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「やっぱり飲ませすぎたね」
あのメールのせいでピッチが上がり、限界以上に飲んだ私は完全に酔いつぶれてしまった。
歩けなくなったのを見てホテルの部屋をとってくれた淳之介さんが、私を抱えるように部屋まで運んでくれた。
「せっかくだからスウィートルームにしたよ。ここなら寝室も二つあるしね。だから俺も泊まらせてもらうから」
言い訳のように言っているけれど、ここまで運んでもらっておいて文句なんて言うはずがないのに。
「ありがとう。素敵な部屋ね」
それにしても、高そうな部屋だなあ。
きっともう二度と来ることはなさそうな場所。
「大丈夫?お水持ってこようか?」
「うん」
私は素直にうなずいた。
幸せだな。
美味しいお料理を食べて、好きなだけお酒を飲んで、こんな素敵な部屋に泊まるなんて夢みたい。
ブブブ ブブブ。
淳之介さんの携帯に着信。
「ちょっとごめんね」と断って淳之介さんは部屋を出ていった。
***
それから数分。
廊下から時々淳之介さんの声がする。
もちろん何を話しているのかはわからないけれど、もめているのはわかった。
この時間、このタイミングでかかってくるってことは、おそらく私に関連すること。
バタン。
少し乱暴にドアを開け戻って来た淳之介さんの顔が険しい。
ああ、やっぱり。
私はそう思っても、何も言わなかった。
はあー。
大きなため息をつき、私が横たわるベットに腰かけた淳之介さん。。
「ため息なんて、ごめんな」
「いいのよ」
きっと、淳之介さんは私以上にしがらみが多いだろうから、悩みだって多いはず。ため息くらいで楽になるなら、いくらでもどうぞ。
「彼女の親父さんから家に連絡があったらしい」
「そう」
麗華らしいな。
昔から自分の欲しい物の為ならなりふり構わないところがあるから。
嫌がらせは、きっと私が淳之介さんのマンションを出るまで続くだろう。ああ見えて結構しつこいし。
ブブブ ブブブ。
今度は私の携帯に着信。
「えっ」
意外な人物の名前が表示されていて、声が出てしまった。
***
「どういうこと?何で荒屋がこんな時間に電話してくるの?」
淳之介さんに見せるつもりは無かったけれど、隣にいれば嫌でも目に入ってしまったらしい。
さっきから険しい顔をしていた淳之介さんの眉が、もう一段上がっている。
「そんなこと」
知りませんよ。
と言う前に、
プチッ。
淳之介さんが電話を切ってしまった。
「ああー、ちょっと」
いくらなんでも私の電話をかってに切るなんてひどい。
「何?荒屋に用事だった?」
「そう言うわけじゃないけれど・・・」
「じゃあいいでしょ。そもそも何で荒屋が璃子の番号を知っているの?」
「それは、この前食事に行ったときに連絡をとれるようにしようって」
連絡先を交換するくらい珍しいことでもないのに、今日の淳之介さんはイライラしている。
「ねえ淳之介さん、どうしたの?今夜のことで、お父様から何を言われたの?」
よほどの事じゃなければ、ここまで不機嫌になるのはおかしいもの。
「身辺整理をしろってさ」
吐き捨てるように言って、唇をかむ淳之介さん。
やはりそう言うことか。
私みたいな女が側にいたんでは麗華との縁談に差しさわりがあるってことだ。
***
「ごめんなさい、私のせいで」
「何で璃子が謝るんだ。璃子や登生と同居したのは俺の意志。それも嫌がる璃子を強引に誘ったんだぞ」
「それは・・・」
初めこそ拒んでいたけれど、今は自分の意志で同居している。
誰かから強要されて続けているわけではない。
「なあ璃子」
「何?」
「今でも璃子は俺のことが嫌いか?」
「私、嫌いなんて言ったこと」
「でも、好きではなかっただろ?」
それは、どうだろう。
『好きだ』と言う気持ちから始まった同居ではなかった。
住む所がなくなって、登生の為にも住む所は必要で、そんな時に『ここにいればいい』と言ってもらったことがうれしかった。
そして何よりも、登生に対して誠実に向き合ってくれる淳之介さんに心動かされた。
「確かにひとめぼれのような恋愛感情があって始まった関係ではなかったけれど、もともと嫌いだったわけではないし、今は好きですよ」
「え?」
絶対に聞こえたはずなのに、聞き返すように首を傾げた淳之介さん。
「私は淳之介さんが好きです」
今度ははっきりと聞こえる声で言った。
すると次の瞬間、
ギシッ。
私の体に押しかかった重み。
目を開けると、すぐ目の前にある淳之介さんの顔。
「俺も、璃子が好きだ」
甘くささやく声で言われ、言い終わらないうちに唇が重なった。
***
男の人って、ベットの上での姿が本性なのだと聞いたことがある。
だからこそ男は寝てみないとダメなのよって、大学時代の友人が言っていた。
私自身そんなに恋愛経験が多い方ではないから比べてみるだけの経験値はないけれど、昨夜の淳之介さんはとってもパワフルだった。
