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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第49話 澪視点 〚画面越しの安心〛
修学旅行、
前日。
部屋の電気を消して、
布団に入ったのに。
——眠れない。
澪は、
スマホを胸の上に置いたまま、
天井を見つめていた。
(大丈夫)
(何も起きない)
何度も、
頭で言い聞かせる。
でも、
心臓が聞いてくれない。
静かになるほど、
不安だけが浮き上がってくる。
修学旅行。
楽しみなはずなのに。
班も、
部屋も、
一緒で。
皆も、
いる。
それなのに。
(……なんで、こんなに怖いんだろ)
澪は、
スマホを手に取った。
画面をつけて、
メッセージアプリを開く。
——海翔。
名前を見るだけで、
少しだけ呼吸が楽になる。
でも。
(こんな時間に、
迷惑かな)
(不安だからって、
送っていいのかな)
指が止まる。
しばらく、
何も入力しないまま。
……それでも。
澪は、
短く打った。
『起きてる?』
送信。
既読がつくまでの数秒が、
やけに長く感じた。
——ピコン。
『起きてる』
すぐだった。
それだけで、
胸が少しゆるむ。
澪は、
布団の中でスマホを握りしめる。
『明日、修学旅行じゃん』
『なんか……眠れなくて』
少し間があって。
『不安?』
その一言に、
胸の奥がきゅっとなる。
(……バレてる)
正直に、
打った。
『うん』
『理由は分かんないけど』
『ちょっと怖い』
返事は、
すぐだった。
『そっか』
『無理に理由探さなくていい』
『俺も、少し緊張してる』
その言葉に、
澪は目を見開いた。
(海翔も……?)
『海翔も?』
『うん』
『班長だし』
『それに』
一瞬、
入力中の表示が消えて、
また出る。
澪は、
画面を見つめた。
『澪が不安なら』
『俺はちゃんとそばにいる』
短い文。
でも、
それは。
「守る」じゃなくて、
「一緒にいる」という言葉だった。
澪の胸の奥で、
何かが静かに落ち着く。
『ありがとう』
『それだけで、だいぶ違う』
少し間があって。
『メッセージしてよかった?』
澪は、
送信したあとで不安になる。
——重くないかな。
——迷惑じゃないかな。
でも。
『むしろ嬉しい』
その返事が、
すぐに来た。
『澪が頼ってくれるの』
『ちゃんと信じてもらえてる気がするから』
その言葉に、
澪の目が、少し熱くなる。
(……信じる)
怖いのに。
それでも、
手を伸ばした先に、
ちゃんと返事がある。
『明日』
『もし不安になったら』
『また話してもいい?』
『もちろん』
『いつでも』
『画面越しでも』
『隣でも』
澪は、
小さく息を吐いた。
スマホを胸に抱えて、
目を閉じる。
不安が、
全部消えたわけじゃない。
でも。
(独りじゃない)
それだけで、
心臓は静かになった。
修学旅行、前夜。
澪は初めて、
「不安」をそのまま誰かに渡して。
ちゃんと、
受け取ってもらえた夜だった。