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※失恋
ご本人様には関係ありません。
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四季。
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別れ話を切り出された日のことを、 僕はもう季節でしか思い出せない。 桜が散り終わったあとで、風だけがやけに優しかった。あなたはいつも通りの声で、「嫌いになったわけじゃない」と言った。その言葉が、いちばん残酷だということを、あなたは知らなかった。
僕たちは、ゆっくり壊れていった。音もなく、理由もなく、ただ温度が下がるみたいに。連絡の間隔が空き、会話の端に沈黙が増え、触れる手がためらうようになった。僕はそれに気づかないふりをした。気づいてしまえば、終わりが現実になる気がしたから。
あなたはよく笑った。僕の前では、前より少しだけ遠慮がちに。その笑顔を見るたび、胸の奥で何かが軋んだ。僕が好きだったのは、その笑顔そのものじゃない。僕だけに向けられていた、かつての距離だった。
最後に会った日、僕たちは駅まで一緒に歩いた。夕暮れのホームで、電車を待つ数分間、どうでもいい話をした。天気のこと、最近観た映画のこと。まるで、別れを延期できると信じているみたいに。
電車が来て、ドアが開いた。あなたは一歩踏み出し、振り返って言った。「元気でね」。それだけだった。僕は笑おうとして、失敗した。
帰り道、あなたからもらったものをひとつずつ思い出した。マグカップ、読みかけの本、眠れない夜に届いた短いメッセージ。どれもまだ温度を持っていて、捨てることも、抱きしめることもできなかった。失恋は、失うことじゃない。行き場を失うことだと、そのとき初めて知った。
夜になると、あなたがいないことが重くなる。隣にいたはずの人が消えると、世界はこんなにも広くて、冷たい。ベッドの端に残った空白が、あなたの形をしているのがつらかった。
それでも、時間は進む。朝は来て、季節は巡る。あなたの名前を口にしなくなった日、僕は少しだけ強くなったのかもしれない。でも、完全に忘れる日は来ない。忘れられないまま、生きていくしかない。
たぶん、あの恋は儚かった。けれど、確かに痛かった。それだけで、十分だったのだと思う。あなたを好きだった僕は、もういない。でも、好きだったという事実だけは、今も静かに息をしている。
黒くて綺麗な短髪、
前髪が少しかかった真っ直ぐできれいな瞳、
彼が僕に見せてくれたあの笑顔、
すべてを本気で愛していた。
彼はもう忘れてしまったかな。
風が吹くたび、散り終えた桜の枝を見上げる。何も咲いていないのに、なぜか胸が締めつけられる。失恋は、花が落ちたあとも、しばらく空を見てしまう癖を残す。
僕は今日も、あなたのいない季節を歩いている。
痛みを、思い出と呼べる日が来るまで。
ノベルかくの難しい…
読んでくれてありがとうございました!