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深冬芽以
署内の喧騒を抜け出し、私は土砂降りの雨の中へと飛び出した。
スマホの画面が、絶え間ない通知で熱を持っている。
街中の人々が、自分の潔白を証明するために他人の首を差し出す、醜い椅子取りゲームが始まっていた。
そんな中、届いた一通のメール。
送信者は、奈緒
10年前、彼女は私の唯一の親友だった。
一緒に図書室で勉強し、将来の夢を語り合った。
けれど、いじめが始まったあの日、彼女は美波に命令されるがまま
私の教科書を真っ先にシュレッダーにかけ、笑ってみせたのだ。
『助けて栞!私、何もしてないのにパンドラのターゲットにされたの!今、家の前に知らない人たちが集まってて……怖いよ! 栞なら、パンドラを止められるんでしょ!?』
「……何も、してない?」
砂を噛むような音が、喉の奥で鳴った。
何もしていないはずがない。
あの日、彼女が私の教科書を切り裂いた時の
あの震える手と、保身のために必死で浮かべた薄汚い笑顔を、私は一度だって忘れたことはない。
私は指示された住所——古びたアパートへと向かった。
そこには、すでに数人の「自称・正義の味方」たちが集まり、スマホでドアを撮影しながら罵声を浴びせていた。
「おい、出てこいよ! お前、10年前に親友を売ったんだろ?」
「SNSに証拠上がってんだよ!偽善者!」
パンドラがバラ撒いたのは、奈緒が美波に媚びを売り、私を嘲笑っている当時の隠し撮り動画だった。
人だかりを割って、私がドアの前に立つ。
野次馬たちが、喪服を着た私の異様な姿に一瞬怯んだ。
私は無言でドアを叩く。
「……栞!?栞なのね!」
鍵が開く音がして、引きずり込まれるように中へ入った。
部屋の中は荒れ果て、奈緒は震えながら床にうずくまっていた。
かつての面影はあるが、その顔は恐怖で酷く歪んでいる。
「栞、お願い、助けて!私は無理やりやらされてただけなの! 美波が怖くて、逆らえなかっただけで……本当は、ずっとあなたの味方だったのよ!」
奈緒が私のスカートの裾にすがりつき、涙を流す。
その手触りは、あの日私から教科書を奪い取った時と同じだった。
私は、ホワイトボードをゆっくりと彼女の眼前に突き出した。
『奈緒。あの時、私の教科書と一緒に、何を捨てたか覚えてる?』
奈緒の動きが止まる。
「……え?」
『あなたは、私の声じゃなくて、自分の魂を捨てたんだよ』
私がスマホを操作すると、部屋のテレビが勝手に点いた。
そこには、パンドラが仕掛けた「アンケート機能」が表示されている。
【審判:奈緒は許されるべきか?】
YES:何もしない。
NO:彼女が10年前に捨てた「一番大切なもの」を公開する。
「やめて……栞、やめて!お願い!」
私は、奈緒の絶望的な叫びを聞きながら、ある動画を再生した。
それは10年前
彼女が美波たちに気に入られるために、自分から進んで私の「ある秘密」を売っていた時の音声だった。
「……九条刑事も、これを見てここに向かってるよ」