テラーノベル
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次の日シンシアとともに学園に向かう。 昨夜のうちに3通ナーシャは手紙を書いた。一つは既に届ける手配をしていて、おそらくは朝一番に着いていると思われる。
もう一通はナーシャの鞄に入れている。
残りの一通はセリナに預けた。
「着いたら直ぐに学園長室に行かないとね」
シンシアの言葉にナーシャは頷いた。
卒業資格試験は、誰でも受けられるわけではないそうで、それなりに理由がいる。その中の最も不名誉な理由をナーシャは書かなければならなかった。
“家族との不和”それがナーシャが早期に卒業したい理由だ。
その理由の場合だけ、資格試験を受ける為の保護者の署名欄は、必ずしも父親である必要はなくなる。
但し、具体的にどんな事柄が発生して、そういう考えに至ったかを、学園長に分かってもらわなければ試験を受ける事を認めてもらえない。体に虐待の後があるわけではないし、食事を制限されてやせ細っているわけでもない。ナーシャはあまり肉が付きにくく、元々細いから言い切れば⋯少し脳裏を掠めたけれど嘘は付けなかった。
こういう時の保護者欄の署名は、かなり慎重にお願いしなければならない。
後の後見人という形になるからだ。
とりあえずはその前に、試験を受けられるようにナーシャは学園長に手紙を認めた。
学園に着くと早速妨害が入る。
本人は妨害しているつもりはなく、おそらく昨夜帰ってこなかったことで、文句を言いたいだけだろうとナーシャには思えた。リリアはナーシャが惨めにトボトボと、歩いて帰ってくる事を狙ったのだ。
大袈裟に涙を見せて身振り手振りでナーシャを貶めるリリアが、ナーシャはとても気持ち悪い者に見える。
「まぁ!お義姉様。どちらに行かれたかと思ったら、シンシア様とご一緒なんて!どれだけ他家にご迷惑を⋯」
言葉が途切れたのは、近くにいた自身の友人の方によろめいて、支えられたからだが、彼女には他の思惑もあると思える。
途切れた言葉のその先を、聞こえた者に自由に連想させる。明確に言ってはいない。周りの想像力に委ねるやり方はリリアの得意技だ。
セシルもアリスもローランも、いつもその先に何かを想像して、ナーシャを遠ざけている。
案の定、周りからはヒソヒソと声が聞こえてくる。朝の馬車停めは、それなりに混雑していて、皆急ぎ足になるにも関わらず、今日の見物人は多かった。
ただ、今日のヒソヒソは少し違って見えた。
それをナーシャが確かめる暇もなく、シンシアから声がかけられた。
「付き合うだけ時間の無駄よ、ナーシャ行きましょう」
「⋯⋯えぇ」
シンシアと肩を並べナーシャはその場を去る。後ろから声が色々と聞こえるが、もう聞く必要はないと思えた。どちらの味方の声か知らないが、どちらにしろナーシャはもうあの家を出ると決めているのだから。
それにしても⋯⋯。
「まだ、学園に入学したばかりなのに、もう友人がいるのね」
いつも家にいてセシルやアリスにベッタリなリリアに友人がいる事に驚く。いつの間に親しくできる友人を、リリアは得ていたのだろうか?
「隣にいたあの子なら、子爵家のご令嬢だけど。親戚じゃなかった?」
「えっ?」
「ナーシャが知らないなら、それも材料にできるかもしれないわね」
シンシアの言葉で、子爵家のご令嬢がナーシャの縁石だと理解できた。そしてナーシャには紹介がないということも。
「はぁー」
「溜息は、未来を閉ざすわ。堂々と胸を張って!」
ナーシャの取り留めのない溜息も、シンシアは見逃さずに止めてくれる。そうだ!溜息なんて吐いている暇はない。
二人は急いで学園長室へと向かった。
「オリジエル侯爵令嬢、学園長室へ。あぁ食べ終わってからでいいのよ」
学園の事務員から伝言を受け取ったのは、食堂で昼食中の時だった。直ぐに立ち上がろうとしたナーシャを彼女は慌てて止めた。
周りにいる者には聞こえただろう伝言だが、なる丈大きくならないようにもしてくれた。
きっとそのように学園長が配慮してくれたのだと、ナーシャは推察した。
隣に座るシンシアが、拳を握ってナーシャに真剣な目を向けている。
(頑張れ!ナーシャ!)
シンシアの声が聞こえるようだった。
無言の励ましに勇気付けられ、ナーシャは学園長室に向かった。
学園長室では、先程の事務員がいて、彼女から様々な書類を渡された。
そのままソファに座るように促され、ナーシャが座ると学園長が対面に座り、事務員はナーシャの右斜め前の一人がけのソファに腰掛けた。
一つ一つの書類の説明が始まる。
全ての書類の説明が終わると、ようやく学園長が話しかけてきた。
「手紙は読ませてもらった。君の資格試験を執り行う事を決定した。書類が全て整い次第、その次の日が試験日だ」
学園長の言葉にナーシャは驚いた。
あまりにも早い展開に、ナーシャの気持ちが追い付かない。
いくら早くとも1ヶ月はかかるのではないかと予想していたのだ。
「わかりました。お認め頂きありがとうございます」
「書類は私に直接お持ちください。間に人を介さないようにお願いします」
事務員の言葉にナーシャは頷いた。
書類の紛失を防ぐためだと理解した。
書類を胸に抱いて、学園長室を出た時、確実に一歩進んだのだと大きく深呼吸をした。
コメント
2件

読んで頂きありがとうございます
うわあ、第6話、めっちゃ良かったです…!シンシアの「溜息は未来を閉ざすわ」って台詞、胸に刺さりました。ナーシャが一歩ずつ前に進んでる感じが伝わってきて、応援したくなりました。リリアの妨害も気持ち悪いくらい生々しくて、でもナーシャがもう動じない強さを見せてくれて嬉しかったです。次どうなるのか気になる…!