電子レンジ破壊も、結局ギルベルトの勝ちで終わった。
仲良しなら結構なことである⋯。
切