唇から始まって、体の隅々までゆっくりとじっくりと唇を這わせ、時々真っ赤な花を咲かせていく。
そうしているうちに私の弱いところを見つけては執拗に攻め立てる。
男女の関係が男と女の勝負とするなら、この勝負は私の負け。
完全に翻弄されてしまった。
「璃子、いいんだね?」
「ええ」
散々啼かされてドロドロになった私に、いまさら何を聞くんだって思いながらも素直にうなずいた。
そして、
ウッ。
迫ってくる圧迫感。
息が止まりそうな痛みの後、
「ウゥッ」
聞こえてきた淳之介さんの苦しそうな声。
この瞬間、私は淳之介さんと一線を越えてしまったことを実感した。
***
翌日、私はどうやって朝を迎えたのかの記憶がない。
何度も、何度も、求められ、啼かされ、声も枯れてしまった。
途中体力の限界を迎えた私は「もう無理―」と何度か訴えたはず、それでも淳之介さんの攻撃は止まることがなかった。
「りーこ」
まだ半分寝ぼけた状態の淳之介さんが、私を抱きしめる。
素肌から素肌に伝わる温もりに、ドキッとした。
どちらかと言うと細身で肉体派と言うより頭脳派って印象だった淳之介さんは、実は細マッチョ。
鍛えていると一見してわかるほどいい筋肉がついていて、私の体力なんて足元にも及ばない。
記憶の最後の方で、このままじゃ私が壊れると本気で考えてしまった。
「璃子、おはよう」
「おはよう」
やっと目が覚めた淳之介さんが体を起こす。
同時に布団が落ちて、素肌があらわになった。
ウワッ。
反射的に自分の布団を引っ張って、淳之介さんにかける。
ククク。
「今更?」
私の反応を楽しそうに笑う淳之介さん。
それでも、まだ慣れない私は顔を赤くするしかない。
「璃子」
恥ずかしくて視線を外した私に淳之介さんが近づき、耳元で名前を呼ばれた。
ん?
振り向くと、昨夜と同じ甘い視線。
マズイと思った時には遅かった。
***
昨夜散々抱かれ、クタクタになっていたはずなのに、目覚めてすぐの2回戦目。
もう自分で体を動かす元気もなくて、淳之介さんにお任せの状態。
それでも何度も何度も啼かされ、最後には指一本動かす力もなくなってベットに突っ伏した。
「ごめん、大丈夫?」
いつもの通りの優しい声で聞かれ、
ギロリ。
私は淳之介さんを睨み返した。
大丈夫かと聞くくらいなら、もう少し手加減をしてほしかった。
「もう無理だから」と何度も訴えたのに。
「ごめん、怒った?」
「・・・別に」
怒ったわけではない。
そもそも嫌なら、もっと抵抗したし、逃げ出すことだってできた。
私自身、淳之介さんとこうなることを望んだ。でも、だからって、限界があるでしょう。
「本当にごめん、今日はもうしないから」
「当たり前です」
これ以上襲われたら、壊れてしまう。
***
淳之介さんの手を借りてバスルームに行き、温かいお湯につかって何とか動けるようになった。
しばらく筋肉痛に悩まされそうだけれど、どうにか仕事にも迎えそう。
「璃子、朝食が届いたよ」
バスルームの外から淳之介さんの声がする。
「ハーイ、今行きます」
とりあえずバスローブを羽織って、私は部屋へと戻った。
「うわ、美味しそう」
色とりどりの野菜やフルーツ、たまご、ソーセージとベーコン。パンもドリンクも数種類ずつ並んでいる。
「食べようか?」
「ええ」
ちょうど窓の外から朝日が差し込む時間で、柔らかな日差しを受けて私たちはテーブルについた。
「このソーセージ登生も好きだったな」
「そうね」
「登生たち、朝食はどうするんだ?」
「近くのベーカリーからパンが届くらしいわ」
「へー」
せっかく一流ホテルに来て、高級モーニングを食べているのに、話すことは登生のことばかり。
なんだか倦怠期の夫婦みたいだなと笑いそうになった。
「今度は登生も一緒に来ような」
「ええ」
一応返事はしたけれど、そんな日が本当に来るんだろうか。
私たち、もう会えなくなるかもしれないのに。
***
本当に久しぶりに味わう倦怠感。
自分の望んだ結果である以上、そのことに文句を言うつもりは無い。
だから、仕事にだっていつも通り行くつもりでいた。
それなのに、「お店まで送って行く」と言われ、降ろしたらそのまま出社するものと思っていたら、一緒に『プティボワ』に入ってきて、終いには「すみません、璃子の体調がよくなくて送ってきました」と、わざわざ挨拶までしてしまった淳之介さん。
当然マスターは苦笑いしていたけれど、これだけ声がかれていればきっと何か気づかれたと思う。
「璃子ちゃん、無理せずにね」
「はい」
これはもう何かの羞恥プレーでしかない。
カランカラン。
「いらっしゃいませ」
あっ。
入って来たお客さんを見て、声が出そうになった。
「璃子ちゃん、電話が繋がらなくて心配したよ」
「・・・すみません」
カウンター席に座る荒屋さんにお水を出しながらペコリと頭を下げる。
まさか淳之介さんが切ってしまったと言うわけにもいかず、とりあえず謝るしかない。
昨日の麗華との件はきっと荒屋さんの耳にも入っているはず。そう思うと、少し怖いな。