テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ナオミが選んだ場所は、バスに揺られて三十分ほど走った郊外にある大型ファッションモールだった。
天井の高い吹き抜け空間には、十二月に入ったばかりの街を彩る巨大なクリスマスツリーが鎮座し、無数のオーナメントが眩い光を反射している。ショップからはお馴染みのクリスマスソングが流れ出し、休日の昼下がりを楽しむ家族連れや幸せそうなカップルで、モール内はどこもかしこも賑わっていた。
「まずはここでショッピングタイムね」
ナオミが迷いなく足を踏み入れたのは、穂乃果も何度か利用したことがある、若者に人気の雑貨チェーン店だった。
壁一面には、ホリデーシーズン限定のコフレやキラキラしたコスメアイテムが所狭しと陳列され、プチプラながらも心躍るデザインの商品が並んでいる。
「ナオミさんって、こういうお店にも来るんですね……」
高級ブランドの専門店ばかりに出入りしているイメージを抱いていた穂乃果は、少し意外そうな顔で店内を見回した。
「ええ。ブランド品だけが全てじゃないわよ。むしろ、こういう場所で掘り出し物を探すほうが楽しいのよね」
ナオミは慣れた手つきで新商品のコーナーをチェックしていく。その指先が捉えたのは、冬の限定色を集めたアイシャドウパレットだった。
「見て。このラメの輝き、冬の夜空みたいで凄く綺麗じゃない?」
「本当ですね! 私もこういう色、好きです!」
思わず身を乗り出した穂乃果に、ナオミは満足げに微笑んだ。彼女は次々と気になる商品を手に取り、「あーでもないこーでもない」と楽しげに吟味しながら、着々と籠を埋めていく。
「ねぇ、穂乃果。この色は? アンタに似合うと思うんだけど」
「わっ……可愛い! ……でも、私には少し派手すぎませんか?」
「大丈夫よ。アンタなら、これくらい華やかな色も絶対に使いこなせるわ」
そんな他愛もないやり取り。どこをどう切り取っても、仲の良い「女性同士」でクリスマス前の買い物を楽しんでいるような感覚に、穂乃果の肩からはいつの間にか緊張が抜けていた。
レジを待つ行列の時間さえ、不思議と退屈は感じなかった。ふと隣を見上げれば、ナオミが冬限定のフレグランスサンプルの小瓶を、館内の華やかな光に透かして眺めている。その横顔が、あまりにも凛として美しく、穂乃果は思わず見惚れてしまいそうになる。
(本当に……綺麗な人だなぁ……)
それと同時に、ふと思う。
昨夜の出来事は、やはり冬の夜が見せた幻だったのかもしれない。だって、今目の前にいる彼女は、どこからどう見ても、気の置けない女性の友人と休日を楽しんでいるようにしか見えないのだから。
この人の中身が、本当は男性だなんて――。聖夜を待つこの賑やかなモールの中で、一体誰が気づけるだろうか。
あや
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!