テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ローランとの婚約がリリアに代わった途端、リリアのあからさまな仕打ちがナーシャに降りかかる。 その日、早速嫌がらせが開始された。
学園での授業が終わり、親友のシンシアといつものように馬車停めに行くと、そこには困ったように焦るセリナが居た。
「お嬢様!」
「セリナどうしたの?」
「それがその、リリア様が⋯先に帰られてしまって⋯」
「えっ?!」
ナーシャとリリアには学園に通う為に1台の馬車が与えられていた。
ナーシャが1年のときはセシルとともにそれに乗って向かい、帰りはローランの家の馬車で帰宅していた。2年になったら学園に通うのはナーシャだけだったので、行きも帰りも一人で使用していた。今は、リリアとともに使う事になっていたのに、それにリリアが乗って一人で帰ったというのだ。
今朝は、普通に乗って来ていて、ナーシャは帰りの都合などリリアからは何も聞かされていない。急遽帰らなければならないにしても、一言セリナに伝える事は出来た筈だ。あまり期待が持てないがナーシャはセリナに尋ねた。
「リリアは迎えの事とか何て言っていたの?」
「⋯⋯何も、何も言われていません⋯」
ナーシャとセリナの会話を聞いていたシンシアが、ナーシャに提案してきた。
「侯爵家までは、馬車で10分程よね。30分待ちましょう。それでも侯爵家から馬車が迎えに来なければ|シンシアの家《うち》へ行きましょう」
「シンシア⋯」
「貴方の事情は見ていて分かっているわ。最近お茶会でも話題になっているもの」
「お茶会で⋯」
ナーシャは祖母が亡くなってからは、お茶会に出る事は殆どなくなっていた。
家に届く招待状をナーシャには見せてもらえないからだ。学園で友人になった人達は、シンシアを筆頭に直接学園でナーシャに招待状を渡すようになったので、友人たちとのお茶会は出席している。だが友人が開催する以外のお茶会には、ナーシャは参加することはない。今シンシアが話しているのは、オリジエル侯爵家の家人を招待するお茶会の事だ。
貴族達の話題の中に侯爵家の噂が交じる。それがいい噂でないことは明らかだと思えた。
(領民達に申し訳ない)
ナーシャが真っ先に思ったのは、領民への謝罪の気持ちだった。
「まぁ、その話もしたい事だし。今日はうちへ来て!よかったら泊まっていってくれると嬉しいわ」
「ご迷惑じゃない?」
「それなら誘わないわよ」
シンシアは、レーザック侯爵家の長女で、ナーシャとは祖母が存命の頃から仲良しだ。
気心のしれた友人宅に泊まる提案は、ナーシャには魅力的だったし、ナーシャの方にもシンシアに話をしなければならないこともある。
まだ昨日婚約が白紙になった事を、ナーシャはシンシアに言えていなかったのだ。
「じゃあお言葉に甘えて。セリナ乗せてもらいましょう」
シンシアの提案通り、30分待ったがオリジエル侯爵家からナーシャへの迎えが来る事はなかった。
◇◇◇
「どうして平民になるの?」
その日ナーシャはシンシアの言葉通り、彼女の家に泊まる事になった。
湯浴みのあとシンシアの部屋で、ナーシャは婚約白紙の件と家を出る決心をした事をシンシアに話したのだが、聞いたシンシアの第一声がそれだった事にナーシャの方が驚く。オリジエル侯爵家から籍を抜いたら平民になる以外の選択肢はない。ナーシャがそう言うと、シンシアは首を左右に振る。
「ナーシャ、平民以外の選択肢はあるのよ」
「養子にって事?でもお父様がお許しになるかしら?」
この国の成人は学園に通っている者は.卒業してからという決まりがある。それは平民も同じで、学園に通っている間は、保護の対象として扱われる。学園に通っていなければ、一般的には16歳が成人と見做されるので、家督を継ぐことも出来るのだ。
「学園を辞めれば可能だけど⋯」
ナーシャはシンシアの言葉で、色々な可能性がある事を見逃していた事に気付いた。
「辞めなくてもいいのよ、卒業すればいいのだから」
「飛び級って事?」
「ちょっと違うかな、私も最近知ったんだけどね」
どうやらシンシアは、オリジエル侯爵家の噂を聞いて、ナーシャが行動を起こす可能性を考えたらしい。シンシアがナーシャの為に調べてくれた事に、ナーシャの目頭が熱くなる。
「シンシアありがとう」
「お礼は、無事に何事もなく目的が達成されてから沢山言って!今は急いで動かないと。新たに婚約させられたら動けなくなるわ」
オリジエル侯爵家の籍に入っている間は、ナーシャは父の保護下にある為、勝手に婚約を結ばれる事もある。婚約させられたら、今度は婚約相手が成人していれば、そちらの保護下にもなってしまい、身動きが取れなくなるのだ。
「今すぐ動くしかないのね」
ナーシャの言葉にシンシアは何度も頷いて、方法を教えてくれた。
「あの学園は、飛び級制度もあるけれど、ナーシャがするのは卒業資格試験制度よ」
「卒業資格試験制度?」
「そうよ、もう私達は最終学年だから、簡単に言うと卒業試験さえ合格すれば、それで卒業が可能になるの。3学年になった途端、令嬢が婚姻するのはそういうことよ。他の学年だと複数の試験とレポートを出さなければならないけど、案外最終学年だと簡単なのよ」
確かに、3学年になってから極端に令嬢の数が減ったとナーシャも感じていた。あと一年なのに勿体無いと思っていたけれど、皆卒業試験を受けていたのだと理解した。退学したわけではなく早めに卒業したことになる。
その時にふと父の顔が浮かぶ。
「ねぇ、このタイミングでの婚約白紙は偶然かしら?」
ナーシャが最終学年になって、まだ1ヶ月も経過していない。ローランとリリアの仲は、前から親密であったのだから、もっと前に白紙になってもおかしくなかったし、醜聞を避けるならリリアが学園に入学する前の方が良かったように思えた。
「⋯⋯おじ様の考えは分からないわ、でも考えなくてもいいんじゃないかしら?結局のところ実子よりも養女を優先してるように思えるもの」
「そう、よね」
シンシアのきっぱりした言葉で、他のお茶会でどんな噂が流れているのか想像する事が出来た。
ナーシャは父の顔、兄の顔を思い浮かべて、それを振り払うように頭を振った。
コメント
1件
お疲れさまです、marukoさん。第5話、読みました。 リリアの仕打ちが露骨になってきましたね…あの馬車置き去りは、もう明確な嫌がらせだと分かります。でも、そこで慌てずシンシアの提案に乗るナーシャの冷静さにほっとしました。シンシア、本当に良い友人ですね。卒業資格試験制度の話も、ちゃんと伏線として効いていて「なるほど、そう来たか」と膝を打ちました。 「お礼は無事に達成されてから」というシンシアの台詞も、彼女の本気が伝わってきて好きです。続きが気になります。