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あや
その後も、冬の新作ファッションを眺めたり、雑貨屋で『BLACK CAT』に飾るためのクリスマス小物を選んだりと、気付けば時間はあっという間に過ぎていった。
「もうこんな時間ね。どこかで休憩しましょうか」
ナオミの提案で、賑わうモール内を散策しながら飲食店を探していると、穂乃果の目に、ある店構えが飛び込んできた。
「あ……」
「どうしたの?」
ナオミが穂乃果の視線を辿る。そこには一昨日オープンしたばかりだという、若い女性たちで溢れかえるカフェがあった。窓越しに見えるのは、マシュマロのようなクリームがたっぷり載ったホットチョコレートや、宝石のように輝く季節のフルーツタルト。
「ふぅん。ここ、確か新宿で話題になっていたお店よね? SNS映えするって有名だったはずだわ」
「そう、ですよね。でも、凄い行列……」
かつての恋人、直樹はこういう店を毛嫌いしていた。「並ぶ意味がわからない」「行きたいなら一人で行け」と冷たく言い捨てられ、泣く泣く諦めたことが何度あっただろう。
本当は行ってみたい。けれど、我儘を言ってナオミに嫌な思いはさせたくなかった。
穂乃果が諦めてその場を離れようとした、その瞬間だった。
「入ってみましょ」
「え……。でも、凄く並んでますよ?」
「何? 嫌なの? 別にちょっとくらい待つのなんて平気よ。ネズミーランドの三時間待ちに比べたら、大したことないわ」
さも当たり前だと言うようにナオミは笑い、穂乃果の手首を迷わず掴んだ。
(……っ!)
暖房が心地よく効いた館内。コートの袖口から覗く素肌に、ナオミの指先が直接触れる。
女性の装いからは想像できないほど大きく、節のしっかりとした男性特有の質感。その指先が意外なほどひんやりとしていたのは、彼女(彼)が冷え性だからだろうか、それとも――。
直樹には、並んでいる間の沈黙さえ「無駄な時間だ」と責められているようで、生きた心地がしなかった。けれど、今のナオミの隣では、待つ時間さえも甘やかな期待に変わっていく。
(ナオミさんだから……なのかな)
強引にリードされているはずなのに、不思議と不快感はない。むしろ、自分があの手に触れられることを、心のどこかで待っていたのではないかとさえ思えてくる。
掴まれた箇所から、じんわりと全身に甘い痺れが走る。
ナオミに引かれるまま列に並びながら、穂乃果は赤くなった頬を隠すように、少しだけ俯いて自分の足元を見つめた。
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