「……ごめんなさい」
「まぁ、とりあえず落ち着いて良かった」
あの後、涙に鼻水に涎と透明な液体の3コンボで顔がぐちゃぐちゃなホバを何とか引き剥がし、珈琲を淹れ、お互い何口か啜ってようやく落ち着いてきた。……今までの中で、一番落ち着くのが早い…気がする。
「珈琲のおかわりは?」
「うーん……飲もうかな?」
「分かった」
コンコン、ガチャッ……
「入るぞ」
「…せめてもう少し間をあけたらどうですか?」
「別に良いだろ……ん?ホソガ、どうしたその顔…不細工だぞ」
「ユンギヒョン余計な事言わないで下さい!僕だって自覚してます!」
ようやく平穏な時間が流れ始めたその時、ノックとほぼ同時に開かれるドアと、無表情で入ってきたヒョンを冷めた視線で出迎える。このヒョンはデリカシーというものがないのだろうか。軽くホバにも触れたが、特に変わりがない事が分かったのだろう、それ以上は特に触れようとはしない。そういうところは分かるのに……
「勿体無い……」
「それこそ余計な世話だ。お前ら、今空いてる?新曲を何となく考えてるんだが……」
「お?もう新しいの作ったんですか?この間、形が纏まりつつあるものが出来たばかりなのに」
「出来る内にやっとくんだよ。ほら、暇なら手伝え」
「えぇ…折角、ジュナと二人きりだったのに…」
「よし、ホソガは飯抜きな」
「やらないなんて言ってないし!!」
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「………で?」
「……で?何がです……」
「無事に終わったのか?」
「……やっぱり気付いてました?まぁ…おかげさまで何とかなりました」
三人で作業室に入り、今はホバがユンギヒョンの作ったデモを聞いているのだが、ぼそっと話しかけてきたユンギヒョンの言葉に、それとなく返す。察しの良いヒョンの事だ、これだけで十分伝わるだろう。
「……お前は、離れようとか思わねぇの?」
「離れる……ホバから?」
「良くなってるって言ったってたかが知れてるだろ。お前のそのネックレスを作ってる時も…ネジぶっ飛んでんぞ」
「………そうですね……でも、離れる事はないです。確かに、怖い時もあれば、どうすれば分からず、ヒョンたちに助けを求める事もありますが…俺はやっぱり、ホバが好きだから」
「………ふーん」
カチッ……
「ユンギヒョン……これ、いつ作ったんです?」
「んぁ?……一昨日の夜くらい?」
「わぁー、それはもう天才としか言い様がないですよ?ジュナも聞いてみなよ、凄いよこれ」
「そんな褒めたって何も出ねぇぞ?暑いしアイスでも持ってきてやろうか」
「わーいやった!…でも、夜更かししたって事ですよね?隈もあるし…おじいちゃんなんですから無理しちゃ駄目じゃないですか」
「よし、そんなにしばかれたいか」
「もう!怖い事言わないで下さいよ!」
…もうすっかりいつもの様子だ。…どうしようもない時だってあるし、ホバへの好意が純粋なものなのか疑いたくなる時もあるが……今、不貞腐れながらも、ユンギヒョンの歌をぶつぶつ褒めているこいつが可愛いなと心底思う。…きっと、これが丁度良いんだろうな。