テラーノベル
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青い空の下、僕は芝生に寝っ転がっていた。
ゴロゴロしながら、バルトが庭木を剪定する姿を眺めていた。
「リンネ、サボってねぇで、手を動かせ。草をむしれ」
「……バルトって、何歳?」
僕は真面目な気持ちで問い掛けた。
「俺か? 二十六歳だ。言ってなかったか?」
「昔、聞いた気がするけど、忘れちゃった」
人間は一年に一歳、歳をとる。
成長がゆっくりだ。
一度の成長で三歳、五歳と歳をとる獣人とは違う。
「僕は、何歳になったのかな」
「十八……いや、二十歳ってとこか」
「大人!」
アスランズ王国では、人間は十八歳で成人する。
人間に照らし合わせても、もう僕は大人だ。
「そうだな。恐らくこの後は人間と同じようにゆっくり成長するだろうし、大人でいいんじゃねぇか」
「わぁい。僕、体も歳も、ちゃんと大人になった」
獣人としては成人してたけど。
シュメリと同じ基準で大人になれるのが、嬉しい。
僕は芝生でゴロンと仰向けになった。
僕と同じ瞳の色をした空に向かって、手を伸ばす。
「大人は芝生でゴロゴロしねぇぞ。草むしりしろ」
「えぇ……それはバルトのお仕事でしょ」
「手伝うって出てきたのは、誰だ」
「むー」
一緒にいたかったから、手伝うって言っちゃったけど。
草むしり面倒、嫌だ。
僕は芝生の上でゴロゴロした。
「こら、服が汚れるぞ。シュメリに仕立ててもらった服だろ」
「うん」
身長が伸びて、改めて服を仕立ててもらった。
採寸は大変だったけど、素敵なお洋服がたくさん届いた。
(汚すのは、ダメ)
僕は、ひょいと起き上がった。
「あ……」
ポトリと、首のチョーカーが落ちた。
地面に落ちたチョーカーを見て、血の気が下がった。
「バルト! チョーカー外れちゃった、壊れちゃった」
「ん?」
振り返ったバルトが、ハサミを置いて僕に歩み寄った。
「二人にもらった大事なチョーカーなのに……うわぁん」
「泣くな。見せてみろ」
僕の手からチョーカーを受け取って、バルトが細部を確認してくれる。
「あー……、留め具が緩んでいるのか」
「直せる?」
「道具と材料があればな。直してやる」
「本当に?」
「あぁ、だから、泣くな」
「うん」
ごしごしと目を擦る。
(そういえば、水色のリボン)
シュメリが最初にくれた、僕の宝物。
森の家に置いてきたままだ。
「バルトが引っ越したら、森の家もなくなっちゃう?」
「そうだな。いつまでもあのままには、できねぇからな」
僕は、シュンと俯いた。
「大事なもんは、取りに行ける。必要なもんは俺のトコに置いておくから、心配すんな」
「うん……」
それも大事なんだけど。
バルトと暮らしたあの場所がなくなるのは、悲しい。
(これが、大人になるってこと)
大事なものが、思い出に変わっていく。
それを受け入れるのも、大人なんだ。
「片付ける時は、一緒に行こうね」
僕の顔を眺めて、バルトが微笑んだ。
「あぁ、一緒に行こう」
あの場所がなくなっても思い出は消えない。
バルトはいなくならない。
だから、僕は大丈夫なんだ。
微笑んでくれるバルトと、同じ顔で笑えていたらいいと思った。
次の日の朝食後。
バルトがチョーカーを持ってきてくれた。
「直ったぞ」
「わぁ! バルト、ありがとう!」
「付けてやる」
「うん!」
バルトが僕の首にチョーカーを付けてくれる。
僕は嬉しい気持ちで足をブンブン振った。
「おや、壊れたのかい?」
「昨日、リンネが芝生で寝転がっている時にな」
「バルト! それは内緒」
しーっと人差し指を口元にあてる。
「でもね、バルトが直してくれたから、元通りだよ」
首に戻ったチョーカーを、シュメリに見せた。
「壊れたなら新しいものを買っても良かったのに」
「ダメ!」
僕はシュメリに首を振った。
「シュメリとバルトが選んで、魔力を籠めてくれたんだもん。僕の宝物だもん」
僕はチョーカーを、ぎゅっと包んだ。
シュメリとバルトが顔を合わせて笑んだ。
「じゃぁ、次は王都の老舗でバルトとアクセサリーを選ぼうか」
「俺はそういう店、慣れねぇけどな」
「リンネのためなら、いけるだろ」
シュメリに言い負かされて、バルトが微妙な顔をしている。
「僕はこれが良い。とってもとってもお気に入りなんだ」
白地に太い水色が走る、リボンデザインのチョーカー。
可愛くて、大好きだ。
シュメリとバルトを、いつも感じていられる。
(だから、あの水色のリボンはもう、思い出かな)
シュメリが初めてくれた大事なリボンだけど。
僕の手は小さいから、大事なもの全部は持ちきれない。
それに気付くのも、きっと大人なんだ。
「そんなに気にってくれると、送り甲斐があるね」
シュメリが微笑む。
「また壊れたら、直してやる」
バルトが付け心地を調節してくれた。
「うん! 僕、このチョーカー大好きだよ」
二人と過ごせる、この時間が幸せ。
二人と過ごした、今までの時間が愛おしい。
だから、今日からは前を向く。
変わっていくこれからも、きっと愛おしいから。
#BL
武道
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コメント
1件
うわ、めっちゃほっこりした……。 「大人は芝生でゴロゴロしねぇぞ」からのチョーカー落下→バルトが直してくれる流れ、最高の家族だわ。水色のリボン(初めての宝物)が思い出に変わって、今のチョーカーが新しい宝物になるって描写、大人になる寂しさと温かさがぎゅっと詰まってて刺さった。 リンネの「大好きだよ」が全部を包んでる感じ、好きです。